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タンク車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
アメリカ合衆国のタンク車(DOT-111型)

タンク車(タンクしゃ、英語 Tanker)とは、タンク型の荷台を取りつけた貨車のことである。積荷は、ガソリン灯油などの石油製品や各種化成品化学物質)などの液体気体や、セメントのような粉体が主である。日本国有鉄道における車種記号は(タンクのタから)が付される。

構造

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構造一般

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日本のタキ43000形貨車。このタンク車は台枠が省略されているタイプ。

鋼材を組み合わせた台枠上に、積載装置である円筒形のタンクを搭載する形態である。積荷である液体・気体・粉粒状物質は包装や梱包をせず、直接タンク内に注入して運搬(バラ積み・バルキー輸送)される。

構造上の特徴として、台枠の中間部が省略可能である点が挙げられる。台枠は鉄道車両にとって車体全体の基礎となる重要な部分であるが、タンク体を頑丈に作って強度を持たせて枕梁(台車取り付け部)の中間部を省略し、枕梁 - 端梁とタンク体を強固に連結する構造(フレームレス構造)としたタキ9900形1962年(昭和37年)に登場した。

大容積のタンク体が使用可能となる本構造は、後年の改良によって拠点間輸送用のタキ43000形ガソリン専用タンク車に応用された。同形が使用開始されたのち、タンク車の転覆大破を原因とする国内外の重大事故の多発を受け、安全上の懸念からいったんは新製を禁じられたが、本構造の高い輸送効率と安全性とを両立する手法が確立したことから、1982年(昭和57年)にはタンク体の破損防止対策を講じることを条件として再び新製が可能となった。最近の新しいタンク車はこの構造によるものである。

さらにタンク内部には防波板と呼ばれる仕切りの板が入っており、制動時に中の液体の揺れを抑える働きをしている[1]。この防波板はタンク内部が満タンであることを前提に設計されているため、タンク車を運用させる際は満タン、もしくは空荷で走らせるようになっている[1]

積荷による差異

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積載装置と積荷が直接的に接触するため、比重・腐食性の有無など、積荷の物理的性質・化学的性質に応じて構造は異なる。このため、各車両には特定の品目だけを積載する「専用種別」が定められる。例えばタキ1000形は「ガソリン」[注 1]専用車であり、タキ5450形は「液化塩素」の専用車である。「石油類」[注 2]はひとつの専用種別として標記されるが、沸点の低い軽油・灯油を輸送する車種と、沸点の高い重油を輸送する車種では、荷卸装置や安全装置など細部の構造が異なる[注 3]

日常の運用では、タンク内を洗浄したうえで他の積荷の輸送に転用することもある(臨時専用種別)。例としては、ガソリン専用車[注 1]を重油輸送車とする転用例が多数存在する(逆は不可)。

積荷の性質に応じた構造例と日本における車両形式の例を以下に示す。

一般液体
 
上:タキ40000形(ガソリン専用)
下:タキ43000形(石油類専用)
台枠上にタンク体を搭載し、上部マンホールから積荷を注入しタンク下部の取卸口から排出する。漏洩時の危険度が比較的小さい積荷に適用される、一般的な仕様である。
例:
腐食性物質
 
上:タキ29100形(濃硝酸専用)
下:タム8000形過酸化水素専用)
強酸・強アルカリなど。タンク体を積荷と反応しない材質(ステンレスやアルミニウムなど)で製作したり、積荷の排出を空気圧による「上出し方式」とするなど、腐食・漏洩事故の防止対策がなされる。
例:
液化ガス
 
上:タキ5450形(液化塩素専用)
下:タキ18600形(液化アンモニア専用)
高圧低温下で液化したガスを輸送する車両は、タンク体を高圧に耐える圧力容器として設計し、取卸口は密閉度の高い構造になっている。タンク外部は温度上昇を防ぐために遮熱板(キセ・ジャケット)で覆われ、タンク体との間には断熱材を充填する。
例:
粉体
タキ1900形(セメント専用)
液体よりも流動性に劣るため、取卸方法に工夫がなされる。タンク下部から内部に空気を噴出させ、摩擦をなくして流し出すものや、上部積込口から直接真空吸引するものがある。
例:
食品
タキ24700形(小麦粉専用)
積荷の変質を防ぐ対策がなされ、タンク体にステンレスなど反応しにくい材質を用いたものや、温度上昇を防ぐ遮熱板を設けたものがある。
例:


