金融商品取引法
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金融商品取引法(きんゆうしょうひんとりひきほう、英語: Financial Instruments and Exchange Act[1]、昭和23年法律第25号)とは、金融商品の取引の公正を図り、投資家の保護や経済の円滑化を目的とする日本の法律[2]。制定時の題名は「証券取引法」であったが、2007年9月30日に証券取引法等の一部を改正する法律により金融商品取引法に改題された。
金融商品取引法 | |
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日本の法令 | |
通称・略称 | 金商法 |
法令番号 | 昭和23年法律第25号 |
種類 | 金融法 |
効力 | 現行法 |
成立 | 1948年4月6日 |
公布 | 1948年4月13日 |
施行 | 1948年5月6日 |
所管 |
(大蔵省→) (金融監督庁→) 金融庁 [理財局→証券局→監督局/証券取引等監視委員会事務局] |
主な内容 | 開示規制、業規制、不公正取引規制 |
関連法令 | 行政手続法、金融商品販売法 |
制定時題名 | 証券取引法 |
条文リンク | 金融商品取引法 - e-Gov法令検索 |
所管官庁は、金融庁監督局証券課および証券取引等監視委員会事務局である。金融庁発足前は、大蔵省証券局証券市場課が所管していた。
概要
編集元は、昭和憲法施行直後の1947年(昭和22年)に、証券取引法(昭和22年法律第22号)として制定されていた。翌1948年(昭和23年)の「証券取引法を改正する法律」(昭和23年法律第25号)によって全部改正され、現在の形となった。株式、公社債、信託受益権などの有価証券の発行や売買、デリバティブ取引に関して、開示規制、業規制、不公正取引規制、関連するエンフォースメントなどを規定する。
金融商品取引法において規定されるルールの中には、インサイダー取引などの不正な取引を排除するための規制や、有価証券そのものや有価証券の発行会社などの関連法人に関する開示に関するルールが含まれる。また、株式の公開買付制度など株式の取得に関するルールを規定し、それぞれの金融商品を取扱う業者についての取扱いを定めている。
なお、実際の取引は、本法のほか、金融商品の販売等に関する法律(金融商品販売法)、金融商品取引所・金融商品取引業協会が定める規則や商慣行などによっても規制される。
法律の内容
編集目的・概要
編集「国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することを目的」としているが、これを達成するため、直接的には、同条の冒頭にあるとおり、
- 「企業内容等の開示の制度を整備」(第2章 - 第2章の4)
- 「金融商品取引業を行う者に関し必要な事項を定め」(第3章 - 第4章)
- 「金融商品取引所の適切な運営を確保」(第5章 - 第5章の2)
- その他(課徴金、罰則等、自主規制団体など)
について規定する法律である。
そのため、企業内容に関する開示について定めるほか、金融商品取引業の登録制度や、金融商品取引所や金融商品取引清算機関、証券金融会社に関する免許などについて定める一方、信頼される金融商品市場の形成を目的として、不公正取引などが禁止され、これに対応する課徴金や刑罰などについても規定がある。
開示規制
編集発行開示規制
編集有価証券(適用除外有価証券を除く。)の募集または売出しに際しては、原則として、有価証券届出書の提出や投資家に対する目論見書の交付が求められる。
証券をこれから発行しようとする段階で、公正な発行を促す目的で、発行者、証券発行の仲介者、その他の関係者の規制を行う。 有価証券届出書は、有価証券の募集または売出しが内閣総理大臣に届けられる際に提出される書類で、受理されて15日後に、応募または売出しの効力が発生する。また、この書類の写しは、その証券が上場されている証券取引所等に提出し、公衆の閲覧(縦覧という)の対象になる。さらに、有価証券届出書の発行会社は、目論見書を発行して、募集または売出しの勧誘にあたって投資者に交付する必要がある[3]。
継続開示規制
編集有価証券届出書を提出した者など一定の者は、有価証券報告書、半期報告書または四半期報告書、および臨時報告書といった継続開示書類の提出が求められる。
証券を発行した後に、市場での証券の公正な取引と流通を促すため、関係者の規制を行う。 有価証券報告書は、金融商品取引所に上場されている証券の発行会社・発行法人、その他、金融商品取引法の規制対象の証券の発行会社が、事業年度経過後3か月以内に内閣総理大臣に提出することを求められる書類で、その写しは金融商品取引所等に提出され、公衆の閲覧(縦覧)の対象になる[3]。
