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ザ・大統領戦2024:中西部人はナイスガイ──意外な印象で盛り上がったVPディベート

投票日が1カ月後に迫った10月1日、副大統領候補同士のディベートがTV放送された。そこでは、猛烈な勢いで毒を吐くトランプの言動にすっかり麻痺していたことを思わず再確認させられるほど、品のよい、統制の取れた、在りし日の「言葉の応酬」がなされていた。今回のディベートは、今後にどのような影響を及ぼすのだろうか。デザインシンカー・池田純一が掘り下げる。
ザ・大統領戦2024:中西部人はナイスガイ──意外な印象で盛り上がったVPディベート
PHOTO-ILLUSTRATION: Alex Wong/Getty Images, WIRED JAPAN

ペンスではなくヴァンスが“いる”意味

大統領選のある年の10月は「オクトーバー・サプライズ」が期待される月だ。投票日を1ヶ月後に控え選挙戦の状況を一気に覆す「驚き(サプライズ)」の事件のことだが、今年の場合は、10月に入り即座に、いわゆる「J6事件」のメモリアル、すなわち、2021年1月6日(=J6)に起こった連邦議事堂襲撃事件を回顧させるイベントが続いた。

なにしろ4日連続の「4連発」である。ティム・ウォルツ、ジャック・スミス、リズ・チェイニー、ジョー・バイデンの4人が次々と、J6事件の恐怖を有権者に思い出させる発言を行った。しかもいずれも異なった舞台においてだ。狙いはどれも「J6事件を引き起こしたトランプは憲法を無視する男でおよそ大統領にはふさわしくない」という認識を再燃させることにあった。

民主党の副大統領候補ティム・ウォルツ。

Photograph: Michele Crowe/CBS via Getty Images

始まりは、10月1日に行われたVP(=副大統領)ディベート。終盤も残り5分となったところで、カマラ・ハリスのランニングメイトであるティム・ウォルツが、ディベート相手であるJDヴァンスに対して、「トランプは2020年大統領選で負けたのか?」とストレートに尋ねた。ヴァンスは「私は未来のことに集中している」とはぐらかし、明確な答えを避けたのだが、これを好機とばかりウォルツは、「だから、今、ペンスではなくヴァンスがここにいる」と辛辣に言い放った。しかも視線は視聴者に向かって。ペンスとは、もちろん、トランプ政権で副大統領を4年間務めたマイク・ペンスのことだ。

J6事件の当日、ペンスは、トランプから「選挙結果を覆し、俺が当選したという結果として承認しろ」と命じられていたが、それはさすがに憲法違反で無理な相談だと、その命令を拒んだ。知っての通り、その日、今まさに「2020年大統領選でバイデンが勝った結果を承認する」ために議員が集まった頃を見計らって、トランプのスピーチによって鼓舞された集団が議事堂に殺到した。MAGAの暴徒が雪崩のように押し入り、議事堂内部を破壊してまわった。議員やスタッフは逃げ回り、その様子はスマフォで中継されもした。議事堂外部では警官と暴徒が衝突し、なかには死傷者もでた。

Photograph: Jon Cherry/Getty Images

そんな喧騒が支配した議事堂でペンスは、「ペンスを吊るせ!」という掛け声が響く中、それでも「バイデンの勝利」を承認した。それが、憲法に誓って就任した副大統領がすべき責務だったから、という理由で。

その後、ペンスは、トランプと完全に袂を分かち、2024年大統領選には独自に立候補した。周知の通り、予備選はトランプの勝利で終わったが、ペンスは今年のRNCには現れず、もちろん、トランプのエンドースもしていない。彼に限らず、J6事件は共和党内部に、少なくとも公職に就く上層部の間に、深刻な亀裂を入れた。ネバートランパーたちに、トランプを公に非難するための明確な大義を与えた。トランプは立憲民主制を破壊する蛮族であると。ネバートランパーの拠点であるLincoln Projectが、いかにも共和党の選挙広告にありがちなおどろおどろしいトーンで、トランプを罵倒し続けるのも、J6事件の惨状に打ちひしがれたためである。

