M6トラクター
M6トラクター(M6 High-Speed Tractor. 38 ton High-Speed Tractor M6:M6 高速牽引車 / 38トン高速牽引車 M6)は、アメリカで開発された大型砲兵トラクターである。
M6高速牽引車 | |
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38t高速牽引車 M6 | |
種類 | 砲兵トラクター |
原開発国 | アメリカ合衆国 |
運用史 | |
配備先 | アメリカ軍 |
関連戦争・紛争 | 第二次世界大戦、朝鮮戦争 |
開発史 | |
開発期間 | 1943年 |
製造業者 | アリス・チャルマーズ社 |
諸元 | |
重量 | 34.5t (76,000 lb) |
全長 | 6.55m(21ft 6in) |
全幅 | 3.07m(10ft) |
全高 | 2.64m(8ft 8in) |
要員数 | 1 10 |
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装甲 | 非装甲 |
主兵装 | ブローニングM2重機関銃 1丁 |
エンジン | ウォーキシャ 145GZ 直列6気筒ガソリンエンジン 2基 |
出力重量比 | 11.015hp/t (200hp/lb) |
懸架・駆動 |
水平渦巻スプリング(HVSS)式 前輪駆動 |
行動距離 | 177km(110 ml) |
速度 | 33km/h(21mph) |
概要
編集アメリカ軍は第1次世界大戦の戦訓から、陸上戦力の機動力向上の一環として砲兵の機動力を向上させる事が重要であると結論した。そのために必要な装備の開発と配備は戦間期の軍縮による予算の抑制から停滞していたが、第二次世界大戦の勃発により軍備の拡大が急務となり、野戦砲の大口径化(必然的に大重量化する)が進んだこともあり、砲の自走化(自走砲化)に加えて牽引砲であってもその移動手段は馬による牽引から砲牽引車によるものへと移行することが必要とされ、砲兵用高速牽引車[注釈 1]の開発が求められた。
それら高速牽引車はその目的により7 / 13 / 18 / 38 トンの車重が必要であると結論づけられ、これらのうち最大の能力を持つものとして開発されたのが本車である[注釈 2]。本車に求められた38トンの車重とは、口径8インチ(203mm)以上の重砲、特にアメリカ陸軍の保有する野戦榴弾砲では最大の口径を持つM1 240mm榴弾砲、及び最大の重量を持つM1 8インチ砲を牽引できることを目的としたものである。
M6は上述の目的を達成するためのものとして開発され、1944年に制式化されたが、前線部隊への配備が行われたのは同年の末から1945年の初頭であり、第2次世界大戦での運用は短期に終わっている。戦後も装備は継続され、朝鮮戦争でも用いられたが、大戦後に各種の砲牽引車および装軌式弾薬輸送車を統合した性能を持つ高速牽引車が開発された(試作のT42を経てM8 高速牽引車として完成した)ことと、1950年代にはアメリカ軍において240mm榴弾砲の運用が終了したこともあり、1960年までに退役した。
開発・生産
編集M6の開発は1クラス下の18トン砲兵牽引車であるM4 高速牽引車の試作車両であるT9E1の設計を拡大したものとして行われた。そのため、各部のレイアウトやデザインはM4高速牽引車に類似しており、M4を全長、幅共にそのまま拡大したような車両となっている。走行装置は片側3組のボギー式サスペンションを持つ6個の転輪と接地式の誘導輪を持つM4と同様の方式で、エンジンもM4に搭載されたものを2基結合するという形が採用された。
1943年6月には“T22”および“T23”の名称で2種類の試作車が完成し、T22は重砲牽引用に車体後部区画に「第五輪」と呼ばれる結合式牽引装置を持つセミトレーラー方式のもので、T23は大口径高射砲(4.7インチ高射砲(M1 120mm高射砲)牽引用にM4高速牽引車と同様に車体後部区画に弾薬庫を持つ構成であったが、最終的には重砲牽引時には運搬台車を用いる通常の方式とすることに変更されたため、T23への統合が決定され、T23は1943年6月に「38t HSP M6」の名称で制式化され[1]、G-184の供給カタログ指定番号[注釈 3]が与えられた。生産はM4高速牽引車と同じくアリス・チャルマーズ社が担当し、1944年2月から1945年8月にかけて1,235両が生産された[2]。
