音楽配信
音楽配信(おんがくはいしん、英語: Electronic music distribution (EMD)[1][2])は、インターネットを通じて楽曲を配信することである。「デジタル音楽販売」「オンライン(音楽)配信」なども同じ意味に使われる。一曲・アルバム毎にダウンロードする形式や、定額制のストリーミングによる聴き放題の形式がある。
歴史
編集黎明期
編集パーソナルコンピュータのPCオーディオの分野では1990年代後半までに圧縮音源のMP3フォーマットが定着[3]。MP3の再生ソフトやCDに記録したMP3を聴くことのできるポータブルプレーヤーが発売されるようになった[3]。当時はインターネットもブロードバンドの普及前でデータ量の軽い音楽ファイルが好まれ、無料のエンコードソフトも豊富だったことから一気に普及した[3]。PCオーディオの音源ファイルの入手方法には音楽CDからのリッピングと楽曲配信サービスからのダウンロードの2つの形態の流れがある[3]。
北米市場での普及
編集画像外部リンク | |
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米国の音楽産業の販売数と売上金額の推移(媒体別)1973年以降(出典:全米レコード協会(RIAA)) | |
売上金額の推移 | |
2018年の売上金額構成 | |
販売数の推移 | |
2018年の販売数の構成 |
2000年代以降、Napsterなどのファイル共有ソフトやブロードバンドの普及で世界規模で海賊版問題が急速に拡大した。米国で海賊版全盛の状況に歯止めをかけるのは、全米レコード協会によるP2Pソフトウェアメーカー及び利用者への訴訟攻勢や、2003年に登場したApple Computerが米国で開始したiTunes Music Store(現iTunes Store)であった。
2000年代初頭に発売されたAppleのiPodは使いやすいインターフェイスによって人気を得ていた[3]。iTunes StoreはiPodの管理ソフトのiTunesに楽曲の購入とダウンロードの機能を付加したものである[3]。2005年上半期には、世界のレコード業界全体の売り上げのうち6%をデジタル販売が占め、前年の3倍超に急増した[4]。
2007年2月、Appleのスティーブ・ジョブズCEO(当時)がレコード会社に対してデジタル著作権管理(DRM)を撤廃するよう呼びかけた。その背景にはコピーコントロールCDを含む音楽複製防止に消費者の嫌悪が広がったこと、Appleが採用するFairPlayが他社の機器・ソフトで利用できず消費者を囲い込んでいることへの批判がある。これを受けてEMIはiTunes Store上でDRMなしの楽曲を配信することを決定し、2007年5月30日よりDRMフリーの楽曲を販売を開始した。
日本市場での動向
編集1999年、日本における最初のデジタル著作権管理(DRM)付き音楽配信はノエルが運営する「indiesmusic.com」にて実現された[5][6]。同年、大手レコード会社のソニー・ミュージックエンタテインメントが有料音楽配信を開始[7]。同年、ブイシンクが店頭設置型の音楽ダウンロード販売用端末「ミュージックポッド」(MUSIC POD) の実験を行い[8]、翌2000年から正式にサービス開始[9][10]。2000年は日本において、インターネットによる音楽配信の「元年」といわれたが、同年中には普及に至らなかった。当時はインフラ問題の改善(ダウンロード時間の短縮など)が課題と言われていた[11]。
2000年代、日本では直営配信サイト「bitmusic」などパソコンやデジタルオーディオプレーヤーで聞く音楽配信とは別に携帯電話を使った音楽配信が活況を呈するようになった[3]。2002年、携帯電話の「着うた」が展開されると、コンテンツプロバイダが権利者から借り受けた音源を一曲単位でコンテンツ販売する「着うたサイト」のビジネスが急速に規模を拡大することになる。2006年以降、着うたとは別の携帯電話向け音楽配信サービスも開始された。NTTドコモがNapster Japanと提携した音楽コンテンツ定額配信サービスの「うた・ホーダイ」と、auブランドを展開するKDDIおよび沖縄セルラー電話が立ち上げたLISMOである(Napster Japanについては2010年3月に終了済)。
音楽ダウンロード配信
編集音楽ダウンロード配信(おんがくダウンロードはいしん)は、配信ストアから楽曲を1曲単位・アルバム単位で購入し、その楽曲データをダウンロードし、パソコンやiPod、スマホ等のデバイスに保存することができるサービス。
世界的には、音楽ダウンロード配信による売上は2012年がピークで、それ以降は下降しており、代わりに定額制音楽配信が伸びている[12][13]。日本では、独自の規格である「着うた」「着うたフル」が普及したことにより、2008年に販売数のピークを記録した[14]。
