格闘技

自身の体での攻撃、防御を行う技術、もしくはスポーツ、あるいは、それを基にした興行
格闘家から転送)

格闘技(かくとうぎ)とは、自身の体での攻撃や防御を行う技術、もしくはスポーツ、あるいはそれを基にした興行のことである。挌闘技とも表記される[1]。「格技」「挌技(かくぎ)[注釈 1]」「武術(ぶじゅつ)[2]」「体技(たいぎ)[3]」「マーシャルアーツMartial Arts[2]」とも呼ばれる。

紀元前2000年ごろのベニハッサンにある墓の壁画に格闘技を行っている様子が描かれている。

狭義では、素手で組み合ったり、手足で打ち合ったりする形式の競技(en:Hand to hand combat)のことである。ルールが明文化され近代スポーツとしての体裁を整えた主として武術由来の試合競技を指す。武術というと武器を使用する技術の体系が含まれるが徒手のそれもあり、ほぼ格闘技と重なる。

競技、興行としての格闘技

概要

格闘技は、競技の分類の一つである。球技陸上競技と同次元であるといえる。

競技であるため、安全性、実戦性、観戦者への娯楽性、競技者の満足等に鑑みて競技ごとに様々なルール(競技規則、禁止行為)が設けられている。例えばボクシングでは、ナックル以外の部位を使用する攻撃、および上半身の前側面以外の部位に対する攻撃はルールで禁じられている。また、試合を興行として行う例も数多い。それらは一般的スポーツと同様である。

格闘技が他の競技と比して特徴的な点がいくつかある。1つが「1対1」である。エキシビションマッチなどのわずかな場合を除き、試合場内に同時に3人以上の競技者が存在することはない。団体戦にしても1対1を何回か繰り返すものである。

一定の基準を満たす攻撃が成功した場合(例:柔道投げ技による一本)や特定の状態に持ち込まれた場合(例:ボクシングのKO)には、試合時間やそれまでのポイントにかかわらず、試合の決着がつく点である。つまり、一発逆転のチャンスがあると言える。加えて、大抵の格闘技で、制限時間が定められており、ほぼすべての競技で、引き分けの回避、試合時間の短縮などを目的にポイント制が導入されている。

相手の体を直接どうにかする競技であるため、喧嘩闘争と似ていることも多い(違法ではない理由は「決闘罪ニ関スル件」を参照)。もともとは、戦場などでの使用を目的とした戦闘技術体系(後述)が、競技化されたものも多い。

他方で対戦を前提としない種目もある。例えばそれぞれの流派に含まれる技法を一定の順で演じるもの、あるいはそれを組み合わせて対戦の様子を再現したりするものである。空手における『型』や中国武術における表演などがあり、これらは個人で行われるものから3人以上で演じられるものもあり、総じて採点制で行われる。どういう行為が認められているかで大きく分けて3種に分けられる。

1. 打撃系

殴る蹴るという行為が認められていて、つかむ投げるなどの行為が認められていない競技。ボクシング空手など。相手に攻撃を当て、実際のダメージにより勝敗を決する場合(直接打撃制)と、実際に与えたダメージでなく、しっかり当たったかにより勝敗を決する場合がある。前者の例がボクシングであり、後者が空手である。またシュートボクシングムエタイラウェイ散打のように基本は打撃攻撃で、一部つかみながらの攻撃(首相撲、投げ、立ち関節)を認めているものもある。

2. 組技系

つかむ投げるなどの行為が認められていて、殴る蹴るという行為が認められていない競技。相手を倒すまでの攻防がメインの競技と、倒してからの攻防がメインの競技がある。相撲[注釈 2]レスリング[注釈 3]柔道などがある。

3. 総合系

殴る蹴る、つかむ投げる絞めるの両者が認められている競技。

種類

格闘技は異なる複数の競技をおこなう選手が他のスポーツより多い。特に以下の分類で同じ分類の競技ではより多くなっている。

打撃系格闘技 - 組技系格闘技 - 総合格闘技
打撃系格闘技
打撃技(突き技、蹴り技など)を主体とする格闘技。中国武術空手テコンドーボクシングキックボクシングシュートボクシングムエタイラウェイサバット散打などがある。ちなみに中国武術は、少林拳などの「北派(外家拳)」、太極拳などの「北派(内家拳)」、洪家拳などの「南派武術」に分類される。
組技系格闘技
組技(投げ技絞め技関節技フォール技固技など)を主体とする格闘技。柔道ブラジリアン柔術サンボキャッチレスリング相撲合気道などがある。ちなみにレスリングにはグレコローマンスタイルフリースタイルがある。
総合格闘技
打撃技、組技、立技、寝技の要素を含有する格闘技。修斗日本拳法大道塾空道ヨーロピアン柔術(JJIF)などがある。
着衣格闘技 - 裸体格闘技
組技の有る格闘技において規則上、着衣を掴めるか掴めないかは重要である。着衣の有無より掴むことを認めるかどうかで分類される。相撲はまわしを掴めるので着衣格闘技に分類される。
柔道、相撲、空手、合気道の日本武道は「素足の文化」、ボクシング、レスリング、サンボ、キャッチ、サバットの西洋格闘技は「靴の文化」とも言える。
着衣格闘技
柔道、相撲、合気道、日本拳法、空道、ブラジリアン柔術、ヨーロピアン柔術(JJIF)、サンボ、散打などがある。
裸体格闘技
レスリング、キャッチ、修斗、ボクシング、キックボクシング、シュートボクシング、ムエタイ、ラウェイなどがある。
立技格闘技
寝技のない格闘技。相撲、空手道、合気道、ボクシング、キックボクシング、シュートボクシング、カンフー、ムエタイ、ラウェイ、サバット、散打などがある。
立技組技系格闘技
寝技がなく組技主体の格闘技。総じて「相撲」とも呼ばれる。護身や戦闘よりも神事、遊戯等を目的にした土着的なものが多い。相撲、ブフ(モンゴル相撲)、シュアイジャオ(中国相撲)、ラム(セネガル相撲)、コシティ(インド相撲)、ヤールギュレシ(トルコ相撲)などがある。