ウォルツが、ヴァンスに向けて言い放ったのはまさにこのことだった。

Photograph: Chip Somodevilla/Getty Images

トランプに対する敵愾心をあらわにしたペンスに代わって、新たにトランプに忠誠を誓ったヴァンスが今年のランニングメイトになった、その事実だ。もちろん、全米の視聴者に向けて発した皮肉だが、しかし、トランプシンパにはそんなことは関係ない。

実際、トランプに忠誠を誓わなければ今の共和党ではやっていけない。ヴァンスだけでなく、その週末の報道番組に登場した現職の共和党政治家であるトム・コットン上院議員(アーカンソー州選出)やマイク・ジョンソン下院議長(ミシシッピ州選出)にしても、ヴァンス同様、トランプの敗北を認める発言を執拗に避けていた。この質問については、呆れるくらい不毛なやりとりが、「トランプは負けたのか?」と問う報道番組司会者と、コットンやジョンソンのようなMAGA議員との間で繰り返されている。

そこから得られる結論は、それだけトランプのことが怖いということだ。そう考えるしかない。そういえば、上院議員の再選を目指すのをやめたミット・ロムニーも、トランプの弾劾裁判で有罪にイエスと投じて以後、自分だけでなく家族やスタッフへの脅迫も増え、身辺警護の費用も跳ね上がったといっていた。

こうして最後の5分でヴァンスは、それまで優位に進めてきたディベートの成果を一気に台無しにした。立て板に水の、まるで学生ディベートのお手本のような答弁をしてきたが、最後のやり取りで一転して、不誠実である、というイメージを残してしまった。

もっとも、最後の5分が決定的だった、という印象も、その後の3日間を経てから振り返ったときの見方であることも否めない。ディベートを終えた時点では、この最後の「トランプの勝敗」に関するやりとりは、全体の一部でしかなく、ヴァンスの優勢は変わらないと、そのときは思ったのも事実である。ウォルツは普段のヴァンス批判から期待されたような優位をもぎ取ることができなかった。ディベート後の調査でも、よくてイーブン、優勢だったのはヴァンス、というものが大半だった。

党よりも国が大事

だが翌日からの一連の動きを見ると、実のところ、ディベートにおいてウォルツに課せられていた任務とは、そもそも最後の質問をすること「だけ」だったのではないかと思えてしまう。次の日から本格化する波状攻撃の第一弾だった。その後の3日間を予告する「ティザー」だったのである。

実際、続く10月2日には、ジャック・スミス特別検察官によって、トランプに対する新たな「J6事件の起訴」が提出された。

ジャック・スミス特別検察官。

Photograph: Drew Angerer/Getty Images

去る6月、保守派判事が9人中6人を占める最高裁で、「大統領の公務における免責」を支持する判決が出され、一度は、スミス検察官が提起した「トランプがJ6事件となる暴動を扇動した」とする起訴は見直しを迫られた。その後、起訴内容を再検討した上で改めて提出されたのが、今回の起訴だ。その基本的な視点は、1月6日の議事堂事件にかかわるトランプの言動は、大統領の「公務」から発したものではなく、「(敗れた)大統領候補」という「私人」としてのものだった、とするもので、そのために慎重にトランプの発言も仕分けられていた。たとえば、「ペンスを吊るせ!」とがなり立てる暴徒に囲まれた議事堂の報告を受けて、トランプが「So What?(それがなにか?)」と答えた事実も記されている。

トランプはこの起訴に対して、これまでと同様に「バイデン政権による司法の武器化だ」と非難したが、しかし、この起訴が選挙前の10月になったのは、6月の最高裁判決によって起訴内容の見直しを迫られた結果だった。

Photograph: Michael M. Santiago/Getty Images

ジャック・スミス検察官からすれば、起訴するなら、選挙前の10月がギリギリのタイミングだった。それでも、選挙直前の10月下旬を避けたところに、むしろ可能な限り「オクトーバー・サプライズ化」させない配慮があったと取るべきなのだろう。

ともあれ、こうしてJ6事件に再び関心が高まったところで、さらに翌日の10月3日、リズ・チェイニーが、ウィスコンシン州リポンで開催されたカマラ・ハリスのラリーに登場した。ラリーのテーマは“Country over Party(党よりも国が大事)”だった。リポンは1854年に共和党が誕生した由緒ある街であり、意外なことにリズ・チェイニーもウィスコンシン州で生まれたのだという。リズにとっては二重の意味で縁のある土地だったわけだ。