音楽ダウンロード配信として、日本で最もダウンロードされた楽曲は、800万ダウンロードを記録した宇多田ヒカルの「Flavor Of Life」(パソコンによる音楽配信と着うた、着うたフルの累計。ギネス・ワールド・レコーズには、着うたフルで最もダウンロードされた楽曲である、青山テルマfeat.SoulJaの「そばにいるね」が、日本で最もダウンロードされた楽曲として認定されている)。
定額制音楽配信(ストリーミング)の普及により、2023年時点で日本の年間音楽配信売上におけるダウンロード配信のシェアは8.8%まで減少しており、ストリーミングが9割以上を占める状況となった[15]。
定額制音楽配信
編集定額制音楽配信(ていがくせいおんがくはいしん)は、月額で一定の料金を支払うことで自由に好きな楽曲を再生することができるサービス。サブスクリプション型音楽サービス、音楽ストリーミングサービスとも呼ぶ[16]。2008年にサービスを開始したSpotifyが業界最大手[17]。なお、Spotifyはフリーミアムモデルを採用している。
米国では2016年にストリーミングによる売上がダウンロード配信の売上を超え、音楽総売上の34.3%を占めた[18]。その後も急成長が続き、2019年には音楽総売上の80%に到達、CDなどのパッケージ販売やダウンロード配信を圧倒するシェアとなった。ストリーミングサービスのシェア拡大には、スマートフォンの普及が大きく寄与している[19]。
日本国内では2006年にNapster Japanがサービスを開始したが、2010年に終了。その後、2011年にLISMO unlimited(現:KKBOX)が、2012年にMusic Unlimited(2015年に終了)が、2015年にApple Music、LINE MUSIC、AWA、Google Play Music、2016年にSpotifyがサービスを開始した。2019年に日本国内のストリーミングによる売上は465億円を記録し、ダウンロード配信の225億円を大きく上回った[20]。
日本は米国に比べ、音楽市場におけるCDパッケージ売上が占める割合が高いが、ストリーミングサービスの普及により音楽業界のビジネスモデルは徐々に変化し、2018年以降にはあいみょん、Official髭男dismなどストリーミングサービスを起点に注目を集めるアーティストが増加した[20][21]。
ストリーミングはCDと比較すると、完成した楽曲をパッケージする時間を省けるのがアーティスト側にとってもメリットの一つとされている[22]。
ストリーミング・サービスの一覧
編集- Audius[23]
- Bandcamp
- FLO
- Genie Music
- IDAGIO
- Joox
- KakaoMusic
- LiveOne(旧「LiveXLive」)
- Melon
- Mixcloud
- Napster
- Naver VIBE
- Netease Cloud Music
- Pandora
- QQ Music
- SoundCloud
- Stemstr[24]
- TIDAL
- TikTok Music[25]
- VK Music[26]
- Yandex Music[27]
以下はネットラジオ
- 8tracks.com
- AccuRadio
- Audacy
- DI.FM
- RadioTunes
- iHeartRadio
- Jango Radio
- MyTuner Radio
- Sirius XM
- Stingray Music
- TuneIn Radio
日本対応
編集特記なきものは音声ストリーミングサービス。
- Amazon Music
- Amazon Music Prime(旧「Prime Music」)[28]
- Amazon Music Unlimited[29] - 定額聴き放題プラン
- Apple Music[30]
- auスマートパスプレミアムミュージック(旧「auうたパス 聴き放題プランオンデマンド」)[32] - 定額聴き放題プラン
- auうたパス 聴き放題プラン Myうたプラス/ベーシック - ラジオ型定額制音楽配信(新規受付終了)
- AWA[33][34]
- Deezer[35]
- KKBOX[36]
- LINE MUSIC[37]
- Qobuz[38]
- Rakuten Music [39]
- Spotify[40][41]
- TOWER RECORDS MUSIC[42]
- YouTube Music[43]
- YouTube - ビデオストリーミング
- dヒッツ powered by レコチョク - ラジオ型定額制音楽配信
- J:COMミュージック powered by auうたパス - ラジオ型定額制音楽配信
- SMART USEN[44][45] - 有料ネットラジオ
- BSCラジオ(旧「Backstage Cafe」)[46] - 無料ネットラジオ
- NAXOS MUSIC LIBRARY - クラシック音楽専門
- STAGE [47]- クラシック音楽専門
終了
編集- ANiUTa[48]
- Aupeo!
