抗体医薬品は、タンパク質同士の相互作用によって構造変化や凝集が起こる可能性があります。ラマン分光法なら、高濃度で取り扱え、凝集がおこりやすい抗体医薬品を希釈せず測定でき、実際の処方と同じ状態でタンパク質の安定性やコンフォメーション* の情報が得られます。
* コンフォメーション:分子中の単結合の回転によって異なる構造が生じる場合の各原子の空間配列のこと
参考文献:Assessment of the Protein-Protein Interactions in a Highly Concentrated Antibody Solution by Using Raman Spectroscopy, Ota et al, Pharm Res. 2016 Apr;33(4):956-69.
また、Tyr に起因する856 cm-1 と830 cm-1 のピーク強度比(チロシンダブレット)はIgG 分子同士の相互作用により濃度の増加と共に増大し、80 mg/mL を超える濃度で過飽和状態となりました。
Trp に起因する1555cm-1 のピークの半値幅が濃度の増加とともに増大することが確認されました。 これはタンパク質の濃度が高くなるとタンパク質分子同士の相互作用によってねじれ角が変化し、ねじれ角の分布の幅が大きくなることでピーク幅が広くなると推測しました。
顕微ラマン分光測定装置
抗体のpH影響評価と熱安定性解析を行いました。ラマンスペクトルを解析することにより、抗体の凝集性に関連する構造変化や安定性の評価が可能です。
pH3または、酸処理* 後pH7に戻した溶媒条件において、Tyrのピーク強度比が顕著に小さくなりました。これは、静電的反発の影響により、酸性条件下で分子間相互作用が弱まったことを示唆しています。
*pH3溶液中で室温で1時間インキュベート
高濃度の抗体溶液を加熱すると、温度上昇に伴ってラマンスペクトルの信号強度が減少しました。タンパク質の二次構造を反映する Amide I バンドに着目して転移温度を算出することで、各pH条件における熱安定性を定量的に解析できました。
顕微ラマン分光測定装置
温度と抗体凝集の関係を、個数濃度による粒子径分布から把握することで、製剤・保管・運搬条件の決定や安定性評価に役立ちます。加温前はほとんど存在していない凝集物(数百 nmの粒子)が、加温により著しく増加する様子が、粒子径分布と画像の両方で観察できました。
ナノ粒子径分布・濃度測定装置
表面プラズモン共鳴イメージング(SPRi) 装置を用いて、多数の抗体をリガンドとし、受容体タンパク質(FcRIIIa)をアナライトとして流すことで、相互作用を一度に解析できました。リアルタイムイメージング(図1)により、結合の定性的な結果が迅速に得られるため、抗体医薬品の開発などにおける多検体のスクリーニング用途での活用が期待できます。
同時に、カイネティックスカーブ(図2)から反応速度論的パラメータを測定することで、結合の強さ、結合/解離速度、持続性といった相互作用の情報を定量的に比較することができました。
試料ご提供:東京大学大学院 工学系研究科 津本研究室
SPRi(表面プラズモン共鳴イメージング)
細胞培養や、バイオ医薬品・ワクチンの製造においてプロセス中成分変化の正確な評価が求められています。蛍光分光技術 A-TEEM*2(試料の蛍光と吸収を同時に測定し、真の励起・蛍光スペクトルを得るHORIBAが開発した測定技術)とケモメトリックス(スペクトルデータ解析)を組み合わせることで、培地成分の経時変化を短時間・低コスト・高感度で評価できます。A-TEEM 測定は、蛍光と吸光度を一台で測定し、蛍光強度を自動で補正するため、吸収の大きい高濃度の試料で蛍光強度が低くなる場合でも、真の蛍光強度値を得ることができ、高感度な分析を可能にします。
三次元蛍光測定装置
細胞培養培地(EXCELL®*: Ex-Cell CD CHO Serum-Free Medium for CHO Cells )について、推奨温度・遮光状態で保存した培地と、室温・露光状態で保存した培地の劣化や経時変化の違いについて評価を行い、温度と露光の影響により生じたと考えられる培地の劣化を判別しました。
推奨温度・遮光状態で保存された培地は、2日または5日が経過しても、0日と同様のスコアが得られました。しかし、室温・露光状態で保存した培地では、PCAのスコアに顕著な変化があり、分解による組成変化の傾向を捉えることができました。この結果から、EXCELL培地の室温・露光状態による保存により培地の劣化が生じたと考えられます。
* EX-CELLはSigma-Aldrich Co.LLCの登録商標です。
三次元蛍光測定装置
独自に開発したラマンプローブを反応槽へ取り付けることで、バイオリアクターなどのリアルタイムモニタリングが可能です。 光源・分光器を分析室に設置し、ファイバー接続を介して反応槽に導入することで、遠隔の集中管理室などデータの管理をすることもできます。 リアクターへ浸漬するプローブや、分析窓越しに測定するプローブなど、測定対象に合わせたプローブ設計が可能です。また、高温・高圧状態や特殊環境で使用可能なモニタリング装置の幅広くラインアップしています。
赤外吸収や近赤外分光法では致命的な障害となる水の影響が問題とならず、含水試料を測定できる
最大4系統まで測定が可能、微量成分の検出も可能
ラマンのスペクトルは特徴的であり、水分量・粒子径・粒子密度の変化による影響も少ないことからNIRより解析が容易
オンラインTOC計
微量サンプリングpHモニタ
パネルマウント形2ch電気伝導率計(導電率計)
挿入センサ(低濃度用)
デジタルマスフローコントローラ
小型流量センサ
小型流量コントローラ
フロースルーセンサ(高濃度用)