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カワサキ・ニンジャH2

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
カワサキ・ニンジャH2
競技仕様車はH2R
Ninja H2
基本情報
排気量クラス 大型自動二輪車
エンジン 998 cm3 
内径×行程 / 圧縮比 76.0 mm × 55.0 mm / 8.5:1
最高出力 147.2 kW (200 PS) / 10,000 rpm
最大トルク 140.4 Nm (14.3 kg-m) / 10,000 rpm
車両重量 238 kg
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ニンジャH2(ニンジャ エイチツー[2])は、カワサキモータースが輸出市場向けに製造している、4ストロークオートバイ大型自動二輪車)である。

2022年公開の映画『トップガン マーヴェリック』において、トム・クルーズ演じる主人公の愛車として登場した。

日本ではツアラーモデルのH2 SXおよびレース専用車のみ正規販売されており、それ以外の市販モデルについては逆輸入の形となる。サーキット専用車として販売されているH2R(ニンジャ エイチツーアール[2])についても本項で記述する。

解説

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かつて強烈な加速力を持った750SSマッハIV (H2)[3]とカワサキのスーパースポーツモデルに与えられるNinjaシリーズのトップモデルとしてNinja H2と名付けられ[4]、川崎重工業グループの総力を結集して作られたフラグシップモデルである[5]。ニンジャH2はスーパーチャージャーを備えた最初の量産オートバイである[6]

2019年、ニンジャH2はインテーク、スパークプラグ、ECU、エアフィルターなどのコンポーネントのアップデートにより、パワーが15%増加した。また、自己修復性があり、気温の高い条件下でも小さな傷を滑らかにすることができると謳われる特別なトップコート塗装も追加された。さらに、より軽量で小型のブレンボ製スタイルマキャリパー、新しいTFTダッシュ、GPSルート、速度、回転数、現在のギア、燃費、燃料残量、オドメーターに関する情報を提供するスマートフォン接続も新たに採用された[7][8]

ビモータ・テージH2

2019年にカワサキ傘下に入ったビモータが、2021年に発売した「テージH2」にも、H2のエンジンが供給されているほか、サイドミラーやマフラーといった外観からも共通点を見いだせる。

エンジンとスーパーチャージャー

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スーパーチャージドエンジンのカットモデル

搭載されているスーパーチャージャー付きエンジンは川崎重工業航空宇宙カンパニー川崎重工業ガスタービン・機械カンパニーおよび川崎重工業技術開発本部の技術協力により製作されたエンジンと一体のもので、これを従来のスーパーチャージャー付きエンジンと区別してスーパーチャージドエンジンと称している[9]。また、車体のデザインも航空宇宙カンパニーの技術を使い開発されたものである[10]

スーパーチャージャーは、フライホイールと遊星駆動をつなぐ一連のギアとシャフトによって駆動され、最終的にインペラーに取り付けられたドッグシフト式の2速シャフトを回転させる[11]。スロットルは電子制御によって調整される[12]。遠心式スーパーチャージャーは、他の設計、特にスクロールタイプやスクリュータイプのスーパーチャージャーよりも発熱が少ないという利点がある[6][11]。インタークーラー(H2にはない)がなければ、吸気チャージ内の余分な熱は、エンジンを損傷または破壊する可能性のあるプリイグニッションを引き起こす可能性がある。

最高出力は、競技専用モデルのH2Rが228 kW (310 PS) という高出力である一方、公道向けモデルのH2は147.2 kW (200 PS) に抑えられている[13]。さらに、ラムエア加圧時はH2Rが240 kW (326 PS) / 14,000 rpm[14]、H2が154.5 kW (210 PS) / 10,000 rpmとなっている[5]

航空宇宙カンパニーが開発に関わっている関係から、当初よりオートバイ以外への応用も想定され、同社が開発中の無人ヘリコプター「K-RACER-X2」や、固定翼機(無人航空機)等への搭載が予定されている[15]。またカワサキも出資する、フランスのVolt Aero社が現在開発中の電動ハイブリッド航空機『Cassio』にもレンジエクステンダーとして搭載される予定[16]

フレーム

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ニンジャH2Rのハーフカウル仕様

フレームは従来のスーパースポーツで採用されることの多かったアルミ製ツインスパーとせず、露出部分が多く放熱効果が大きいことなどからスチール製のトレリスとした[17]。このフレームの採用にあたっては、川崎重工業グループの技術を生かした専用のロボット溶接機が導入されている[18][19]。リヤサスペンションは、カワサキ製のオートバイとしては初めてアルミ製の片持ちスイングアームが採用されている[17]

