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エリダヌス座

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
NGC 1532から転送)
エリダヌス座
Eridanus
Eridanus
属格 Eridani
略符 Eri
発音 [ɨˈrɪdənəs] Erídanus, 属格:/ɨˈrɪdənaɪ/
象徴 the River
概略位置:赤経 3.25
概略位置:赤緯 −29
正中 12月
広さ 1138平方度[1]6位
バイエル符号/
フラムスティード番号
を持つ恒星数
87
3.0等より明るい恒星数 4
最輝星 アケルナル(α Eri)(0.46
メシエ天体 無し
確定流星群 無し
隣接する星座 くじら座
ろ座
ほうおう座
みずへび座
きょしちょう座(角で接する)
とけい座
ちょうこくぐ座
うさぎ座
オリオン座
おうし座
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エリダヌス座(エリダヌスざ、Eridanus)は、トレミーの48星座の1つ。全天の星座の中で6番めに大きい。南端のα星は、全天21の1等星の1つであり、アケルナル[2]と呼ばれる。星座の南端部やアケルナルは、九州南部沖縄などを除いて日本の多くの地点で見ることはできない。

主な天体

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別名「クレオパトラの瞳」と呼ばれる惑星状星雲NGC 1535
「魔女の横顔星雲」の別名で知られる反射星雲IC 2118

恒星

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国際天文学連合 (IAU) は以下の20個の恒星に固有名を認証している[3]

  • α星:エリダヌス座で最も明るい恒星で、全天21の1等星の1つ[4]。主星のアケルナル (Achernar[3]) は見かけの明るさ0.46等のB型主系列星で、分光スペクトル中に顕著な水素の輝線が見られる「Be星」に分類される[4]。非常に高速で自転しているため、赤道半径が極半径より約50%も大きい。
  • β星オリオン座との境界近くに位置する3等星[5]。固有名の「クルサ[2](Cursa[3])」は、アラビア語kursiy al-Jauzāʾ al-muqaddam(ジャウザーの前側の足台)を語源としている[6]
  • γ星長周期変光星と目される3等星[7]。「ザウラク[2](Zaurak[3])」という固有名を持つ。
  • δ星:4等星[8]。「ラナ[2](Rana[3])」という固有名を持つ。
  • ε星:4等星[9]。2015年に開催されたIAUの太陽系外惑星命名キャンペーン「NameExoWorlds」で北欧神話にちなんだ案が採用され、ε星に「ラーン(Ran[3])」、系外惑星に「AEgir」という固有名が付けられた。比較的太陽から近く、また恒星として太陽に近い性質を持つことから、1960年の「オズマ計画」で電波観測の対象とされたが、文明の痕跡とみなされる信号は得られなかった。
  • ζ星分光連星の5等星[10]。Aa星には「ジバール[11](Zibal[3])」という固有名が付けられている。
  • η星:4等星[12]。「アザー[2](Azha[3])」という固有名を持つ。
  • θ星:見かけの明るさ3.18等のA星と4.11等のB星からなる連星系[13]。A星の固有名「アカマル[2](Acamar[3])」は、α星Aのアケルナルと同じく「川の果て」という意味のアラビア語に由来する。これは、元々エリダヌス座がこの星を南端としていたことによる[6]
  • ο1たて座δ型変光星で4等星[14]。「ベイド[2](Beid[3])」という固有名を持つ。
  • ο2閃光星の主星A、伴星Cと白色矮星の伴星Bからなる三重連星系[15]。A星には「ケイド[2](Keid[3])」という固有名が付けられている。伴星Bは史上初めて発見された白色矮星として知られる。
  • τ2:5等星[16]。「アンゲテナル[2](Angetenar[3])」という固有名を持つ。
  • υ2:4等星[17]。「テーミン[2](Theemin[3])」という固有名を持つ。
  • υ3:4等星[18]。「ベーミン[2](Beemin[3])」という固有名を持つ。
  • エリダヌス座53番星:4等星[19]。ドイツの天文学者ゴットフリート・キルヒが作った星座の1つ「ブランデンブルクの王笏座 (Sceptrum Brandenburgicum)」で最も明るい星であったことから、A星に「スケープトゥルム[11](Sceptrum[3])」という固有名が付けられている。
  • HD 18742:国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」でミャンマーに命名権が与えられ、主星はAyeyarwady、太陽系外惑星はBaganと命名された[20]
  • HD 30856:国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」でブルキナファソに命名権が与えられ、主星はMouhoun、太陽系外惑星はNakanbéと命名された[20]
  • HIP 12961:国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」でプエルトリコに命名権が与えられ、主星はKoeia、太陽系外惑星はAumatexと命名された[20]
  • WASP-22:国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」でグアテマラに命名権が与えられ、主星はTojil、太陽系外惑星はKoyopa'と命名された[20]
  • WASP-50:国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」でタイ王国に命名権が与えられ、主星はChaophraya、太陽系外惑星はMaepingと命名された[20]
  • WASP-79:国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」でパナマに命名権が与えられ、主星はMontuno、太陽系外惑星はPolleraと命名された[20]

