不況下だからこそ本末転倒は避けるべき  ~榛名 信夫~

From member’s Voice
ゴルフが日本で始まってから100年が経過しようとしている。当初、ゴルフは特定の人、裕福な人しかできないスポーツであった。現在は庶民的スポーツとして認められてはいるものの、「真のスポーツ」としては、まだ受け入れられていない。
そこで、フロムメンバーズボイスでは、会員4名に「日本のゴルフ界をさらに発展させていくには何が必要なのか?」を主たるテーマとして、助言、提言などの意見を寄せてもらった。


 

政府の経済見通しはどうあれ、ゴルフ場はいまだに死活をかけたサバイバル状態が続いている。バブルの崩壊からここに至るまでにゴルフ場は、人数の削減、給与体系の変更など、様々な対策をたててきた。経費のかかるキャディ制を廃止し、乗用カートによるセルフプレーを採用するゴルフ場が増えたのもその現れである。
しかしここ数年、いきすぎた人数削減が、コースの状態に影響を与えるようになってきたことも無視できない。
かつて、ゴルフ場の管理スタッフは、1ホール1人というのが一般的だった。18ホールなら18人前後で、そこに女性の事務員やパートが加わっていた。それが現在、平均すると12~13人、少ない所では10人未満というゴルフ場まで出てきている。事務員もいない所が増えているので、実質は3分の2かそれ以下となっている。
これまでのゴルフ場管理の思想は、広大な面積の隅々まできれいにしようというものだったから、とても現有のスタッフでは達成できない。加えて経済的な見地と社会的な見地が複合されての薬剤使用の制限もあり、結果として、「荒れ」の目立つゴルフ場が増えてきてしまった。
私個人的には、バブルの時代が日本のゴルフ界に残した最大の遺産は、世界的な設計家による作品と考えているが、そうしたゴルフ場も維持の困難さから変質を余儀なくされている。
問題は、その向かっている方向である。
あるゴルフ場では、その有名設計家の特徴でもあるマウンドを、見るかげもないほど平らに改造した。これも従来のままではほとんど手作業となる管理の方法を、現実に即した形に改めたというのかもしれない。それに、良いスコアが出る方が客が喜ぶからと、営業面からの指示があったのかもしれない。
でも、それでいいのだろうか。
ゴルフ場、特に会員制のクラブとして要求されるのは、ショットの良否を判断するコンディションであり、デザインなのである。それがなければ、ゴルフ場のチャレンジ性というのは生まれない。ゴルフ場が管理の問題で荒れたといっても、今までが行き過ぎた手入れだったのだ。これまで日本にはあまり存在しなかった「ラフ」の登場は大歓迎である。ラフかフェアウエイか、ショットのバリューの違いは明確に出てくるのだから。
しかし、グリーンのグレードは落とすべきではない。また改造も、ただ難しさを避けて好スコアが出るように、というのでは困る。
要はスポーツとしてのゴルフの本質を見据え、メリハリのあるメンテナンスを実践していくことである。
ゴルフがあったからリンクスができたのではなく、リンクスがあったからこそゴルフというスポーツができたのだ。日本の将来のゴルフの方向性を決定するのも、現在のゴルフ場の管理・運営にかかっているといっていい。高度な技術を育てる場としてのゴルフ場のありかたについて、我々も考えなければいけない時期ではないだろうか。

〈プロフィール〉榛名 信夫(はるな しのぶ)
1948年東京都生まれ。中央大学卒業後、ゴルフダイジェスト社入社。86年からフリーに。ゴルフ場の管理運営、会員権などを中心に執筆。