さそり座ミュー星
さそり座μ1星[1] μ1 Scorpii | ||
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仮符号・別名 | Xamidimura[2] | |
星座 | さそり座 | |
見かけの等級 (mv) | 2.98[1] 2.94 - 3.22(変光)[3] | |
変光星型 | EB/SD[3] | |
分類 | B型星同士の連星 | |
位置 元期:J2000.0[1] | ||
赤経 (RA, α) | 16h 51m 52.21569s[1] | |
赤緯 (Dec, δ) | −38° 02′ 50.6354″[1] | |
赤方偏移 | -0.000025 ± 0.000013[1] | |
視線速度 (Rv) | -7.60 ± 3.9 km/s[1] | |
固有運動 (μ) | 赤経: -0.840 ミリ秒/年[1] 赤緯: -18.506 ミリ秒/年[1] | |
年周視差 (π) | 3.7265 ± 0.6859ミリ秒[1] (誤差18.4%) | |
距離 | 約 900 光年[注 1] (約 270 パーセク[注 1]) | |
絶対等級 (MV) | -4.2[注 2] | |
μ1、μ2星の位置
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軌道要素と性質 | ||
軌道長半径 (a) | 12.90 ± 0.04 R☉[4] | |
離心率 (e) | 0.0[4] | |
公転周期 (P) | 1.4462700 ± 0.0000005 日[4] | |
軌道傾斜角 (i) | 65.4 ± 1°[4] | |
通過時刻 | 2412374.434 HJD[4] | |
物理的性質 | ||
半径 | 4.07 ± 0.05 / 4.38 ± 0.05 R☉[4] | |
質量 | 8.49 ± 0.05 / 5.33 ± 0.05 M☉[4] | |
自転速度 | 239 km/s[5] | |
スペクトル分類 | B1.5V / B3-B8[4] | |
表面温度 | 23,725 ± 500 / 16,850 ± 500 K[4] | |
色指数 (B-V) | -0.20[5] | |
色指数 (U-B) | -0.87[5] | |
色指数 (R-I) | -0.19[5] | |
他のカタログでの名称 | ||
CD -37 11033[1] CPD -37 6761[1] FK5 1439[1] Gaia DR2 5971289565609165056[1] HD 151890[1] HIP 82514[1], HR 6247[1] SAO 208102[1] WDS J16519-3803Aa[6] |
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さそり座μ2星[7] μ2 Scorpii | ||
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仮符号・別名 | Pipirima[2] | |
星座 | さそり座 | |
見かけの等級 (mv) | 3.542[7] | |
分類 | B型準巨星[7] | |
位置 元期:J2000.0[7] | ||
赤経 (RA, α) | 16h 52m 20.14246s[7] | |
赤緯 (Dec, δ) | −38° 01′ 03.1740″[7] | |
赤方偏移 | 0.000004 ± 0.000003[7] | |
視線速度 (Rv) | 1.30 ± 0.8 km/s[7] | |
固有運動 (μ) | 赤経: -9.979 ミリ秒/年[7] 赤緯: -19.875 ミリ秒/年[7] | |
年周視差 (π) | 7.9207 ± 0.5492ミリ秒[7] (誤差6.9%) | |
距離 | 410 ± 30 光年[注 1] (126 ± 9 パーセク[注 1]) | |
絶対等級 (MV) | -2.0[注 2] | |
物理的性質 | ||
半径 | 7.0 R☉[8] | |
質量 | 8.7 ± 0.2 M☉[9] | |
自転速度 | 57 km/s[10] | |
スペクトル分類 | B2IV [7] | |
光度 | 2,385 L☉[11] | |
表面温度 | 23,113 K[8] | |
色指数 (B-V) | -0.21[10] | |
色指数 (U-B) | -0.85[10] | |
色指数 (R-I) | -0.22[10] | |
年齢 | 1,850 ± 320 万年[9] | |
他のカタログでの名称 | ||
CD -37 11037[7] CPD -37 6764[7] Gaia DR2 5971244451257058176[7] HD 151985[7] HIP 82545[7], HR 6252[7] SAO 208116[7] WDS J16523-3801[12] |
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さそり座μ星(英語: Mu Scorpii)は、さそり座に位置する重星。6′離れたμ1星とμ2星で構成される。μ1星はそれ自体が分光連星である。μ1星AaはXamidimura、μ2星はPipirimaの固有名を持つ[2]。
この2つの恒星は、連星であるという主張[13]と、単なる見かけの二重星であるという主張[14]の両方が存在していた。見かけの固有運動は似ており、連星でないとしてもさそり座OB2運動星団には属すと考えられた[15][16]。しかし、ガイア計画での年周視差の測定値が正しければ、μ1星が従来の測定値よりほぼ倍も遠く、μ2星と490光年近く離れており、連星ではないと考えられる[1][7]。さそり座OB2の距離範囲380~470光年[17]からもμ1星は大幅に外れ、星団から除外されている[17]。