- Beats Music - Apple Musicに受け継がれた。
- Beatport
- Blinkbox Music
- Dhingana - Rdioが獲得した。
- Google Play Music - YouTube Musicに受け継がれた[49]。
- Groove Music
- Grooveshark
- Guvera
- iTunes Radio - Apple Musicに統合された。
- Last.fm - ストリーミングサービスを中止した。
- MixRadio
- MOG - Beats Musicに受け継がれ、Apple Musicに受け継がれた。
- mora qualitas[50]
- Music Unlimited - 日本では2012年7月3日開始(日本国外は2010年12月)。ソニーによる提供。2500万曲[51]。2015年3月29日に終了し、後継の Spotify によるプレイステーション ミュージックが41の国と地域で開始した[52][53][54]。
- rara
- Rdio - Pandoraに受け継がれた。
- RecMusic(旧「レコチョクBest」)[55] - TOWER RECORDS MUSICに受け継がれた。
- Rhapsody - Napsterに受け継がれた。
- Simfy
- Slacker Radio - LiveXLiveに受け継がれた。
- Songza - Google Play Musicと合併した。
- Thumbplay - iHeartRadioが獲得した。
- WiMP - Tidalに受け継がれた。
- Xbox Music - Groove Musicに受け継がれた。
- ひかりTVミュージック
配信限定コンテンツ
編集物理的なCDやDVDなどの形態では販売せず、デジタル配信のみで提供される音楽作品は、音楽産業のデジタル化に伴い、2000年代以降急速に普及した。
日本では、2000年代後半から配信限定シングルが急増した。これは、スマートフォンの普及やストリーミングサービスの台頭と密接に関連している。配信限定シングルは、アーティストにとって新曲を低コストで迅速に発表できる手段となり、ファンにとっても即時に楽曲を入手できる利点がある。
配信限定シングルに比べると数は少ないが、配信限定アルバムも存在する。嵐の『ウラ嵐BEST』のようなベスト・アルバムや企画アルバムが中心である。
脚注
編集出典
編集- ^ “はじめに ~EMDとは~”. 音楽配信関連情報サービス. 2024年5月13日閲覧。
- ^ “デジタルオーディオ用語集”. シャープ. 2024年5月13日閲覧。
- ^ a b c d e f g マイナビ『PCオーディオ ビギナーズガイド』2013年、7頁
- ^ 国際レコード産業連盟の発表
- ^ ノエルとトランス・コスモス、インディーズミュージック専門のセキュアダウンロード販売サイトを開始、ASCII.jp、1999年10月15日。
- ^ ダイジェストニュース、Internet Watch、1999年10月14日。
- ^ 音楽業界38年の足どり 昭和37年(1962年)~平成11年(1999年) 日刊レコード特信出版社 監修【第38回】 平成11年(1999年)音楽配信本格化、SMEも開始 宇多田800万枚、DVD躍進、日刊レコード特信出版社
- ^ 音楽データの自動販売機,ベンチャー企業が実験開始、日経クロステック(日経エレクトロニクス)、1999年5月18日。
- ^ ブイシンク、店頭設置型の音楽ダウンロード販売用端末『ミュージックポッド』の販売を開始、ASCII.jp、1999年12月14日。
- ^ リキッドのKIOSK端末がようやくお目見え~メディアはCD-Rに、FINANCE Watch、2000年11月16日。
- ^ 「回顧2000 ポピュラー 大人向けサウンド復権」『日本経済新聞』2000年12月20日付朝刊、40頁。
- ^ アップルのiTunes、音楽ダウンロードの売上高が大幅減 - WSJ
- ^ Digital Music Sales Decrease For First Time in 2013 | Billboard
- ^ “一般社団法人 日本レコード協会”. www.riaj.or.jp. 2024年7月6日閲覧。
- ^ “2023年 年間音楽配信売上が最高額更新 ストリーミングが初の9割超え レコ協発表”. ORICON NEWS (2024年2月27日). 2024年7月6日閲覧。
- ^ “Apple Music”. Apple(日本). 2021年8月26日閲覧。