民主党の大統領候補カマラ・ハリス(左)と、21年まで下院共和党会議議長を務めていたリズ・チェイニー。

Photograph: Jim Vondruska/Getty Images

リズのスピーチは、基本的に、J6事件を引き起こしたトランプは大統領にふさわしくない、というもので、前日に提出されたジャック・スミスによるトランプの起訴の内容を部分的に反復するものだった。だが、それも当然で、リズは、J6事件調査委員会の副委員長だった。DNCでスピーチしたアダム・キンジンガーもその委員会の委員だったが、J6事件は一部の共和党員にトランプに対する反意を抱かせるのに十分な事件だったわけだ。

そうして、最後に10月4日、突然、ホワイトハウスのブリーフィングルームに現れたジョー・バイデン大統領は、記者からの質問を受けて、今年の大統領選について、「フリーとフェア」となるのは認めたものの「ピースフル」になるかどうか、すなわち、平和裏に終わるかどうかについては不明でトランプ次第と答えていた。

Photograph: Anna Moneymaker/Getty Images

バイデンがブリーフィングルームに現れたこと自体、サプライズだったのだが、そこでのやりとりは、バイデンなりにJ6事件の選挙への影響を確認するものだった。もう一つ、この質疑でバイデンが明確に「トランプ」という名を口にしていたのも印象的だった。大統領候補の頃は「前大統領」というなどトランプの名前はぼかしていたときとは大きな違いだ。これは現職大統領として11月5日以後の混乱を警戒してのことでもあったのだろう。すでに共和党は、ジョージアなど激戦州において投票所の監視を行うなどの動きにでている。11月にトランプが負けた場合も想定して各地に弁護士を配置し、即座に票の数え直しなどの要請を行える体制も用意している。

『シビル・ウォー』の世界が実現する!?

このように10月の第1週は、カマラ陣営からすれば、結果として、J6️の恐怖を呼び起こし、トランプの危険性についてリマインドをかける一週間となった。トランプが負けたなら2020年の時以上の抵抗劇が始まる、という警鐘だ。

J6事件のときは、トランプは現職大統領ということもあり、ペンス副大統領に対して「選挙人による承認を覆し、トランプが勝ったことにしろ」と命じただけで、暴動が起こってもしばらくの間それを静観することで済んだが、今回は、現職大統領ではないため、より直接的な行動に訴えるのかもしれない。そういった恐怖である。映画『シビル・ウォー』の世界が実現するかもしれないという懸念である。

開票はどれくらいかかるのか? トランプの抵抗はいつまで続くのか? 勝利したとしてもカマラは本当に就任できるのか? 2020年にあった不安の反復だ。2021年1月6日の事件は、政治家トランプにとっても分水嶺だった。

こうした10月第1週の空気を理解した上で、10月1日のVPディベートを簡単に振り返っておこう。というのも、このディベートは、識者によってはただのVPディベートではなく、2028年大統領選に向けたヴァンスの最初のディベートだと見る向きもあるからだ。すでに「トランプ後」の世界が動き始めているのである。

Photograph: Michele Crowe/CBS via Getty Images

当日の様子は、40歳のヴァンスが、60歳のウォルツに胸を借りる、という建付けであり、同時に、PTAのディベートに立った、弁護士の父親と、スポーツコーチの父親との対決というような趣だった。ディベートがもともと法律家の技能養成のためのものであることを考えれば、ヴァンスには「ホーム」、ウォルツにとっては「アウェイ」なゲームだった。

実際、立て板に水のごとく淀みない答弁を繰り返すヴァンスに対して、ウォルツは、終始、普段の彼からは想像できないくらい、オドオドして神経質そうにしていた。ヴァンスからすればこのディベートは、トランプーヴァンスのチケットが理にかなっていること、エクストリームではないこと、全米の女性に敬意を払っていること、こうしたことを伝えることがミッションだったが、ヴァンスは見事にその役目を果たしていた。

