Now That's What I Call Music!
『Now That's What I Call Music!』(ナウ・ザッツ・ホワット・アイ・コール・ミュージック!)は、1983年にヴァージン・レコード(現ユニバーサル・ミュージック)とEMI(現ソニー・ミュージック)がイギリスとアイルランドで発売した、様々なアーティストの最新ヒット曲を集めたコンピレーション・アルバム・シリーズである。翌年、南アフリカを皮切りに各国でスピンオフ・シリーズが始まり、1993年には日本、1998年にはアメリカなど、世界各国[注釈 1]で展開されている[1]。
2024年にはミュージカル化された[2]。
解説
編集このシリーズのコンセプトは、イギリスの実業家リチャード・ブランソンが創業したヴァージン・レコードの、当時のライセンス・ビジネス部門の責任者スティーブン・ナビンとゼネラル・マネージャーのジョン・ウェブスターによって考案された[3]。このアイデアはブランソンの従兄弟でマネージング・ディレクターのサイモン・ドレイパーに伝えられ、さらにEMIレコードのマネージング・ディレクターのピーター・ジェイミソンに伝えられた。ジェイミーソンも同様なコンピレーションの発売を計画していたため、直ちに提携に同意した[4]。最近のヒット曲を1枚にまとめてリリースするというコンセプトは新しいものではなかったが[注釈 2]、2つの主要レコード会社が共同でこのような事業を行ったのは初めてのことだった。ヴァージンはEMIが契約に合意することで、より多くの大ヒット曲を収録することができた[注釈 3]。
このシリーズのタイトルは、鶏の歌声を聞きながら「Now That's What I Call Music(それこそまさしく音楽だ)」と言っている豚の姿を描いた1920年代のデンマーク産ベーコンの広告ポスターから取ったものである[注釈 4]。このポスターは、ブランソンがドレイパーのために購入したもので、ヴァージン・レコードのオフィスで彼の机の後ろに飾られていた[注釈 5]。この豚はシリーズのマスコットとなり『Now 3』から『Now 5』まではジャケットのアートワークに登場した[6][注釈 6]。なお、1990年4月リリースの『Now 17』まではタイトルに「!」は付いていなかった[7]。その後『Now 18』『Now 19』で「Now」の後に付き[8][9]、1991年11月リリースの『Now 20』から現在のように「Music」の後に付けられるようになった[10]。
『Now』の第1弾は1983年11月28日に、その年にイギリスでヒットしたシングル30曲を2枚組のLPやカセットに収録し発売された[11]。このアルバムは従来のコンピレーションにはない、まさに『今ヒットしている曲』をレーベルを超えて集めるというコンセプトで爆発的にヒットし、全英1位を獲得した。この成功はレコード市場に大きな影響を与え、CBSとWEAによる『The Hit Album』(1984)やMCAとクリサリスによる『Out Now!』(1985)など様々なアーティストのヒット曲を集めたコンピレーション・アルバムが続々とリリースされた。そのためイギリスのアルバム・チャートの大部分を占めるようになり、従来のチャートを単一のアーティストによるリリースに限定するために、1989年に独立した「コンピレーション・チャート」が新たに作られた[12]。
1984年3月に発売された第2弾もヒットし、それ以降は年に2~3枚のペースでリリースされた。1992年以降は、3月下旬から4月上旬頃に1枚、7月下旬頃に1枚、11月下旬頃に1枚と、年に3枚のペースでリリースされるようになった。2023年8月現在、スピンオフや特別版は含まない「メインシリーズ」のアルバムだけで115枚となっている。シリーズを通して2枚組のアルバム形式を踏襲しており[注釈 7]、現在ではCDの容量を活用して2枚のディスクに40~46曲を収録している。
リリース開始35周年を迎えた2018年からCDによる「復刻」シリーズが始まったが、Ⅰ、Ⅱを除き、版権の関係で収録されていない曲がある。
販売形態
編集現在まで続く2枚組CDで販売されたのは、1987年11月リリースの『Now 10』からである。それ以前は2枚組アナログLPと2本組カセットテープのみでのリリースだった[注釈 8]。アナログLPは1996年11月リリースの『Now 35』まで[13]、カセットテープは2006年7月リリースの『Now 64』まで続いた.[14]。1999年7月リリースの『Now 43』からは2枚組ミニディスクでも販売が始まり、2001年4月リリースの『Now 48』まで続いた[15]。2005年11月リリースの『Now 62』からはiTunes Storeでデジタルダウンロード販売が始まり、2019年7月リリースの『Now 103』まで続いた。