南アフリカ出身のデイブ・エイブラハムズは、ホイールベースを長くする代わりに空力を利用するというカワサキのアプローチの利点を説明し、「ロングホイールベースでハードに加速するドラッグマシンに安定性を持たせるのは簡単だ。しかし、カワサキはコーナーを曲がるサーキット走行用のマシンを欲しがっていたのだろう」とコメントした[20]。一般的なドラッグレース用のオートバイはスイングアームを延長することで余分な長さが追加され、対地速度記録を極める流線形車両のホイールベースは一般的なものと比べてはるかに長い(現在のレコードホルダーであるアックアタック英語版は3.7メートル)。

エアロダイナミクス

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トップガン マーヴェリック』の劇中車両

灯火類は、ストップランプはH2・H2Rともに装備されているが、ヘッドライトやウインカーは公道仕様であるH2のみ、フロントウインカーを内蔵したバックミラーは、ダウンフォースが得られる形状となっている[21]。一方、H2Rではその部分にオートバイとしては珍しいスポイラーが装備されている[21][22]。両車種とも、アッパーカウル下に設置されているラムエア開口部下部にチンスポイラーが装備されている[21]。これらは航空宇宙カンパニーの技術を応用して設計されたものである[22]

加速性能を勘案してシングルシートとなっており、定員は1名である[23]。カウルはH2が樹脂製、H2Rがカーボン製となっていて、川崎重工業の中でも歴史的な意義を持つ製品にだけ与えられるリバーマークがアッパーカウル中央部やキーにデザインされている[21][24]。塗装には量産車としては初となる銀鏡塗装が用いられている[19][22]。この塗装の傷を見落とさないよう製造ラインは特別に明るくされており、他の製品とは違いベルトコンベアを使わず専用のラインで製造されている[19]

バリエーション

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ニンジャH2 CARBON

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2017年に、世界生産台数120台の限定モデルとして発売された。専用塗装とカーボンファイバー製アッパーカウルを施し、個別ナンバーを刻印している。これに併せて、標準のニンジャH2も改良された[25]

ニンジャH2 SX

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ニンジャH2のスポーツツーリング仕様として、2018年に発表された。スロットルボディ、カムシャフトクランクシャフトピストンシリンダーシリンダーヘッドを改良し、中速域のトルクを高めることを目的とした新しいエキゾーストシステムを採用した。吸気系とスーパーチャージャーのインペラも再設計された。新設計の大型燃料タンク、リアトレリスサブフレーム、パニアにより、バイクの重量は8.6kg増加した。海外専売車種のニンジャH2 SX SE は電子制御サスペンションを備えている[26]

主要諸元

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モデル H2 H2 CARBON H2R H2 SX
写真 H2 H2 CARBON H2R H2 SX
エンジン 水冷4ストロークDOHC・4バルブ・スーパーチャージャー
気筒配列数 並列4気筒
排気量 998 cm3
内径x行程 76.0 mm x 55.0 mm
圧縮比 8.5:1 8.3:1 11.2:1
最高出力
(通常時)
147.2 kW (200 PS) / 10,000 rpm 170 kW (231 PS) / 11,500 rpm 228.0 kW (310 PS) / 14,000 rpm 147 kW (200 PS) / 11,000 rpm
最高出力
(ラムエア加圧時)
154.5 kW (210 PS) / 10,000 rpm[5] 178 kW (242 PS) / 11,500 rpm 240 kW (326 PS) / 14,000 rpm[14] 154 kW (210 PS) / 11,000 rpm
最大トルク 140.4 Nm (14.3 kgfm) / 10,000 rpm 141 Nm (14.4 kgfm) / 11,000 rpm 165.0 Nm (16.8 kgfm) / 12,500 rpm 137 Nm (14.0 kgfm) / 8,500 rpm
全長 2,080 mm 2,085 mm 2,070 mm 2,135 mm
全幅 770 mm 775 mm
全高 1,125 mm 1,160 mm 1,205 mm
シート高 825 mm 830 mm 820 mm
最低地上高 130 mm
燃料供給装置 電子制御式燃料噴射装置
ホイールベース 1,455 mm 1,450 mm 1,480 mm
車両重量 238 kg 216 kg 256 kg
燃料タンク容量 17.0 L 19.0 L
使用燃料 無鉛プレミアムガソリン
タイヤサイズ(前) 120/70 ZR17 M/C (58W)[2] 120/600 R17 120/70 ZR17 (58W)
タイヤサイズ(後) 200/55 ZR17 M/C (78W)[2] 190/650 R17 190/55 ZR17 (75W)
出典 [13] [27]

記録

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2016年6月30日トルコオスマン・ガーズィー橋にて、H2Rがケナン・ソフォーグルの操縦で時速400kmを記録した[28]