大戦後、牽引する砲の分解・組立及び搭載作業を行えるよう、またM6を工兵用の重機として用いるため、車体後部に搭載する20トン回転式クレーン及びそれに装着して用いる掘削バケットが「T9」の名称で開発され、ミルウオーキー・エクスカベーター社(Milwaukee excavator,co)[注釈 4]が試作を担当した。T9 掘削装置は1947年3月に承認され、「T9S」の名称でM6に搭載した最初の試作機が1947年10月に、試作2号機が1948年初頭に完成してアバディーン試験場においてテストが行われたが、制式採用はなされなかった[2]。
運用
編集M6は1944年末より欧州戦線に部隊配備され、各種の重砲牽引に使用された。しかし、実戦配備は当初の予定より大幅に遅れたため、最も必要とされていたイタリア戦線及びノルマンディー上陸作戦よりのフランス戦線には間に合わず、本来M6が牽引する予定であった各種重砲は主に戦車車体を用いた改造牽引車[注釈 5]によって牽引された。太平洋戦線にも配備されたが、それらの車両はハワイ諸島での訓練中に終戦を迎え、実戦には参加することなく終わった。
M6は1950年に勃発した朝鮮戦争でも用いられ、朝鮮戦争終結後、1960年までにすべての車両が退役した。その後、少数の車両が民間に払い下げられて超重量物牽引用のトラクターとして使用されている。
なお、牽引対象とする砲がアメリカ軍以外では殆ど使われなかったこともあり、アメリカ軍以外には供給されておらず、戦後も同盟国への供与は行われていない。
特徴
編集M6は前述のようにM1 240mm榴弾砲及びM1 8インチ砲、更にはM1 120mm高射砲を牽引するために用いられ、戦後はM1/M2(M115) 203mm榴弾砲の牽引にも用いられた。牽引力は最大 60,000 ポンド(約 27.2 トン)[1]で、車体後面下部には最大牽引力 60,000 ポンドのウィンチを装備した[1]。
各部はM4高速牽引車と同様に前部を乗員室、中央部に機関室、後部は弾薬庫とした構成となっており、乗員室は半密閉式とし、最前部に操縦席と横掛けの座席があり、その後方に横掛けの座席が前後対向式に2列備えられている構成もM4と同様である。車体後部には弾薬庫を設置していることも同様であるが、M4とは異なり牽引する砲に合わせて搭載弾薬を変更する場合は弾薬庫区画を丸ごと取り替えるのではなく、内部の弾薬搭載ラックのみを変更する方式となっている。弾薬庫には240mm砲弾及び装薬を20発、8インチ砲および4.7インチ高射砲(M1 120mm高射砲)ならば砲弾及び装薬を24発搭載可能となっていた[2]。
M6でM1 240mm砲及びM1 8インチ砲を牽引する場合、砲を砲身部と砲架及び砲脚部に分割し、2両一組で1門を輸送した。砲の分解・搭載作業のためにはM2 20トントラッククレーン(Truck Mounted Crane M2)[3]を必要とし[注釈 6]、2時間程度の時間と多数の人員を必要とした。
前述(「#開発・生産」の節参照)のように試作型のT22では砲を牽引する際には車体後部区画に第五輪を介して車輪付きの被牽引架台に載せた砲身もしくは砲架および砲脚を結合して牽引するセミトレーラー方式とされていたが[4]、この方式は最終的には採用されず、実用型のM6では分割した砲をそれぞれ3軸6輪の運搬台車(M2 / M3 Transport Wagon )に搭載し[注釈 7]、台車を連結具を介して車体後面のピントルフックに連結して牽引する。
この他、M6で牽引できる2軸4輪の弾薬輸送用トレーラ(M23 Ammunition Trailer)(積載量8トン)があり、使用時には1軸2輪の砲架車(M5 Heavy Carriage Limber)を介して牽引した。トレーラは2両を連結しての牽引も想定されていた[6]。
アメリカ軍の開発した他の高速牽引車と同様、乗員室の天面には自衛用に全周旋回可能な円周式機銃架があり、M49CリングマウントにM2 12.7mm機関銃を装備し、弾薬500発をキャビン内に搭載した。
