人造黒鉛
人造黒鉛(じんぞうこくえん、英語: Synthetic Graphite)とは、人工的に生成された黒鉛のことである[1]。合成黒鉛[2]、または合成グラファイトとも呼ばれる[3]。
概要
[編集]黒鉛とは、有機化合物や無定形炭素が高熱により、六角板状で亀甲層状の構造を持つ純粋な炭素原子の結晶体となったものである[4]。天然黒鉛は地下深くで高圧・高温により自然に生成されたものであり[1]、人造黒鉛は人為的な熱処理により生成したものである[4]。
アメリカ合衆国の発明家・エドワード・グッドリッチ・アチソン(1856年 - 1931年 Edward Goodrich Acheson)が1895年に初めて人為的な生成に成功した[5][6]。
黒鉛の特性として、潤滑性・耐薬品性・熱伝導性・電気伝導性・耐熱性などに優れ[7][8]、一方、酸素がある状態での耐熱性、防水性・気密性、耐衝撃性が弱いとされる[7]。人造黒鉛は、これに加えて、高純度で結晶均一性も高いこと[9]、成形方法によっては素材の方向性(素材の方向による電気伝導性、熱伝導性、熱膨張性などの差異)に違いが出ることなどの特性がある[10]。
用途としては、軸受け・カーボンブラシなどの摺動部品、熱拡散シート、高温炉の炉内部品、るつぼ(坩堝)、電気炉用電極(人造黒鉛電極)、電解用電極、不溶性陽極、電池用の導電材、二次電池用の負極材、ブレーキパッドなどの摩擦材などに用いられている[7][9][11][12]。
製造方法
[編集]おおよその工程は以下の通り[13]。
- 主原料となる石炭コークスを粉砕・分別・配合し、接着剤の役割を果たすピッチコークス・コールタールピッチと混練・捏合する。
- 必要な形に成形する。成形方法は押出成形・型押成形・CIP成形などがある。
- 摂氏1000度程度での焼成とコールタールピッチ漬込みとを2ないし3度繰り返す。
- 摂氏2700度ないし3000度程度で加熱処理し、黒鉛化させる。
- 外面加工、特殊処理、高純度処理などを経て完成となる。
生産・販売状況
[編集]日本における生産・販売状況は、経済産業省生産動態統計年報 資源・窯業・建材統計編によると以下の通りである[14]。(なお、人造黒鉛のみのデータが無い為[15]、「炭素製品」全体と、人造黒鉛製品に限られる「人造黒鉛電極(丸形)」について記す。)
炭素製品
[編集]- 2015年:生産量 22万トン、販売量 21万3000トン、販売金額 1849億円
- 2016年:生産量 18万9500トン、販売量 18万4000トン、販売金額 1539億円
- 2017年:生産量 21万1000トン、販売量 20万1000トン、販売金額 1591億円
- 2018年:生産量 22万9500トン、販売量 22万4000トン、販売金額 2663億円
- 2019年:生産量 19万3000トン、販売量 18万3000トン、販売金額 2754億円
人造黒鉛電極(丸形)
[編集]- 2015年:生産量 12万5000トン、販売量 12万4000トン、販売金額 522億円
- 2016年:生産量 10万5000トン、販売量 10万8000トン、販売金額 343億円
- 2017年:生産量 11万7000トン、販売量 11万6000トン、販売金額 357億円
- 2018年:生産量 12万3000トン、販売量 12万3000トン、販売金額 1234億円
- 2019年:生産量 9万3000トン、販売量 8万9500トン、販売金額 1242億円
2018年 - 2019年の販売金額の大幅増加は、環境規制が強化された中華人民共和国での需要増加が要因である[16]。
主要な製造者
[編集]二次資料により確認できた主要な製造者は以下の通りである。(順不同)
- 人造黒鉛電極[16][17][18][19][20]
- グラフテック・インターナショナル(アメリカ合衆国)
- 昭和電工(日本)
- 東海カーボン(日本)
- 日本カーボン(日本)
- SECカーボン(日本)
- グラファイト・インディア(インド)
- HEG(インド)
- リチウムイオン電池負極材[21][22]
- その他
脚注