公開買付規制
編集一定の株式等を取得する場合には公開買付けが義務付けられるとともに、同時に一定の開示が求められる。
大量保有報告規制
編集一定の株式等を保有する場合には大量保有報告書の提出が義務付けられる。
業規制
編集参入規制
編集一定の事業については、以下のとおり参入規制が定められている。
No | 種別 | 許認可等 |
---|---|---|
1 | 金融商品取引業 | 登録 |
2 | 第一種金融商品取引業の行うPTS業務 | 認可 |
3 | 登録金融機関 | 登録 |
4 | 金融商品仲介業 | 登録 |
5 | 認可金融商品取引業協会 | 認可 |
6 | 認定金融商品取引業協会 | 民法第34条の規定により成立した後、認定 |
7 | 金融商品取引所 | 免許 |
8 | 自主規制法人 | 認可 |
9 | 金融商品取引清算機関 | 免許 |
10 | 証券金融会社 | 免許 |
行為規制
編集上記の参入規制に服する事業者については、一定の行為規制が定められている。
不公正取引規制
編集金融商品取引法への題名変更と付随する改正
編集概要
編集以前は「証券取引法」という題名であったが、2006年3月に「証券取引法等の一部を改正する法律」が国会に提出され、同年6月に成立したことにより、金融先物取引法などの金融商品に関する法律群をこの法律に統合し、それに伴い、名称が「金融商品取引法」に改題されることが決定し、2007年9月30日に施行された。
この改正は、
- 投資性の強い金融商品を幅広く対象とする横断的な制度の整備
- 公開買付に関する開示制度や大量保有報告制度の整備
- 四半期報告制度の導入
- 財務報告に係る内部統制の強化等に関する制度の整備
- 開示書類の虚偽記載及び不公正取引(インサイダー取引)の罰則強化
などを主内容としている。
改正の経緯
編集金融システム改革
編集日本では90年代後半から日本版ビッグバンに代表される金融システムの改革・再編に関する議論が盛んであり、今回の金融商品取引法の制定もその流れの延長線上に位置付けられる。
国際的な潮流
編集日本の証券取引法の母法であるアメリカの証券法における「証券」概念はそもそも幅広い対象を予定するものであった。またその他の諸国においても、イギリスでは2000年金融サービス・市場法(FSMA)において定義された「投資物件」概念、ドイツの2004年証券取引法改正、EUで2004年4月に採択された金融商品市場指令(Mi-FID)において導入された「金融商品」概念など、各投資商品(金融商品)について横断的な規制を及ぼす方向に移行しつつあり、国際的な金融市場の整備という点からも同様の横断的な規制を及ぼす必要が生じていた。
用語変更
編集従来の証券取引法で用いられていた語句のうち、「証券」との語が付く用語は、原則として「金融商品」が付く語に置き換えられている。このため、金融商品取引法においては、いくつかの章のタイトルも変更されている。
なお、以前の証券取引所、証券会社は、いずれも概念として廃止され、相当する法律上の用語としては、「金融商品取引所」「(第一種・第二種)金融商品取引業者」となったが、「証券取引所」、「証券」の名称・商号を使用することは可能である。
廃止された法律
編集「投資サービス法」
編集この法律の制定前後においては「投資サービス法」という名称が仮称として、官庁の文書などを含めて使用された。ただし正式名称として金融商品取引法という名が採用されてからは、投資サービス法という名はもはやあまり聞かれなくなった。なお、「投資サービス法」と並べて用いられた言葉が「金融サービス法」であった。前者は投資商品(投資性のある金融商品)のみを規制の対象とするものとして、後者は投資性のないものも含めたあらゆる金融商品を規制の対象とするものとして用いられた。金融商品取引法は投資性のあるもののみを「金融商品」として規制対象とするので「金融サービス法」ではなく「投資サービス法」なのである。
「日本版SOX法」
編集この法律の一部について経済界、監査法人などを中心に「日本版SOX法」あるいは「J-SOX法」(オリジナルのSOX法はアメリカ連邦法)と呼称されている。これは金融商品取引法全体を指すのではなく、新たに義務付けられた内部統制報告書の提出に関する部分についてのみを指すのが一般的である。内部統制報告書ないしは内部統制システムについての詳細な基準については、内閣府令に委ねられている。「日本版SOX法」による日本の内部統制については「内部統制」の項にて詳述。
金融商品取引法(証券取引法)改正の歴史
編集- 1947年 - アメリカの1933年証券法及び1934年証券取引所法を参考にしつつ、第92回帝国議会において証券取引法制定、公布。証券取引委員会に関する規定のみ施行[4]。