戦闘技術としての格闘技

素手や小さな武器を用いた戦闘技術という意味で「格闘技」を用いる用法もある。

その意味で用いられる格闘技、すなわち体系だった近接格闘術には、いくかの種類があり、白兵戦術、逮捕術護身術などがそれにあたる。武術も意味的にはこれに含まれるが、武術は含めないのが慣習である。ちなみに徒手武術には沖縄武術や古流柔術などがある。

それぞれ状況は異なるが、実際の闘争での戦闘術であり、競技である格闘技における技術とは似て非なるものである。

一般に、軍隊格闘術軍用格闘技軍事格闘技などと呼ばれる。競技や興行の格闘技と違い、軍隊が戦争で行なう白兵戦を前提としているため、相手を殺傷することを目的とした技術である。全隊員に短期間で一定の戦闘力を身につけさせるため、習得容易で効果的な技が多い。軍隊では格闘術にあまり重きをおいておらず、体力向上、士気高揚目的という説もある。
ソビエト連邦コンバットサンボシステマイスラエルクラヴ・マガ日本自衛隊格闘術ゼロレンジコンバットなどがある。自衛隊格闘術は戦技競技会、徒手格闘選手権大会として競技化されている。
警察官犯人逮捕するための技術で、主に日本拳法武道をベースとしている。軍隊格闘術と違い、相手を殺傷するのではなく拘束するのを目的としている。逮捕術も競技化されている。
自分の身体を防護することを目的とした技術であり、相手を攻撃することのみを目的としているのではなく、危険に近づかない知識や安全に逃れる方法を含む。
伝統武術系護身術としては、截拳道系、戸隠流系、シラット系、合気道系、カジュケンボ系などが有名である。

格闘技団体・格闘技プロモーション

大相撲
空手
ボクシング
女子ボクシング
キックボクシング
シュートボクシング
ムエタイ
総合格闘技
その他

歴史

格闘技は非常に古くから存在しており、すでに紀元前3千年紀初頭にはボクシングやレスリングの記録がメソポタミアで残されている[4]古代オリンピックではレスリングやボクシング、パンクラチオンが正式種目のひとつとなっていた[5]

脚注

注釈

  1. ^ 連合国軍最高司令官総司令部による武道禁止の占領政策のもと文部省の中学学習指導要領新制中学校での「武道」(剣道柔道相撲)を「格技」に言い換えた。その後、「武道」という言葉が復活したこともあり、「格技」のほうは「格闘技」と同じような意味で使われるようにもなった。
  2. ^ 日本の格闘技相撲神社で奉納相撲が行われるように神事神道儀式)としての側面もあるが、江戸時代からは興行としても行われている。
  3. ^ プロレスは格闘技か否かという議論が多々あり、競技としての性質、興行論やビジネス論も入り混じり解釈が難しいが、プロレスがレスリングを基盤にしていることは事実である。1997年10月11日にプロレスラーの高田延彦ヒクソン・グレイシー戦をメインイベントとしたPRIDE.1が開催され、以後PRIDEは人気のある総合格闘技興行に成長したように、プロレス興行で行われた異種格闘技戦UWF系の競技性を強めたプロレス興行は後の総合格闘技興行に影響を与えた。また総合格闘技興行にプロレスラーが参戦したり、逆にプロレス興行に総合格闘技選手が参戦したりするなど、格闘技とプロレスの関係性は強い。K-1UFCなどの興行はプロレス的な演出と、プロレスにはない競技格闘技としての性格を併せ持つことで人気を得た。

出典

  1. ^ デジタル大辞泉 かくとう‐ぎ【格闘技/×挌闘技】
  2. ^ a b デジタル大辞泉 マーシャル‐アーツ(martial arts)
  3. ^ デジタル大辞泉 かく‐ぎ【格技/×挌技】
  4. ^ 「図説 人類の歴史 別巻 古代の科学と技術 世界を創った70の大発明」p205 ブライアン・M・フェイガン編 西秋良宏監訳 朝倉書店 2012年5月30日初版第1刷
  5. ^ 「図説 人類の歴史 別巻 古代の科学と技術 世界を創った70の大発明」p207-208 ブライアン・M・フェイガン編 西秋良宏監訳 朝倉書店 2012年5月30日初版第1刷

関連項目

外部リンク