ただ、これは全くの想定外のことではあったのだが、終わってみれば、ヴァンスもウォルツもともに、互いに相手の発言にうなづきながら議論を進めるという、誰もが目を見張るくらい穏やかなものであった。「ミッドウェスト・ナイス」つまり、中西部人の温厚さがふたりとも素で現れたようなやり取りだった。

トランプの話術の本質

ディベートといえば、すっかりウォルツがヴァンスをやり込める「泥レス」を想像していたが、そんな私たちは、いかにトランプに毒されてしまっていたことか。ヴァンスとウォルツのVPディベートは、在りし日のテレビディベートを思い出させた。日頃はけなしていても、直接向き合ったなら酷いことは言わない、できるだけ共通の土台があることを認め合う、そんな品の良い、統制の取れた言葉の応酬である。裏返すと、トランプのように、公然と嘘八百を並び立て、相手のことを貶し続けるような政治家はそうそういないのだ。そのことを思い知らされた。

2020年以来、マスメディアが、トランプをまるで猛獣のように檻に入れ、幾重にもフィルタをかけて報道するようになってしまった結果、トランプの持つ毒や悪徳も無臭化され、地下に潜ってしまった。トランプラリーに足を運んだり、Trueth Socialを日々チェックしたりでもしない限り、トランプのことがわからなくなってしまった。マスメディアの多くはトランプについてはできるだけ触れない素振りが身についているように思える。いろいろなことが、そうやって惰性で語られるようになった。今年の大統領選が7月にバイデンからカマラに民主党の候補が代わるまで、全く盛り上がらなかったのも、マスメディアを含めて多くの人が、こんなものだろうと、見限っていたことも大きい。

そんな中、今回のVPディベートは、テレビディベートの原点を思い出させるものだった。意外とトランプ後の世界では、トランプ以前のようなスタイルの政治が復活するのかもしれない。そんなふうにも思わされた。

逆に、このVPディベートを見てから、9月10日のカマラとトランプのディベートを振り返って改めて感じたことは、トランプの発言は、その場限りのデタラメばかりであった、ということである。

Photograph: Chip Somodevilla/Getty Images

過去の大統領選ディベートでは、たとえば2016年のときは、ヒラリーがあからさまにトランプをバカにした態度を示したり、2020年では、バイデンから古式ゆかしい高齢政治家の語り方がされたりしたため、それら普通の政治家の語り口に抵抗するために、トランプが「わざと」癇癪持ちを演じていたようにも見えなくもなかった。つまり、意図して、あえて戦略的に嘘をついているように見えなくもなかった。

しかし、今年の場合はだいぶ違った。カマラがかつて現役の検事であったことを視聴者にデモンストレートしようと、抑制された法律家の口調をとり、視聴者を陪審員に見立てているような答弁をしたことで、トランプの発言が、その場しのぎのものばかりであることが目立ってしまった。

トランプの話術の本質は「ライブ感の重視」であり、その結果、トランプの発言を聞く相手に対して、いちいち詳細を気にしても仕方ない、真面目に取り合う方が疲れる、話半分で聞くくらいがちょうどいい、という姿勢を、知らず知らずのうちに学習させてきた。だから、視聴者=有権者の方が自発的にトランプのおかしさに鈍感になってしまった。その結果、ヴァンスとウォルツの穏やかな応酬にむしろ驚いてしまった、という次第である。

Photograph: Anna Moneymaker/Getty Images

そうしたトランプの「デタラメ」ぶりは、面白いことに、ヴァンスを間に挟むとより鮮明になる。

「持てる者」と「持たざる者」

トランプが、カマラとのディベートの際に口にした「ペットの犬や猫を食べるハイチからの違法移民」という与太話は、その場所がオハイオ州スプリングフィールドであることからわかるように、もともとはヴァンスが仕入れてきた話だった。そのため、ディベート後はヴァンスが、その主張の妥当性をメディアに対して説得する役を引き受けることになった。

ところが彼のメディアとのやり取りを見ると、まるでトランプの擁護にたった弁護士のような発言を繰り返すため、逆に、トランプの与太話が、ただのデタラメから、明確な嘘であるように見え始めてしまった。適当に聞き流せなくなったのだ。

