クリュメネー
クリュメネー(古希: Κλυμένη, Klymenē)は、ギリシア神話の女神、あるいは女性である。長母音を省略してクリュメネとも表記される。主に、
などのほか数人が知られている。以下に説明する。
オーケアノスの娘
[編集]このクリュメネーは、オーケアノスとテーテュースの娘で[1]、ティーターンのイーアペトスとの間にアトラース、メノイティオス、プロメーテウス、エピメーテウスを生んだ[2]。一説にイーアペトスの妻はアシアー[3]。クリュメネーをプロメーテウスの妻とする説もある[4]。
パエトーンの母
[編集]このクリュメネーは、アイティオピアーの王メロプスの妻で、太陽神ヘーリオス(アポローン)との間にパエトーンとヘーリアデスと呼ばれる娘たちを生んだ。
パエトーンは自分の父が神であると自慢したが、それを友人のエパポスに馬鹿にされたため、母クリュメネーに父が神である証拠を求めた。そこでクリュメネーはヘーリオスの館を訪ねることを勧め、パエトーンはヘーリオスのもとに行って1日だけ太陽の戦車を駆ることを要求した。しかしパエトーンは戦車を引く天馬たちを御することができず、進路をはずれて地上に大火災を起してしまい、ゼウスの雷に撃たれてエーリダノス河(現在のポー川)に墜落した。クリュメネーは嘆きながらパエトーンを探して世界中を放浪し、エーリダノス河畔に墓を見つけ、娘たちとともに嘆き悲しんだ。そして娘たちは墓のそばで木々に変わったという[5]。
なお、このクリュメネーもオーケアノスの娘といわれる[6][7]。
ミニュアースの娘
[編集]このクリュメネーは、オルコメノスの王ミニュアースとヒュペルパスの娘エウリュアナッサの娘で[8]、イーアソスとの間にアタランテーを生んだとも[9]、ピュラコスとの間にイーピクロスと[8][10][11]、イアーソーンの母アルキメデーを生んだとも[12][13]、クリュメノスの妻でアルキメデーの母であるともいう[11]。一説によるとイーピクロスはデーイオーンの子ケパロスとの間に生まれた子共とも[14]、さらにそれより以前にヘーリオスとの間にパエトーンを生んだとも言われる[8]。
系図
[編集]アイオロス | アトラース | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
シーシュポス | メロペー | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
テルサンドロス | オルニュティオーン | ニーソス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ハルモス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
コローノス | ハリアルトス | ポーコス | トアース | ポセイドーン | エウリュノメー | グラウコス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アレース | クリューセー | ポセイドーン | クリューソゴネイア | ダーモポーン | ベレロポーン | ピロノエー | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
プレギュアース | クリューセース | プロポダース | イーサンドロス | ヒッポロコス | ゼウス | ラーオダメイア | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アポローン | コローニス | イスキュス | ミニュアース | ドーリダース | ヒュアンティダース | グラウコス | サルペードーン | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アスクレーピオス | オルコメノス | ピュラコス | クリュメネー | イーアソス | ミニュアデス | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
マカーオーン | ポダレイリオス | イーピクロス | アルキメデー | アタランテー | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
カトレウスの娘
[編集]このクリュメネーは、クレーテー島の王カトレウスの娘で、アーエロペー、アペーモシュネー、アルタイメネースと兄弟[15]。カトレウスによってナウプリオスに売り渡されてその妻となり、パラメーデース、オイアクス、ナウシメドーンを生んだ[16][17]。
系図
[編集]ミーノース | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
カトレウス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アーエロペー | アトレウス | ナウプリオス | クリュメネー | アルタイメネース | アペーモシュネー | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アガメムノーン | メネラーオス | パラメーデース | オイアクス | ナウシメドーン | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ヘレネーの侍女
[編集]このクリュメネーは、ヘレネーの侍女で[18]、パリスがヘレネーを誘拐したときにもう1人の侍女アイトラーとともにトロイアに連れて行かれた[19]。トロイア戦争後クリュメネーは捕虜となり、アイトラーとともにテーセウスの子デーモポーンとアカマースに与えられ[20]、アテーナイに行ったという[21]。
その他のクリュメネー
[編集]脚注
[編集]- ^ ヘーシオドス『神統記』351行。
- ^ ヘーシオドス『神統記』507行-511行。
- ^ アポロードロス、1巻2・3。
- ^ 『オデュッセイア』10巻2行への古註(中務哲郎訳『ヘシオドス全作品』p.246)。
- ^ オウィディウス『変身物語』1巻-2巻。
- ^ エウリーピデース断片781(クレルモン写本)。
- ^ オウィディウス『変身物語』2巻。
- ^ a b c ヘーシオドス断片61(『オデュッセイア』11巻326行への古註)。
- ^ アポロドーロス、3巻9・2。
- ^ ロドスのアポローニオス、1巻45行-48行。
- ^ a b ヒュギーヌス、14話。
- ^ ロドスのアポローニオス、1巻46行-47行。
- ^ ロドスのアポローニオス、1巻232行-233行。
- ^ パウサニアス、10巻29・6。
- ^ アポロドーロス、3巻2・1。
- ^ アポロドーロス、2巻1・5。
- ^ アポロドーロス、3巻2・2。
- ^ 『イーリアス』3巻144行。
- ^ クレタのディクテュス、1巻3。
- ^ クレタのディクテュス、5巻13。
- ^ クレタのディクテュス、6巻2。
- ^ 『イーリアス』18巻47行。
- ^ ヒュギーヌス、序文。
- ^ ヒュギーヌス、71話。
参考文献
[編集]- アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
- オウィディウス『変身物語(上)』中村善也訳、岩波文庫(1981年)
- 『オデュッセイア / アルゴナウティカ』松平千秋・岡道男訳、講談社(1982年)
- 『ギリシア悲劇全集12 エウリーピデース断片』「パエトーン」伊藤照夫訳、岩波書店(1993年)
- 『ディクテュスとダーレスのトロイア戦争物語 トロイア叢書1』岡三郎訳、国文社(2001年)
- ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照男訳、講談社学術文庫(2005年)
- ヘシオドス『神統記』廣川洋一訳、岩波文庫(1984年)
- 『ヘシオドス 全作品』中務哲郎訳、京都大学学術出版会(2013年)
- ホメロス『イリアス(上・下)』松平千秋訳、岩波文庫(1992年)
- 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店(1960年)