光学顕微鏡や形態的特徴に基づいた分類が困難な細胞であっても、ラマン分光法と多変量解析(主成分解析)・クラスタリングを組み合わせることで分化状態の違いを判別できます。ラマン分光分析を用いた分析では、細胞の蛍光標識や染色を必要としないため、再生医療などの分野における細胞の管理や分化判別システムの確立に応用が期待されています。
倒立型顕微ラマン分光測定装置
倒立型顕微ラマン分光測定装置
ラマン顕微鏡を用いて、浮遊細胞であるミエローマ細胞を測定しました。類似しているように見えるラマンスペクトルですが、特徴的領域から分子構造の違いを識別し、細胞内小器官(A ~ G)ごとにイメージングしました。浮遊状態で培養された細胞でも、装置のステージを固定し、試料上でレーザーを走査して測定するDuoScan システムを用いることで試料を動かさずにマッピングが可能になります。
倒立型顕微ラマン分光測定装置
添加した薬剤が、細胞内で代謝される様子を観察するために、ヒト巨核芽球性白血病細胞 MEG-01sに抗炎症薬HQL-79を添加し、薬剤の分布の変化をラマン分光分析装置で確認しました。 従来は蛍光標識を用いて確認していましたが、ラマンイメージングにより、抗炎症薬の作用前後で薬剤が核膜に沿って円状に局在する分布の変化を確認できました。
倒立型顕微ラマン分光測定装置
集光されたレーザービームの焦点付近で起こる強い電場勾配によって引き起こされる力を使って、焦点面に粒子・細胞・リポソームを固定し、共焦点ラマンや蛍光などの顕微鏡測定を行うことが可能になります。
胃潰瘍の治癒には亜鉛(Zn)成分が関わっていると言われています。 胃潰瘍になったラットにZn を含んだ薬剤を経口投与し、胃を取り出してホルマリンに漬けた後、フィルムで挟み、分析を行いました。その結果、元素マッピング像から潰瘍辺縁部の微量元素を確認できました。
微小部X線分析装置 (X線分析顕微鏡)
ヘムの蛍光プローブ(目的の物質に化学反応し、蛍光を発したり、蛍光の色調が変化したりする機能性分子)は、数十秒で蛍光強度が一定になってしまうほど反応が速く、これまでは蛍光スペクトル変化を観察できませんでした。蛍光吸光分光装置 Duettaなら、秒単位でスペクトルが取れるため、蛍光スペクトルの変化が分かり正確な評価を行えます。
蛍光吸光分光装置
がんの発生に寄与する細胞接着因子と各標的分子との結合の強さ・速さ・選択制を解析しました。
細胞接着分子CADM分子群のCADM1は、多くの上皮がんにおいてがんの抑制遺伝子として機能する一方、成人 T 細胞白血病 (ATL)では、腫瘍細胞の組織浸潤を促進するといった、がんの抑制と浸潤促進の両方の作用を引き起こすため、がんの複雑な発生メカニズムやがん治療法の開発において注目されています。この細胞接着分子CADM1と他の細胞接着分子間の相互作用の結合・解離の動態の解析を行いました。
ラベルフリー生体分子間相互作用解析 OpenPlexを用いた解析により、ELISAで得られるような相互作用の有無の情報だけでなく、分子間相互作用のリアルタイムイメージングおよび結合・解離速度定数を解析することができます。
参考:Ito T, Kasai Y, Kumagai Y, Suzuki D, Ochiai-Noguchi M, Irikura D, Miyake S and Murakami Y (2018) Quantitative Analysis of Interaction Between CADM1 and Its Binding Cell-Surface Proteins Using Surface Plasmon Resonance Imaging. Front. Cell Dev. Biol. 6:86.