各型
編集- T22
- 重砲牽引型の試作車。
- T23
- 高射砲牽引型の試作車。
- M6
- T23を制式化した量産型。1,235両生産。
- T9S
- T22 / M6に吊下げ能力20トンの回転式クレーンアタッチメントを搭載した重工作機械型の試作車。試作2両のみ。
脚注・出典
編集注釈
編集- ^ なおこの場合の「高速」とは、従来の“馬で牽引すること”に比べて迅速に牽引できる、という意味である。
- ^
この他の“7 / 13 / 18 トンの車重を持つ高速牽引車”は、1941年から1942年にかけてそれぞれ
として完成した。
ただし、M2は実際には航空機牽引用として使われており、野戦における砲牽引車としては使われていない。 - ^ G-number. List of the United States Army weapons by supply catalog designation(英語版)
- ^ “エクスカベーター(excavator)”とは「掘削機」の意で、ショベルローダーなどとは異なり掘削作業のみを行う(運搬や積載は行わない)ものを指す。
- ^ M31 戦車回収車(M3中戦車の回収車型)の車体を用いたM33 砲牽引車(M33 Prime Mover)、M10 戦車駆逐車の車体を用いたM35砲牽引車(M35 Prime Mover)及びM32 戦車回収車(M4中戦車の回収車型)の車体を用いたM34 砲牽引車(M34 Prime Mover)の3車種が生産されている(ただし、M34は実戦ではほとんど使用されていない)。
“PrimeMover”とは直訳すれば「原動力」だが、ここでは「動力付牽引車」を意味する。これらの車両を英語的に正確に表記する場合は「full-tracked artillery prime mover(全装軌式動力付砲兵牽引車)」となるが、軍事用語としては単に“PrimeMover”とのみ書かれることが多い。 - ^ トラッククレーンは掘削バケットを装着して射撃陣地の構築作業にも用いられた。
これらの作業を、装輪式のトラッククレーンではなく牽引車と同一の車台を用いた車両で行えるべく開発されたのが前述のT9S 掘削装置であるが、既述のようにT9Sは制式採用はなされなかった[2] - ^ M2は砲身と駐退機を、M3は砲架と砲脚を搭載する[5]。
出典
編集- ^ a b c RUSSIAN-TANKS>HIGH SPEED TRACTOR - HIGH SPEED TRACTORS (continuation) ※2022年12月21日閲覧
- ^ a b c d RUSSIAN-TANKS>HIGH SPEED TRACTOR - HIGH SPEED TRACTORS (continuation)*Page2 ※2022年12月21日閲覧
- ^ Military history website>M2 (automobilový jeřáb Thew-Lorain, 20 ton)Truck Mounted Crane M2 ※2022年12月21日閲覧
- ^ RUSSIAN-TANKS>SUPPORT VEHICLES PART-2[1] ※2022年12月21日閲覧
- ^ Model-Maniac Website>High Speed Tractor M6 with 240mm Howitzer M1 ※2022年12月21日閲覧
- ^ Model-Maniac Website>High Speed Tractor M6 with 240mm Howitzer M1>M6 High Speed Tractor with M23 Ammunition Trailer in Tandem ※2022年12月22日閲覧
参考文献
編集- スティーブン・J・ザロガ:著/平田光夫:訳『オスプレイ・ミリタリー・シリーズ 世界の戦車イラストレイテッド36 M3リー&グラント中戦車 1941‐1945』(ISBN 978-4499229586) 大日本絵画 2008年
- U.S.ARMY Technical manuals
- SNL G184