泣き塩
泣き塩(なきしお)は、落語の演目の一つ。狂言から出たものだといわれている。元々は上方落語の演目で、3代目桂文団治が得意としていた。それを3代目三遊亭円馬が東京に移植した。
笑わせる部分が少ないためか演じ手は少なく、東京では5代目古今亭志ん生、上方では桂米朝(題を『焼き塩』としてラジオ・テレビでは1980年に初演)の音源が残っている。
あらすじ
編集侍が、お花という若い娘に呼びとめられる。娘は、現在江戸で女中奉公をしているが、故郷の母親が身体を悪くしたとのこと。「心配をしているところへこの手紙が届きました。お恥ずかしい話ですが字を読めません。どうかこの手紙をお読みいただきたいのです」という頼みだった。手紙に目を通した侍は、「ああ残念だ。手遅れであるぞ。口惜しい、無念だ」と泣きはじめる。てっきり母親が死んだものと思ったお花も泣き出してしまった。
そこへ通りかかったのが焼き塩を売って歩くお爺さん。若い男女が泣いているのを見た爺さんは、なさぬ仲の二人が前途を悲観、無分別なことをするのではと心配して、これまた泣きながら二人を諭しはじめた。三人が泣いているのを見た野次馬たちも、それぞれ勝手なことを想像しては言い合っていると、はからずもお花の知り合いがやってきた。お花からわけを聞いたこの男が手紙を読んでみると、お花の母親の病気はすっかり癒ったと書いてある。それどころか、お花の許婚も年季が明け、のれん分けしてもらって商売をはじめるので、お花と夫婦になりたいから早く帰ってこいというめでたい知らせであることがわかった。
それを聞いたお花は大喜び。だが、侍はまだ泣いていた。そのわけを訊くと、「武士は腕さえ立てばいいと思い、学問にはまるで目を向けなかった。いま往来で『手紙を読んでくれ』と頼まれたが、読み書きの出来ぬ悲しさ。しかし、いまとなっては手遅れだ。残念だ、と泣いておったのだ」と言った。いっぽう思い違いをして間に入った焼き塩売りの爺さんは、照れ隠しからこういった。「何しろ私は、すぐに涙が出るたちでしてな。商売もそうでして、泣ァきィ塩ォォォ・・・・・・」