プリクソス
プリクソス(古希: Φρίξος, Phrixos)は、ギリシア神話に登場する人物である。コルキス(現グルジア)の地に「金羊毛」をもたらした。これが後のイアーソーン率いるアルゴナウタイの物語につながる。
ボイオーティア地方の都市オルコメノスの王アタマースとネペレーの息子で、妹にヘレーがいる[1]。コルキス王アイエーテースとエイデュイアの娘カルキオペーを妻とし、アルゴス、メラース、プロンティス、キュティッソーロス[2][1]、プレスボーンが生まれた[3][4]。妻をアイエーテースの娘イオポッサとする説もある[5][6]。
神話
[編集]アタマースの後妻イーノーの企みによって、プリクソスはゼウスへの犠牲として殺されそうになるが、ネペレーがヘルメースから授かった金毛羊を連れて来たので、プリクソスはその背に乗ってヘレーとともに脱出する[1]。一説には単にネペレーが金毛羊を2人に授けた[7]、あるいはゼウスが2人に金毛羊を送った[8]。しかしヘレーは途中で海に落ちて「ヘレースポントス」(ヘレーの海)、現在のダーダネルス海峡の名前の由来となった。プリクソスはコーカサス地方のコルキスに達した。この地の王アイエーテースはプリクソスを迎え入れ、娘のカルキオペーをプリクソスの妻として与えた。プリクソスは金毛の羊をゼウスに捧げ、その皮をアイエーテースに贈った。アイエーテースは、金羊毛をアレースの杜にある樫の木に打ち付け[1]、竜に守らせた。
プリクソスはコルキスの地で死んだが[9]、アルゴスは招かれてボイオーティアに戻り、イアーソーンのためにアルゴー船を建造して、自らアルゴナウテースとなった[10]。また、キュティッソーロスは帰国後、祖父であるアタマースが生け贄とされる際、その命を救ったとされる[11]。
ただし、異説ではプリクソスの息子のアルゴスとアルゴー船を建造したアルゴスとは別人物とされる[12]。
系図
[編集]カドモス | アイオロス | エナレテー | ペーネイオス | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
セメレー | イーノー | アタマース | ネペレー | ヒュプセウス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ディオニューソス | レアルコス | メリケルテース | テミストー | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アイエーテース | スコイネウス | レウコーン | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
カルキオペー | プリクソス | ヘレー | アタランテー | ペイシディケー | エウイッペー | アンドレウス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アルゴス | キュティッソーロス | プロンテス | メラース | プレスボーン | エテオクレース | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
脚注
[編集]- ^ a b c d アポロドーロス、1巻9・1。
- ^ ロードスのアポローニオス『アルゴナウティカ』2巻1155行-1156行。
- ^ エピメニデース断片12(『アルゴナウティカ』2巻1122行への古註)。
- ^ パウサニアス、9巻34・8。
- ^ アクーシラーオス断片25(『アルゴナウティカ』2巻1122行への古註)。
- ^ ヘーシオドス断片193(『アルゴナウティカ』2巻1122行への古註)。
- ^ ヒュギーヌス、3話。
- ^ パウサニアス、9巻34・5。
- ^ 『アルゴナウティカ』2巻1150行-1151行。
- ^ アポロドーロス、1巻9・16。
- ^ ヘロドドス、7巻197。
- ^ 『アルゴナウティカ』1巻111行-114行。
参考図書
[編集]- アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
- 『オデュッセイア/アルゴナウティカ』松平千秋・岡道男訳、講談社(1982年)
- パウサニアス『ギリシア記』飯尾都人訳、龍溪書舎(1991年)
- ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照男訳、講談社学術文庫(2005年)
- ヘロドトス『歴史(下)』松平千秋訳、岩波文庫(1972年)
- カール・ケレーニイ『ギリシアの神話 神々の時代・英雄の時代』植田兼義訳、中公文庫(1985年, 1985年)
- 『ギリシア・ローマ神話辞典』高津春繁著、岩波書店(1960年)