- ^ 「定額制音楽配信」『日本大百科全書(ニッポニカ)』 。コトバンクより2021年7月16日閲覧。
- ^ “米音楽業界、ストリーミングとダウンロードの売上が逆転 史上初”. Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン) (2016年3月26日). 2021年8月26日閲覧。
- ^ “米音楽売上げ、ストリーミングが全体の8割に到達。スマホ普及とともにシェア拡大 - Engadget 日本版”. Engadget JP. 2020年1月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年8月26日閲覧。
- ^ a b “ストリーミング時代のヒットとは? 変化する音楽業界のビジネスモデル(柴那典) - 個人”. Yahoo!ニュース. 2021年8月26日閲覧。
- ^ “あいみょん、ストリーミングからブレイクした初のアーティストが音楽シーンに示した存在感”. ORICON NEWS. 2021年8月26日閲覧。
- ^ “【トークセッション】SKY-HI×AWA「令和時代の音楽ビジネスはどのように変貌していくのか」”. BARKS (ジャパンミュージックネットワーク株式会社). (2019年6月4日) 2021年12月3日閲覧。
- ^ Audius
- ^ Stemstr
- ^ TikTok Music
- ^ VK Music
- ^ Yandex Music
- ^ Amazonが「Prime Music」を日本で提供開始
- ^ 「Amazon Music Unlimited」開始、Echoユーザーは月額380円。4千万曲以上聴き放題 - AV Watch
- ^ Apple (日本) - Apple Press Info - Apple Musicが登場、音楽の楽しみ方のすべてを一つに。
- ^ Apple サポート (日本) - https://support.apple.com/ja-jp/HT213415
- ^ auスマートパスプレミアムミュージック
- ^ 定額制音楽配信サービス「AWA」が5月27日から提供開始--月額360円から - CNET Japan
- ^ 新定額制音楽配信「AWA」は5月下旬開始で月額360円~ - AV Watch
- ^ 日本初、CD音質のロスレスFLACで音楽配信「Deezer HiFi」8日スタート。月額1,960円 - AV Watch
- ^ 月額980円のスマホ/PC音楽配信「KKBOX」、6月1日開始 - AV Watch
- ^ 「LINE MUSIC」オープン記念無料トライアルキャンペーン!今なら誰でも無料で聴き放題! : LINE MUSIC MAGAZINE
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- ^ タワーレコードとレコチョクのコラボによる新音楽サブスクサービス「TOWER RECORDS MUSIC powered by レコチョク」2021年10月1日スタート! - PR TIMES
- ^ YouTube Musicがスタート。広告アリは無料、Premiumは980円〜
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- ^ 「スマホでUSEN」が「SMART USEN」に名称変更。1,000チャンネルの定額制音楽配信 - AV Watch
- ^ 音楽ラジオステーション「Backstage Cafe」11/1開局、30組以上のアーティスト・パーソナリティが音楽番組を配信 原宿に公開収録スタジオも
- ^ PR TIMES ドイツ・グラモフォンの映像&音楽配信サービス「STAGE 」 日本でサービス開始!
- ^ 世界初のアニソン定額配信サービス「ANiUTa」。月額600円で5万曲以上 - AV Watch
- ^ Google Japan Blog: Google Play Musicを日本で提供開始します
- ^ ハイレゾ対応ストリーミング配信「mora qualitas」無料先行体験開始
- ^ 定額制音楽配信サービス「Music Unlimited」、国内向け楽曲数2,500万曲以上を達成 | Music Unlimited | ソニー
- ^ 「Music Unlimited」サービス終了のお知らせ | Music Unlimited | ソニー
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