その最たるものが、CNNのニュースアンカーであるダナ・バッシュとの論争。彼女とのやり取りの中でヴァンスは、ハイチの話は自分で作った、メディアの注目を得るように「盛った」と自白したとも取れる発言──識者によっては「失言」──をしていた。これくらい同じことを言っても、トランプとヴァンスでは言葉が纏う空気が微妙に異なるのだ。

それぞれの生まれを考えると、トランプはhaves、ヴァンスはhave-nots。「持てる者」と「持たざる者」との違い。その差が、嘘の違いに出ている。というか、トランプの場合は、嘘というよりも「でまかせ」の方が適切だろう。「いじめっ子のトランプ」に対して「嫌われ者のヴァンス」といえばよいか。

トランプは、そもそも本当かどうかにはさして関心がない。「口からでまかせ」というとおり、彼の口からでた言葉が、彼にとって常に真実。その場のノリでウケの良いことを言っているだけのこと。対してヴァンスは、わかっていながらあえて「嘘」をつく。弁護士の態度そのものだ。

そもそもヴァンスにとって「知的である」ことや「知的に見える」ことは生命線だ。何も持たずにどん底の街で生まれた彼にとって、知性は、彼が成り上がるための最大の武器だった。だから、本質的に彼はバカにされることを嫌う。そこが知性などというものに全く無頓着なトランプと決定的に異なるところだ。ヴァンスの弁論の核にあるのは、基本的に自己弁護のための反論である。

トランプは、ドラ息子のいわゆるボンボン。対してメリトクラシーをプレイするしか成り上がる手がなかったのがヴァンス。だから利になると思えば平気で前言を覆し、転向も躊躇しない。インド人のカマラ・ハリスが大統領になるとホワイトハウスがカレー臭くなるという極右の要人ローラ・ルーマーの人種差別的な暴言を聞いても、自分の妻がインド系であるにもかかわらず、平然と受け入れ、公の場でも特に不満を述べるわけでもない。

トランプにとってウォートン・スクール──アイビーリーグの一校であるペンシルヴァニア大学のビジネススクールで、ハーバードともに名門ビジネススクールとして知られる──に行ったことは、単なるボンボンの箔付けのひとつでしかないが、ヴァンスにとってイェール・ロースクール卒という肩書は彼のキャリアの集大成である。だから、ヴァンスは、VPディベートの席でも、トランプのように暴言によって相手を煙に巻きつつ場を制する、といった蛮勇をふるうことができない。それでは自分がバカに見えてしまう。ヴァンスは、どこまでも自分が、知的なエリートに加わることができたというプライドを手放すことができない。だから、トランピズムの理論化を図り、New Rightやナショナル・コンサバティブのイデオローグにはなれても、それらをトランプのような派手なパフォーマンスとして示し、観客を自分の懐に取り込むことができない。

今回のVPディベートではヴァンスのそうした小市民的なメンタルの特徴も垣間見られた。今すぐそのことがなにかに影響するとは思いにくいが、この先、JDヴァンスという政治家とつきあっていく上で、出発点となるイメージが得られた機会だった。

それにしても、中西部人は穏当だ、善良な人たちだ、というステレオタイプなイメージがここまでくっきり浮き上がってくるとは。アメリカという国が、お国柄の異なる州の連合体であることを思い出させる、少しばかり「ほっこりとした」エピソード、それが今回のVPディベートで誰もが感じた「裏」のメッセージだった。

Photograph: Anna Moneymaker/Getty Images

※連載「ザ・大統領戦2024」のバックナンバーはこちら。(2024年3月以前の連載「ポスト・レーガンのアメリカを探して」のバックナンバーはこちら)。『WIRED』による米大統領選挙の関連記事はこちら

池田純一 | JUNICHI IKEDA
コンサルタント、Design Thinker。コロンビア大学大学院公共政策・経営学修了(MPA)、早稲田大学大学院理工学研究科修了(情報数理工学)。電通総研、電通を経て、メディアコミュニケーション分野を専門とする FERMAT Inc.を設立。2016年アメリカ大統領選を分析した『〈ポスト・トゥルース〉アメリカの誕生』のほか、『ウェブ×ソーシャル×アメリカ』『デザインするテクノロジー』『ウェブ文明論』 『〈未来〉のつくり方』など著作多数。


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