SPRi(表面プラズモン共鳴イメージング)
Clostridioides difficileの二成分毒素システムを構成するタンパク質CDTaおよびCDTbの結合に関して、pHの変化とイオンのある・なしの条件下で分子間相互作用解析を行いました。
CDTaとCDTbの相互作用を速度論量を用いて評価することによって、弱酸性・カルシウムイオン(Ca2 )存在下で複合体が安定化することが明らかになりました。OpenPlexを用いることで、速度論量を用いた定量的な解析が可能になります。
測定ご協力:京都産業大学 生命科学部 津下研究室
SPRi(表面プラズモン共鳴イメージング)
非結核性抗酸菌(Non-Tuberlculousis Mycobacterium:NTM)症は、結核菌(結核症)とらい菌(ハンセン病)以外の抗酸菌が肺に感染して起こる病気です。NTM症を引き起こす菌の一種である肺Mycobacterium abscessus complex(肺MABC)には3つの亜種が存在し、それぞれの対抗菌薬感受性が異なることから、これらを迅速かつ正確に鑑別する手法が求められています。
ラマン顕微鏡 XploRA PLUSを使用し、肺MABCの3亜種 (M. abscessus、M. massiliense、M. bolletii)のコロニーを測定したところ、脂質由来のラマンバンドや脂質とタンパク質由来のラマンバンドの強度が3亜種で異なっていることが確認できました(図1)。
また、多変量解析の一種であり、主成分分析を行ってデータ次元を削減し二次元散布図上にプロットした結果からは、M. abscessusはグループ内でのばらつきが大きく明確なクラスターは確認できませんでしたが、他の2亜種は明確なクラスターを形成しており、ラマン分光法がMABC亜種判別に適用できる可能性が示されました(図2)。このほかにも生存環境の異なる細菌叢中微生物の判別など、ラマン分光を利用した細菌の解析事例が報告されており、今後幅広い分野で、ラマン分光法のさらなる活用が期待されます。
ラマン顕微鏡
ラベルフリー分子間相互作用解析装置OpenPlexを用いて、腸管出血性大腸菌に関連する10種類のO抗原に対する抗体との相互作用を一度に判定することで、迅速な同定を可能にしました。
これまで一般的には、大腸菌と抗血清との凝集反応もしくはPCRを用いて血清型を判別していましたが、PCRは結果を得るまで時間と手間がかかる、凝集反応は結果の数値化が難しいといった課題がありました。OpenPlexを用いることで、大腸菌のO抗原を迅速に同定し、測定結果を数値化することができます。この手法によって約180種類ある大腸菌O抗原を一度の検査で判別できる可能性があり、臨床や公衆衛生の現場で使用される検査手法への応用が期待されています。
腸管出血性大腸菌に関連する10種類のO抗原に特異性を示す抗体をバイオチップ上に5スポットずつリガンドとして固定しました(図1)。腸管出血性大腸菌を含む試料をアナライトとして流し、相互作用を測定しました。O157に特異的な抗体にのみ相互作用が見られたことから(図2)、アナライトとした試料には腸管出血性大腸菌O157が含まれていることがわかりました。また、異なるO抗原を持つ腸管出血性大腸菌についても同様に、特異性がある抗体との結合を数値化することができました(図3)。
参考文献:YAMASAKI, Tomomi, et al. Development of a surface plasmon resonance-based immunosensor for detection of 10 major O-antigens on shiga toxin-producing Escherichia coli, with a gel displacement technique to remove bound bacteria. Analytical Chemistry, 2016, 88.13: 6711-6717. Copyright 2022 American Chemical Society
SPRi(表面プラズモン共鳴イメージング)
80の菌株から数千のスペクトルを計測した結果を判別率(CIR)としました(表1)。この判別結果をもとに、寒天培地上のコロニーを前処理なく直接ラマン分光分析を行い、微生物10種類を90%以上の精度で判別することができました(図1)。
非侵襲・非破壊で分析できラマン分光分析は、分析後に別の分析をすることも可能です。培養開始から早ければ6時間後には検査が可能になるため、迅速な臨床診断への応用などが期待されます。
ラマン顕微鏡
体外診断用医薬品( IVD in vitro diagnostics )は、ラテックス粒子などのナノスケールの粒子を担体として生体内物質の抗原抗体反応による凝集を用いて診断を行います。 一方で自己凝集や検査対象物以外との凝集は使用期間の短期化や誤った診断につながるため、凝集性は厳密に管理する必要があり、分散性・安定性評価の観点から、その定量を求められています。 二量体は体積比で元の粒子径の1.26倍になり、その分量を見分けられるかが重要です。 100 nmのPLS粒子とその二量体と同じ体積であるPLS粒子を用い、二量体が存在しているときに判別できる性能があるかどうかを模擬的に確認しました。 その結果、サイズに一量体と二量体レベルの差しかないナノ粒子の混合比の違いをメジアン径の違い・分布の違いから、見分けることができることがわかりました。
100nmPSL(標準粒子)と125nmのPSLの混合比を10%ずつ変えたものを、メジアン径の違い・分布形状の違いから、見分けることができました。
【粒度分布】レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置 LA-960シリーズ
ラテックス凝集法とは、特定の抗原と特異的に結合する抗体をラテックス粒子に吸着させた試薬を用いて、その抗原が存在する条件下で生じるラテックス粒子の凝集を測定することによって抗原濃度を検出する手法です。一般的に、抗原濃度は生化学自動分析装置などを用いて、凝集による濁度の変化を測定し、既知濃度の標準液を用いた検量線から求めます。より精度の高い測定を実現するために、凝集物の個数基準濃度と凝集物の大きさを測定しました。
凝集物の個数濃度に基づいて凝集反応量を把握し、凝集物のサイズを粒子径分布から把握することで、濁度を用いた抗原濃度測定とは異なり、高濃度の抗原が存在する際にもより高精度に抗原濃度を測定することが可能になりました。
ナノ粒子径分布・濃度測定装置