[編集]- ^ a b “炭素入門編>2.黒鉛とは?(グラファイトの種類)「天然黒鉛と人造黒鉛」”. レイホー製作所. 2020年12月10日閲覧。
- ^ Roskill Information Services (2020年10月14日). “市場調査レポート 天然黒鉛と合成黒鉛の世界市場:2030年までの展望、第13版”. 世界の市場調査レポート. グローバルインフォメーション. 2020年12月11日閲覧。
- ^ Mordor Intelligence (2020年6月30日). “グラファイトの世界市場2020-2025”. マーケットリサーチセンター. 2020年12月11日閲覧。
- ^ a b “炭素入門編>1.炭素と黒鉛の違い~カーボンとグラファイトの違い”. レイホー製作所. 2020年12月10日閲覧。
- ^ 日本大百科全書(ニッポニカ). “アチソン(Edward Goodrich Acheson)”. コトバンク. 2020年12月11日閲覧。
- ^ 「黒鉛化」『日本大百科全書(ニッポニカ)』 。コトバンクより2020年12月11日閲覧。
- ^ a b c “黒鉛グラファイト素材のカーボンソリッド材の特性”. 関西カーボン加工. 2020年12月11日閲覧。
- ^ “黒鉛の特性”. 富士黒鉛工業. 2020年12月11日閲覧。
- ^ a b 「人造黒鉛」『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』 。コトバンクより2020年12月11日閲覧。
- ^ “炭素入門編>4.黒鉛素材入門(人造黒鉛素材の製法による特性の違い)”. レイホー製作所. 2020年12月10日閲覧。
- ^ “黒鉛の用途”. 富士黒鉛工業. 2020年12月13日閲覧。
- ^ “人造黒鉛”. 富士黒鉛工業. 2020年12月13日閲覧。
- ^ “炭素入門編>3.人造黒鉛の製造方法「グラファイトブロックが出来るまで」”. レイホー製作所. 2020年12月10日閲覧。
- ^ 経済産業省大臣官房調査統計グループ『2019年 経済産業省生産動態統計年報 資源・窯業・建材統計編』(レポート)経済産業省、88-91頁 。2020年12月12日閲覧。
- ^ 経済産業省大臣官房調査統計グループ『2020年調査用 経済産業省生産動態統計調査 窯業・建材製品関係月報記入要領』(レポート)経済産業省、9,21頁 。2020年12月12日閲覧。
- ^ a b “黒鉛電極ブームの先どう読む 二極化する市場の見立て”. Quick Money World. QUICK (2019年3月1日). 2020年12月12日閲覧。
- ^ “日本:日本の黒鉛電極メーカーの新展開”. 業界情報. カーボン・マテリアル・インターナショナル (2017年10月). 2020年12月12日閲覧。
- ^ “2018年黒鉛電極市場の概況”. 業界情報. カーボン・マテリアル・インターナショナル (2018年10月16日). 2020年12月12日閲覧。
- ^ 週刊ダイヤモンド編集部 (2017年10月20日). “昭和電工、無謀と言われた買収が超有望事業に一変した逆転劇の真相”. ダイヤモンド・オンライン. ダイヤモンド社. 2020年12月12日閲覧。
- ^ QYResearch (2020年3月2日). “市場調査レポート 黒鉛電極の世界市場の分析(2020年)”. グローバルインフォメーション. 2020年12月12日閲覧。
- ^ “2019年版 リチウムイオン電池部材市場の現状と将来展望 ~負極材編~”. 矢野経済研究所 (2019年9月30日). 2020年12月13日閲覧。
- ^ 三菱総合研究所 (2018年3月23日). “平成29年度鉱物資源開発の推進のための探査等事業 鉱物資源基盤整備調査事業(鉱物資源確保戦略策定に係る基礎調査)”. 政策について>白書・報告書>委託調査報告書. 経済産業省. 2020年12月13日閲覧。
- ^ “商号の変更に関するお知らせ”. 昭和電工マテリアルズ. 日立化成 (2020年6月23日). 2020年12月13日閲覧。