またミュージックビデオ版もリリースされ[注釈 9]、VHSテープは『Now 1』から『Now 20』まで[注釈 10]、レーザーディスクは『Now 1』『Now 2』で、『Now 3』『Now 6』はベータマックスでも発売された。
日本版『Now』
編集日本版の『Now』は東芝EMIから1993年12月に発売された。ただし収録曲は東芝EMIの所有している洋楽の楽曲のみで、ヒットチャートに登場した曲以外にも日本国内のテレビCM等のタイアップ曲が収録された。この当時、日本のコンピレーション・アルバムの主な目的として「自社の保有する音源の有効活用」であったため、レコード会社をまたいだコンピレーション・アルバムはほとんど存在しなかった。このアルバムは累計で100万枚ほどを売り上げたとされ[16][17]、以降は外国の大物アーティストたちからのコンピレーション・アルバム収録への許諾が得やすくなったとされる[18]。
1994年11月リリースの『NOW2』ではポリグラムが加わったが、『NOW3』以降はEMIグループ傘下のレーベル中心の構成となっている。なお、2002年以降はレギュラーでのリリースは行われていない。
また、他国版と違ってレギュラー以外にジャンル別の『Now』シリーズも多くリリースしている。1994年からクラシック版の『NOW CLASSICS』、1995年からジャズ版の『NOW JAZZ』、1996年からレゲエ版の『NOW REGGAE』、1998年からJ-POP版の『NOW JAPAN』がリリースされている。
リリース状況
編集レギュラー・シリーズ
編集タイトル | 発売日 | 販売形態 | カタログ番号 | 年間売上 | 年間ランキング | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
NOW 1 | 1993年12月8日 | CD | VJCP-25081 | 約84万枚 | 10位(洋楽1位) | 再発盤(1999年4月9日:TOCP-65191)は1曲少ない[注釈 11]。 |
NOW 2 | 1994年11月9日 | CD | TOCP-8450 | 約26万枚 | 69位 | |
NOW 3 | 1995年11月8日 | CD | TOCP-8750 | |||
NOW 4 | 1996年6月19日 | CD | TOCP-8950 | |||
NOW 5 | 1996年11月7日 | CD | TOCP-50050 | |||
NOW 6 | 1997年6月11日 | CD | TOCP-50227 | |||
NOW 7 | 1997年11月7日 | CD | TOCP-50368 | |||
NOW 8 | 1998年6月24日 | CD | TOCP-50588 | |||
NOW 9 | 1998年12月2日 | CD | TOCP-65030 | |||
NOW 10 | 1999年11月26日 | CD | TOCP-65350 | |||
NOW 11 | 2000年12月6日 | CD | TOCP-65654 | |||
NOW 2001 | 2001年9月27日 | CD | TOCP-65780 |
日本版以外の『Now』
編集脚注
編集注釈
編集- ^ アルゼンチン、オーストラリア、中国、スペイン、メキシコをはじめとする国で各国独自の選曲によるバージョンが販売されている。
- ^ 例えば、K-telやRoncoは何年か前から様々なアーティストのコンピレーションをリリースしていた。[5]。
- ^ シリーズ第1作目『Now』のジャケットには「11曲のナンバーワン」と記されていた。
- ^ 『Now 1』の裏ジャケットにポスターが描かれている。
- ^ ブランソンは「ドレイパーは朝食の前に不機嫌になることで有名だったが、卵が大好きだったので、ポスターを買って額に入れ、彼の机の後ろに飾ってもらった」と書いている[4]。
- ^ 2018年7月リリースの『NOW100』に復活登場した。
- ^ 海外フランチャイズのNow!シリーズは1枚のみのリリースが多い。
- ^ これ以前にも「Now 4」「Now 8」「Now 9」がCDで発売されたが、いずれも1CDのダイジェスト版だった。
- ^ このミュージックビデオ版にはアルバムに収録されている曲の一部のビデオと、収録されていない数曲のビデオで構成されていた。
- ^ 『Now 19』を除く。
- ^ ギルバート・オサリバンの「エニィタイム」が除外されている。
出典
編集- ^ “'Now' Compilation Celebrates Silver Anniversary” (2008年9月11日). 2021年11月30日閲覧。