- 1948年 - アメリカの1933年証券法及び1934年証券取引所法をさらに参考として、前年の証券取引法を全部改正法としての証券取引法を改正する法律(昭和23年法律第25号)が制定、公布。証券取引委員会の権限を強化して、行政官庁とする[4]。情報開示制度の充実化。
- 1952年 - 証券取引委員会廃止。大蔵省理財局証券課・証券取引審議会へ移管。
- 1953年 - 証券業者・証券取引所の監督制度の強化。
- 1965年 - 経済不況に伴う不祥事の多発を受けた抜本改正。証券会社の免許制導入など規制強化。証券外務員の登録制度導入。
- 1971年 - 有価証券報告書の提出義務の拡大。半期報告書・臨時報告書制度の導入。公開買付制度の整備。
- 1981年 - 公共債の証券業務を金融機関に解禁。
- 1988年 - 証券先物取引の導入、社債への規制、内部者取引規制の導入。
- 1990年 - 株式などの大量保有の開示制度。公開買付制度の改正。
- 1991年 - 損失保証・損失補填の禁止。一任勘定取引の禁止。
- 1992年 - 子会社による銀行と証券の相互参入の解禁。有価証券の定義の変更。公募・私募の区別の明確化、情報開示制度の整備。
- 1997年 - 証券不祥事の続発を受けた各種の規制の強化。
- 1998年 - 店頭デリバティブ取引を定義。証券投資法人制度の創設。情報開示制度の連結ベース化。取引所集中義務の廃止。株式売買手数料の自由化。証券業の免許制の廃止(登録制)、投資者保護基金の創設。
- 2005年 - 時間外取引によって3分の1以上の発行済み株式を取得する場合に、一定の情報公開を義務付ける。虚偽申請企業に対する課徴金制度の制定。会社法改正に伴う修正。
- 2006年 - 大量保有報告書制度、公開買付制度の規制の整備。金融商品関連の規制の全体的な見直し・統合措置に伴い、題名を金融商品取引法へ改題。各種の用語の変更。→「有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律」も参照
- 2013年 - 海外金融商品の「実質的な無登録販売」を行った投資顧問会社が業務停止処分を受け、金融商品取引法における「勧誘」と「紹介」の区別など、曖昧な点が問題となる[5][6][7]。
- 2014年 - 「勧誘」の区別などについて金融商品取引法内に明文化され、曖昧な記述の問題が解消される[8]。
題名の英語訳について
編集Financial Instruments and Exchange Act(直訳は「金融商品及び取引所法」)という(直訳ではない)一見奇妙な英語訳は、「証券取引法」の英語訳であるSecurities and Exchange Act(直訳は「証券及び取引所法」)を受け継いだものである。そして、Securities and Exchange Actという訳語は、証券取引法が、米国の1933年証券法及び1934年証券取引所法の双方を合わせたものに相当することを示すための、意訳である。なお、米国では、この双方の法律を担当する連邦政府の規制当局は、Securities and Exchange Commission(証券取引委員会;直訳は「証券及び取引所委員会」)という名称が与えられている。
脚注
編集出典
編集- ^ 日本法令外国語訳データベースシステム
- ^ 金融商品取引法|初めてでもわかりやすい用語集 SMBC日興証券 2021年3月26日閲覧。
- ^ a b 山浦久司 (2015年3月10日). 監査論テキスト (第6版 ed.). 中央経済社. ISBN 9784502141911
- ^ a b 第2回国会 衆議院 財政及び金融委員会 第10号 昭和23年3月24日 阪田政府委員の提案の理由
- ^ “無登録で金融商品販売=金融庁”. ロイター. (2013年10月11日) 2016年10月23日閲覧。
- ^ “「紹介」と「勧誘」の線引きは”. 日本経済新聞. 2013年10月7日. 2016年11月6日閲覧。(『日本経済新聞』2013年10月7日、5面(金融面)。『日本経済新聞 縮刷版 2013年10月号』327頁。)
- ^ 鈴木正人、柏木健佑、大浦貴史『旬刊商事法務』第2019号、2013年12月、 16-26頁。
- ^ 「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」2014年6月27日付(金融庁)[信頼性要検証]
参考文献
編集- 松尾直彦、岡田大、尾崎輝宏「金融商品取引法制の解説(1)金融商品取引法制の概要」『旬刊商事法務』第1771号、2006年7月、4-15頁。
- 神田秀樹、松尾直彦、黒沼悦郎、ほか「座談会 新しい投資サービス法制」『旬刊商事法務』第1774号、2006年8月、6-37頁。
- 鳥羽至英『内部統制の理論と制度』国元書房、2007年5月。ISBN 9784765815246 。