その他に、以下の恒星が知られている。

星団・星雲・銀河

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  • NGC 1535:惑星状星雲。γ星の東4°に位置する。「クレオパトラの瞳[21](Cleopatra's Eye[22])」の別名で知られる。
  • NGC 1232渦巻銀河。τ4星の北西3°に位置する。
  • NGC 1300棒渦巻銀河。τ4星の北2.5°に位置する。
  • IC 2118反射星雲。その外見から「魔女の横顔星雲 (the Witch Head Nebula[23])」の別名で知られる。
  • Sh2-245:HII領域[24]。「エリダヌス・ループ」や「エリダヌス・スーパーバブル」とも呼ばれる。

その他

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由来と歴史

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ヨハン・ボーデが1801年に出版した『ウラノグラフィア』に描かれたエリダヌス座

この星座のモデルとなった川については古代ギリシャ・ローマ時代から複数の説が出されている。紀元前3世紀頃のマケドニアの詩人アラートスは伝承上の川であるエーリダノス川としたが、2世紀頃の学者プトレマイオス(トレミー)の著書アルマゲストでは、単に「川」を意味する Ποταμός (Potamos) とされた[25]。紀元前3世紀頃のエラトステネースや1世紀頃のヒュギーヌスは、エーリダヌス川のモデルはナイル川であるとしたが、他のギリシャ・ローマ時代の著述家はイタリア北部のロンバルディア平原を流れるポー川のことであるとした[25]

古代ギリシャ・ローマ時代のエラトステネースやヒュギーヌス、プトレマイオスらはエリダヌス座の領域の南端をθ星としており、アケルナルまで拡大されたのは16世紀末になってからであった[25]。そのため、θ星にはアラビア語で「川の果て」を意味する「アカマル (Acamar)」という名前が残っている。エリダヌス座の領域を拡大したのはオランダペトルス・プランシウスであった。プランシウスは、ペーテル・ケイセルフレデリック・デ・ハウトマンの観測記録を元に1598年に製作した天球儀の上にα星まで拡大したエリダヌス座を描いた[25]ヨハン・バイエルもプランシウスに倣って、1603年に刊行した『ウラノメトリア』の中で、旧来のエリダヌス座に現在のι・κ・φ・χ・αの5つの星を加えたエリダヌス座を描き、最も明るいアケルナルをα星とするバイエル符号を付している[26]

中国

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昴宿図(古今図書集成)。下部で弧を描く星官が「天苑」。

中国の天文では、エリダヌス座の星々は二十八宿昴宿畢宿参宿にまたがって位置している。昴宿では、γ・π・δ・ε・ζ・η・τ1・τ2・τ3・τ4・τ5・τ6・τ7・τ8・τ9の15の星が、くじら座π星とともに「天の牧場」を表す「天苑」という大きな弧形の星官を形作る[25]。畢宿では、39・ο1・ξ・ν・56・55の5つの星と不明の4つの星が、中国全域の方言の通訳を表す「九州殊口」という円形の星官を成す。北から南へと続くμ・ω・63・64・60・58・54とうさぎ座1番星、不明の星の9つの星は、皇帝の軍旗を表す「九斿」という星官を作る[25]。北東から南西へと続くυ1・υ2・υ3・υ4・g・f・h・θ・s・κ・χの12の星は、ほうおう座δ星とともに「天の果樹園」を表す「天園」という星官を成す[25]。参宿では、λ・ψ・βとオリオン座τ星の4つの星がオリオン座リゲルのすぐ西側に玉で作った井戸を表す「玉井」という星官を成している[25]。最も南方にあるアケルナルは二十八宿には含まれておらず、明朝末期の17世紀イエズス会士アダム・シャール徐光啓らが編纂した天文書『崇禎暦書』で、新たに追加された「水委」という星官に充てられた[27]

神話

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ティントレット『ファエトンの墜落』1541-42年

アラートスの『ファイノメナ』やエラトステネースの『カタステリスモイ』、オウィディウスの『変身物語』では、太陽神ヘーリオスの息子パエトーンにまつわる以下の神話を伝えている。パエトーンは父を尊敬し、息子であることを自慢していたが、友人達は全く信じず、相手にしなかった。そこでパエトーンは自分がへーリオスの息子である証拠を得るため父に会いにいった。へーリオスに何か一つ願いを叶えると言われたパエトーンは、父の操る太陽の車・日車を御することを乞い、許しを得た。しかし、彼には日車を御する技量がなく、馬車は暴走してしまった。暴走を食い止めるために最高神ゼウスは雷を落とした。パエトーンはエーリダノス川に落ち、死んでしまった[25][28]