定温輸送品
タキ23600形(液体硫黄専用)
融点の高い物質を輸送する車両は、積荷を液体の状態に保ったまま輸送するための構造を付加する。タンク体を二重構造とし、間隙にグラスウールやウレタンフォームなどの断熱材を充填する。
例:


特殊品目
タム200形(二硫化炭素専用)
急激な反応を防ぐため水を張って空気を遮断するもの(二硫化炭素)、粉塵爆発防止のため温水を注入し半溶解状態で取り出すもの(塩素酸ソーダ)、高温で溶融させた積荷を積載後に冷却・凝固させ、取卸時に再度加温液化させるもの(金属ナトリウム)などがある。
例:

歴史・変遷

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JR根岸線 根岸駅構内に留置されたタンク車群。構内の奥側には日本最大級の製油所であるENEOSの専用線と積場が見える。(2016年4月30日)

日本においては、サミュエル・サミュエル商会[注 4]が自社石油製品輸送用として1893年明治26年)に使用を開始した車両が始祖とされる。現在まで続く円筒形のタンク体を持つ車両は1900年(明治33年)から使用を開始した。当初は「油槽車」(ゆそうしゃ。記号はあぶらの)と称し、現在の「タンク車」は1928年昭和3年)の国鉄貨車の称号改正によるものであり、同年5月17日達第380号により公布された。

使用開始以降の経緯から、荷主自らが車両を所有し、鉄道事業体国鉄など)に籍を置く「私有貨車」として現在まで発展してきた。台数的に多い石油類の場合、かつては石油元売が多く保有しており、各社のロゴ(社章)が大きく描かれていたが、1980年代以降はほとんどが日本オイルターミナル日本石油輸送などの専門輸送会社に移管された。

近年はISO規格コンテナを積載可能なコンテナ車が多数製作され、主に小ロット輸送が主となる化成品輸送において、タンク車からタンクコンテナに移行する事例が多い。輸送時間短縮・積み替えの容易さを実現可能とするコンテナ輸送の利点に加え、従来から使用してきたタンク車自体の老朽化進行に伴う事業者の設備更新の一環である。

輸送規模の小さな拠点では、近隣の拠点への集約や輸送手段の転換(トラック海運など)、輸送自体の廃止などもあり、タンク車の在籍数は専用種別を問わず漸次減少傾向にある。 JRに移行した直前の 1986年度末には総数で 12,302 両のタンク車が在籍したが、 2005年度末の在籍は総数で 4,719 両である。一方、中央本線などの並行する高速道路に長大トンネル(中央自動車道恵那山トンネル及び笹子トンネルなど)を抱える路線ではタンクローリーの運行が禁止されている事情もあり、現在に至るまでタンク車による輸送の独壇場となっている。

タンク車が関連した鉄道関係の事故

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1960年代から1970年代だけでも、次のような危険物を積載したタンク車の事故が発生している。

脚注

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注釈

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  1. ^ a b c ここでいう「ガソリン」は、ガソリンのほか、軽油・灯油のような沸点や引火点の低い石油製品を指す語である。
  2. ^ a b ここでいう「石油類」は、重油や潤滑油のような沸点や引火点の高い石油製品を指す語である。
  3. ^ 北海道などの寒冷地の重油輸送用タンク車では、冬場に荷降ろしをしやすくするため、外部から加熱したりタンクに保温材が巻かれていることがある。
  4. ^ 後のシェルの前身であり、日本ではライジングサン石油および昭和シェル石油を経て現在の出光興産に至る。

出典

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  1. ^ a b 【東日本大震災から10年】被災地へ走った“前例なき”緊急石油貨物列車。鉄道マンたちの挑戦(前編)”. NHKラジオ. 2021年3月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年4月26日閲覧。
  2. ^ 日外アソシエーツ編集部 編『日本災害史事典 1868-2009』日外アソシエーツ、2010年9月27日、159頁。ISBN 9784816922749 
  3. ^ a b c d e f g 「ホームに塩酸の雨 乗客の服ボロボロ」『朝日新聞』昭和48年(1973年)7月11日朝刊、13版、23面
  4. ^ 「こんどは硝酸もれ」『朝日新聞』昭和48年(1973年)7月14日朝刊、13版、23面

関連項目

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