脚注

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  1. ^ Hoyer, Mark (November 6, 2015). “2015 Kawasaki Ninja H2 – ROAD TEST REVIEW” (英語). Cycle World. December 27, 2016時点のオリジナルよりアーカイブ。February 14, 2016閲覧。
  2. ^ a b c d 2輪車用タイヤ「BATTLAX」がカワサキ「Ninja H2 / H2R」に新車装着』(プレスリリース)株式会社ブリヂストン、2014年11月5日。オリジナルの2015年3月20日時点におけるアーカイブhttps://web.archive.org/web/20150320062110/http://www.bridgestone.co.jp/corporate/news/2014110602.html2017年5月14日閲覧 
  3. ^ 『カワサキバイクマガジン』2015年1月号 p.26
  4. ^ 『カワサキバイクマガジン』2015年1月号 p.28
  5. ^ a b c 『カワサキバイクマガジン』2015年1月号 p.31
  6. ^ a b Kent Kunitsugu (September 30, 2014), “Kawasaki official debuts 2015 Ninja H2R” (英語), Sport Rider (Bonnier Corporation), オリジナルのOctober 3, 2014時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20141003142523/http://www.sportrider.com/sportbike-news/kawasaki-officially-debuts-2015-ninja-h2r 
  7. ^ Kawasaki Gives H2 Lineup More Power For 2019” (英語). Roadracing World (August 10, 2018). August 14, 2018閲覧。
  8. ^ Chung, Dennis (August 10, 2018). “2019 Kawasaki Ninja H2 Updated, Now Claims 228HP” (英語). Motorcycle.com. August 14, 2018閲覧。
  9. ^ 『カワサキバイクマガジン』2015年1月号 pp.26-27
  10. ^ 『バイカーズステーション』2015年1月号 p.38
  11. ^ a b Kevin Cameron (September 30, 2014), “2015 Kawasaki Ninja H2R Unveiled at INTERMOT: Supercharged track-only machine with 300 horsepower! Yes, 300 horsepower.” (英語), Cycle World, http://www.cycleworld.com/2014/09/30/2015-kawasaki-ninja-h2r-supercharged-sportbike-unveiled-at-intermot-2014-motorcycle-show/ 
  12. ^ Kevin Cameron (November 4, 2014), “Kawasaki Ninja H2 Streetbike”, Cycle World, http://www.cycleworld.com/2014/11/04/kawasaki-ninja-h2-streetbike-and-h2r-track-bike-motorcycle-review-first-look-photos/ 
  13. ^ a b 『バイカーズステーション』2015年1月号 p.33
  14. ^ a b Ninja H2R”. カワサキモータースジャパン. 2017年5月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年5月16日閲覧。
  15. ^ 「Ninja H2R」エンジンベースの固定翼無人機、Kawasakiが防衛展で構想披露 - 日経XTECH・2023年3月24日
  16. ^ 初の「Ninja H2R」エンジン搭載有人航空機、26年にも実用化へ - 日経XTECH・2024年7月29日
  17. ^ a b 『バイカーズステーション』2015年1月号 p.37
  18. ^ 『カワサキバイクマガジン』2015年1月号 p.40
  19. ^ a b c “川重、大型バイク生産革新”. 日刊工業新聞 (日刊工業新聞社): p. 8. (2016年3月18日) 
  20. ^ Dave Abrahams (October 1, 2014), “Kawasaki's 220kW track-day special” (英語), Independent Online (South Africa: Independent Newspapers (Independent News & Media)), http://www.iol.co.za/motoring/bikes/kawasaki/kawasaki-s-220kw-track-day-special-1.1758438 
  21. ^ a b c d 『バイカーズステーション』2015年1月号 p.39
  22. ^ a b c 『カワサキバイクマガジン』2015年1月号 p.45
  23. ^ 『カワサキバイクマガジン』2015年1月号 p.42
  24. ^ 『カワサキバイクマガジン』2015年1月号 p.44
  25. ^ Kawasaki Unveils Limited Edition 2017 Ninja H2 Carbon Superbike” (英語). Motorcyclist (February 2, 2017). February 6, 2017閲覧。
  26. ^ Kawasaki Upgrades 2019 Ninja H2 SX SE With Electronic Suspension And More” (英語). www.roadracingworld.com (6 November 2018). 2019年5月9日閲覧。
  27. ^ Ninja H2 SX (2019年モデル)のカタログ・諸元表・スペック情報”. バイクブロス. 17 June 2024閲覧。
  28. ^ 【時速400km】カワサキ・H2Rが市販車「世界最速記録」を公道で樹立!(佐川健太郎) - エキスパート”. Yahoo!ニュース. 2024年11月30日閲覧。

参考文献

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  • 『BiGMACHINE』21巻11号(2014年11月号(通巻233号))、内外出版社
  • 『カワサキバイクマガジン』17巻1号(2015年1月号(通巻111号))、ぶんか社
  • 『バイカーズステーション』29巻1号(2015年1月号(通巻328号))、発行:遊風社(発売:モーターマガジン社

外部リンク

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