呼称と方言

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1879年(明治12年)にノーマン・ロッキャーの著書『Elements of Astronomy』を訳した『洛氏天文学』が刊行された際は、「エリドアニュス」というラテン語の発音と「リヴァルイリダニュス」という英語の発音が紹介されていた[29]。その後、日本天文学会の会誌『天文月報』の1910年(明治43年)2月号の記事「星座名」では既に「エリダヌス」と訳が充てられており[30]、『理科年表』でも1922年の初版から継続して「エリダヌス」という呼称が使われている[31]。以降、1944年(昭和19年)に学術研究会議が定めた『天文術語集』や1952年(昭和27年)に日本天文学会が定めた『天文述語集』の中でいくつかの星座名が改訂されたが、「エリダヌス」という表記は継続して使用されている[32][33]

山本一清は、ラテン語読みに拘らなくとも原語の意味を写せばよいのだからフランス語風に読んだ「エリダン」でもよい、と考えており[34]、自身が編集に携わった『天文年鑑』では「エリダン河」という呼び名で紹介している[35][36]

出典

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  1. ^ 星座名・星座略符一覧(面積順)”. 国立天文台(NAOJ). 2023年1月1日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k 原恵『星座の神話 - 星座史と星名の意味』(新装改訂版第4刷)恒星社厚生閣、2007年2月28日、217-218頁。ISBN 978-4-7699-0825-8 
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o IAU Catalog of Star Names (IAU-CSN)”. 国際天文学連合 (2018年9月7日). 2022年11月9日閲覧。
  4. ^ a b "alp Eri". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月9日閲覧
  5. ^ "bet Eri". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月9日閲覧
  6. ^ a b Kunitzsch, Paul; Smart, Tim (2006). A Dictionary of Modern star Names: A Short Guide to 254 Star Names and Their Derivations. Sky Pub. Corp.. p. 36. ISBN 978-1-931559-44-7 
  7. ^ "gam Eri". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月23日閲覧
  8. ^ "del Eri". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月23日閲覧
  9. ^ "eps Eri". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月23日閲覧
  10. ^ "zet Eri". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月23日閲覧
  11. ^ a b 『ステラナビゲータ11』(11.0i)AstroArts。 
  12. ^ "eta Eri". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月23日閲覧
  13. ^ tet Eri”. SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月23日閲覧。
  14. ^ "omi01 Eri". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月23日閲覧
  15. ^ "omi02 Eri". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月23日閲覧
  16. ^ "tau02 Eri". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月23日閲覧
  17. ^ "ups02 Eri". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月23日閲覧
  18. ^ "ups03 Eri". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月23日閲覧
  19. ^ "53 Eri". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月23日閲覧
  20. ^ a b c d e f Approved names” (英語). Name Exoworlds. 国際天文学連合 (2019年12月17日). 2020年1月10日閲覧。
  21. ^ #76677: NGC1535 クレオパトラの瞳 エリダヌス座 by hltanaka - 天体写真ギャラリー”. アストロアーツ. 2022年11月23日閲覧。
  22. ^ Cleopatra's Eye (NGC 1535)”. Observing at Skyhound. 2022年11月23日閲覧。
  23. ^ "IC 2118". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月23日閲覧
  24. ^ "Sh2-245". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年11月23日閲覧
  25. ^ a b c d e f g h i Ridpath, Ian. “Star Tales - Eridanus”. 2022年11月9日閲覧。
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  27. ^ Allen, Richard H. (2013-2-28). Star Names: Their Lore and Meaning. Courier Corporation. p. 218. ISBN 978-0-486-13766-7. https://books.google.com/books?id=vWDsybJzz7IC 
  28. ^ 呉茂一『新装版 ギリシア神話』(9刷)新潮社、46-49頁。ISBN 978-4-10-307103-7 
  29. ^ ジェー、ノルマン、ロックヤー 著、木村一歩内田正雄 編『洛氏天文学 上冊文部省、1879年3月、57頁https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/831055 
  30. ^ 星座名」『天文月報』第2巻第11号、1910年2月、11頁、ISSN 0374-2466 
  31. ^ 東京天文台 編『理科年表 第1冊丸善、1922年、61-64頁https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/977669 
  32. ^ 学術研究会議 編「星座名」『天文術語集』1944年1月。doi:10.11501/1124236 
  33. ^ 星座名」『天文月報』第45巻第10号、1952年10月、13頁、ISSN 0374-2466 
  34. ^ 山本一清「天文用語に關する私見と主張 (2)」『天界』第14巻第157号、東亜天文学会、1934年4月、247-250頁、doi:10.11501/3219878ISSN 0287-6906 
  35. ^ 天文同好会 編『天文年鑑』2号、新光社、1928年6月、3-6頁。doi:10.11501/1138377https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1138377 
  36. ^ 天文同好会 編『天文年鑑』4号、新光社、1931年3月、3-9頁。doi:10.11501/1138410https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1138410 

座標: 星図 03h 15m 00s, −29° 00′ 00″