- ^ https://thenowmusical.com/
- ^ “Now That's What I Call Music - 25 Years Album Review”. allgigs.co.uk. 30 November 2021閲覧。
- ^ a b “About NOW That's What I Call Music”. EMI Music. 30 January 2013時点のオリジナルよりアーカイブ。30 November 2021閲覧。
- ^ “In the Beginning, There was Ronco… | East of the M60”. Mancunian1001.wordpress.com (2010年9月24日). 30 November 2021閲覧。
- ^ “NOW That's What I Call Music! 5”. EMI Music. 30 November 2021閲覧。
- ^ “NOW That's What I Call Music! 17”. EMI Music. 30 November 2021閲覧。
- ^ “NOW That's What I Call Music! 18”. EMI Music. 30 November 2021閲覧。
- ^ “NOW That's What I Call Music! 19”. EMI Music. 30 November 2021閲覧。
- ^ “NOW That's What I Call Music! 20”. EMI Music. 30 November 2021閲覧。
- ^ “NOW 1”. Allmusic. 30 November 2021閲覧。
- ^ New Statesman Society: p. 52. (7 April 1989)
- ^ Inlay of Now That's What I Call Music! Decades, released in 2003.
- ^ Wade, Ian (5 May 2020). “Hit By Hit: 30 Years Of Now That's What I Call Music”. The Quietus. 30 November 2021閲覧。
- ^ “Now That's What I Call Music! 48”. musicbrainz.org (28 September 2020). 30 November 2021閲覧。
- ^ “最新ヒット曲の編集盤 コンピレーションCD 洋楽市場で空前の人気”. 読売新聞・東京夕刊: p. 7. (1994年10月8日). "... コンピレーションCD(編集企画盤)が、洋楽市場で空前の売れ行きだ。複数のアーチストが競演するのがコンピレーション盤。中で、最近、注目を集めているのは最新ヒット曲集だ。昨年末に発売された「ナウ1」(東芝EMI)は、売り上げ百万枚を突破する勢い。従来は、この種の企画は3万枚がせいぜいだっただけに、驚異的な数字だ。もともと、このシリーズは英国が本家。アルバムの売り上げ活性化を図ろうと十年ほど前に企画され、現在はすっかり定着して編集盤専門チャートまで出来た。... 複数のレコード会社が連携して内容は一層豪華になってきた。「ナウ2」は三社の連携。制作・発売元の東芝EMIに曲を提供したポリドールでは「曲を借りる側は強力な作品を網羅でき、貸す側は宣伝費や在庫のリスクを負わずに印税を確保できる」... と、双方の利点を挙げている。" - ヨミダス歴史館にて閲覧
- ^ "UK Top 40 Compilation Albums", BBC, retrieved 2012-04-01
- ^ “消費者への究極の親切企画? コンピ盤が人気(in・short)”. アエラ: p. 71. (1995年5月15日). "様々な音楽家の曲を編集した「コンピレーション・アルバム」が売れている。WEAジャパンでは、四月二十五日から「HITS」シリーズの発売を始めた。マドンナやエリック・クラプトンら洋楽の最新ヒット曲を、原則として一曲ずつ収録している。海外の音楽家の場合、自作を他人の曲と一緒に編集されることに拒否反応が強かった。「日本には、編集アルバムに百万枚規模の市場があることが理解され、超大物からもOKが取りやすくなった」と担当者はいう。... 実際のところ、「編集アルバムの場合、音楽家に支払うロイヤルティーが安く、宣伝のため音楽家を動かさなくていいから、楽」という営業判断があるようだ。" - 聞蔵IIビジュアルにて閲覧
関連項目
編集- Now That's What I Call Music! 90 - 2015年発売、イギリス版の90枚目。