μ1連星系
[編集](μ1星 μ2星の話ではないので混同に注意)
μ1星が分光連星であることは、ソロン・アーヴィング・ベイリーが1896年に発見した。これは史上3番目に発見された分光連星である[4]。
μ1星は分光連星であると同時に、こと座β型食変光星、すなわち星が潮汐力で変形するほど近づいた食連星でもある。2つのB型星が、互いに900万km(0.060天文単位)離れた円軌道を、1.446270日周期で公転している[4]。0.5公転周期ごとに主星と伴星が交互に食を起こすが、少し斜めから見ているため減光は大きくなく、主星が最大食の主極小で0.30等、伴星が最大食の副極小で0.19等減光する[4]。それらの間が極大だが、恒星が潮汐力で引き伸ばされているため、真横を向いた時以外は食でなくても見かけの面積が小さくなり減光し、極大が平常光度として続くことはない。
恒星の質量は8.5と5.3太陽質量、半径は4.1と4.4太陽半径(主星が小さい)であるのに対し、軌道長半径は12.9太陽半径しかない[4]。これらから求まる伴星のロシュ・ローブ半径は伴星の半径とほぼ同じであり、伴星はローブを(完全にあるいはほぼ)満たし涙滴型に変形している[4]。つまり、半分離型連星である。ローブを完全に満たしている場合に発生する、ローブからあふれたガスが主星に落下する時のドップラー効果は観測されていないが、技術の向上によりかすかな流れが観測できる可能性はある[4]。
主星と伴星を符号で呼ぶことは希だが、その場合は(AとBではなく)分光連星なのでAaとAbを使う[2]。Aはμ1星、Bは9″離れた9等星、Cは1.3′離れた9等星、Dはμ2星にあたる[18]が、これらは連星をなしているというわけではない。
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半分離型連星の模式図。
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似ている変光曲線(カメレオン座V389)。
文化
[編集]ポリネシア
[編集]タヒチ[19]の伝承では、意地の悪い親から逃げた双子の男女である(双子と明言しない物語もある[20])。男の子はPipiri、女の子はRehua、父はTaua-tiaroroa、母は女の子と同名のRehuaである[20]。双子は合わせて Pipiri ma と呼ばれる。maは「~たち(当人と誰か)」、Pipiri ma は「Pipiriたち」という意味である[20]。
両親から逃げた2人は星になりμ星になったと伝わる[19][注 3]。前方の明るい星がPipiri、後方の暗い星がRehuaであり[20]、μ星に当てはめるとPipiriがμ1星、Rehuaがμ2星となる。さらに、双子を乗せて飛んだ巨大クワガタがアンタレスである[20]。
クック諸島の、マヌアエ島(旧ハーヴェイ島)[20][21]やマンガイア島[22]では、双子ではあるが性別は姉弟となっている。姉はPiri-ere-uaあるいは英訳でInseparable(分けられない)[20][21][22]、母はTara-korekoreである[20](弟と父の名は不明)。姉がμ1星、弟がμ2星[21][注 4]、さらに、彼らを追う両親がλ星シャウラとυ星レサトである[21]。Piri-ere-uaという名は、PipiriとRehuaをつなげたように見えることが指摘されている[22]。
なお、ロバート・バーナム Jr原著の和訳書では、W.W.ギルによるとして、ポリネシアの伝承のピリ・エラ・ウア(分けられない真友)としている[13]。ギルの名から、別書で彼によるとされている[22]、マンガイア島のPiri-ere-uaに対応できる。バーナムは、この話はヘンゼルとグレーテルの物語に似ていると述べている[13]。
マンガイア島ではμ星がPipiriであるとする資料もある[23]。
ただし、これらの名がμ星以外の星のこともある。トゥアモトゥ諸島では、すぐ南(さそりの尾の側)の見かけの2重星$zeta;星、すなわちζ1星とζ2星が、Pipiri-maとされる[23]。ソシエテ諸島などでは、ふたご座のカストルがPipiri、ポルックスがRehuaとされる[24][22]。
また原始ポリネシアでRehuaの古い形Refuaはおそらくアンタレスのことで[25]、マオリのトゥーホエ族やトゥアモトゥ諸島などでRehuaはアンタレス(もしくはアンタレスの男神)である。ただし、シリウスなど別の明るい星とする民族もある。
コイコイ人
[編集]コイコイ人(総称であるナマ人とも)は、「ライオンの両眼」を意味する xami di mura と呼ぶ[26]。ただし、物語のようなものは記録されていない。
xami(χamiとも)がライオン、mura(mũra・mûraとも)が両眼だが、単語ではまったく別の星を指し、Xamiはベテルギウス[27]、Muraはケンタウルス座α星とβ星[26]である。
なお、コイコイ語では xami di mura は「ハミ・ティ・ムンラ」と発音する。文字xは/x/を表す。/d/の音はコイコイ語にはなく、文字dとtは同じ/t/の音と、声調の違いを表す。uは、この表記法では明示されていない声調により鼻母音となる。
名称
[編集]μ1星AaはXamidimura、μ2星[注 5]はPipirimaという固有名を持つ[2]。2017年9月5日、国際天文学連合の恒星の命名に関するワーキンググループ (Working Group on Star Names, WGSN) は、それらの固有名を正式に承認した[2]。
これらはいずれも本来はμ1星とμ2星からなる二重星の名だが、それぞれに割り振られた。
Xamidimura は、アフリカ大陸南部に住むコイコイ人の言葉で「ライオンの眼」を意味する xami di muraに由来する[19]。またPipirima は、上記のタヒチの伝承に登場する双子の男女に由来する[19]。
クック諸島の類話のPiri-ere-ua[20][21]や、和訳書にあるピリ・エラ・ウア[13]が、名前として挙げられることもある。
日本では、μ星やν星を、「すもうとり星」と呼ぶ地方がある[28]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ a b c d パーセクは1 ÷ 年周視差(秒)より計算、光年は1÷年周視差(秒)×3.2615638より計算
- ^ a b 視等級 5 5×log(年周視差(秒))より計算。小数第1位まで表記
- ^ 英語版en:Mu2 Scorpiiは、λ星とυ星とする異説をあげ、Anderson(2011)の旧版を出典にしているが、Anderson(2011)にはそのような記述はない。「サソリの尾の最後の2つの星」というあいまいな表現がこう解釈できるかもしれないが、明るい星が先行するという記述とは矛盾する。
- ^ 英語版en:Mu2 Scorpiiは、ω1星とω2星だとし、Anderson(2011)の旧版を出典にしているが、Anderson(2011)にはそのような記述はない。「尾に位置する、(両親の星より)鋏に近い二重星」を、鋏にある二重星と誤読したのかもしれない。
- ^ CSN(出典)のテーブルは「mu02 Sco A」、Noteは「mu02 Sco」となっているが、μ2星は単独星であり、Noteが正しいと思われる。
出典
[編集]- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s “Results for mu.01 Sco”. SIMBAD Astronomical Database. 2017年7月19日閲覧。
- ^ a b c d e f “IAU Catalog of Star Names (IAU-CSN)”. 国際天文学連合 (2017年10月23日). 2017年10月28日閲覧。
- ^ a b “GCVS”. Results for mu. 1 sco. 2017年7月19日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o van Antwerpen, C.; Moon, T. (2010). “New observations and analysis of the bright semidetached eclipsing binary μ1Sco”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 401 (3): 2059-2066. arXiv:0910.1241. Bibcode: 2010MNRAS.401.2059V. doi:10.1111/j.1365-2966.2009.15796.x. ISSN 00358711.
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- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t “Results for mu.02 Sco”. SIMBAD Astronomical Database. 2017年7月19日閲覧。
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- ^ a b c d ロバート・バーナム Jr 著、斉田博 編『星百科大事典 改訂版』地人書館、1988年1月、855頁。ISBN 978-4805202661。
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- ^ The Washington Double Star Catalog: 06-11 hour section
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- ^ a b c d e Robert W. Williamson (1933), Religious and Cosmic Beliefs of Central Polynesia, p. 133
- ^ a b Maud Worcester Makemson (1941), The Morning Star Rises: An Account of Polynesian Astronomy, p. 243
- ^ Richard Hinckley Allen (1963), Star Names: Their Lore and Meaning, p. 229, ISBN 0486210790
- ^ Polynesian Lexicon Project Online: Entries for REFUA CE A star name, perhaps Antares (Mkn) and month name, December, January
- ^ a b Theophilus Hahn (2000), Tsuni-Goam: the Supreme Being of the Khoi-khoi, p. 109, ISBN 0415244552
- ^ Theophilus Hahn (2000), Tsuni-Goam: the Supreme Being of the Khoi-khoi, p. 23, ISBN 0415244552
- ^ 原恵『星座の神話 - 星座史と星名の意味』(新装改訂版第4刷)恒星社厚生閣、2007年2月28日、140頁。ISBN 978-4-7699-0825-8。