凍雨

降水現象のひとつで、主に球形の透明な氷の粒が降るもの

凍雨(とうう、: ice pellets)は、主に形の透明の粒が降る気象現象。粒や解けかけのが落下の途中で再び凍ったもの[1][2][3][4][5][6]

地面に積もった凍雨
凍雨、および比較のためのアメリカ1セント硬貨(約19 mm)

性状と特徴

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小さなガラス玉にも形容される、透明または半透明の氷の粒[2][4][5][6]。直径5ミリメートル(mm)未満のものをいい(5 mm以上はひょう)、多くは約1 - 4 mm[3][4][5][7]。形は主に球形だが、突起の付いた不定形のものもみられ、稀に円錐形のものもある[2][3][4][5]。突起は、凍結の過程で内部の液体水が飛び出して形成されると考えられている[1]雪片が元となる場合、完全に解ければ透明で、解け切っていなければ残った雪片が不透明な部分になる[4]。なお、極地では雪の結晶が付着した形のものも観測されている[1]。完全に凍結しておらず、内部に液体水が残ったものもある[3][4][7]

凍雨の密度は高くて、ふつう氷の比重約0.92に近く、液体が残る場合はそれよりも大きい値をとる[3][4]。凍雨は踏んでも簡単には潰れない。堅い地面に落ちると音をたてて弾む[3][4]

また凍雨は非しゅう雨性の降水である[注 1][3]。ふつう高層雲または乱層雲から降る[3][4]

類似する固形降水として、あられは大きさが同じだが脆く白色不透明で密度が低く(比重0.8未満)、氷霰は大きさや色味が同じで密度も同程度だが、雪霰や氷霰は積雲や積乱雲から降るしゅう雨性の降水であることから区別できる[3]。さらにひょうは5 mmを超えるほど大きくしゅう雨性の降水であることから区別できる[3]

メカニズム

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から落下する雨粒が、0 ℃以下の層を通り凍結して形成される。また、雪片がいったん0 以上の層を通り融解、0 ℃以下の層を通り再び凍結してできるものもあるが、頻度は低い[1][4][5][6][7][8]

このようなプロセスは上空に気温の逆転層が存在することで起こる。凍雨は、上空の0 ℃以上の空気の層(暖気層、融解層)に比べて、地表付近の0 ℃以下の空気の層(冷気層、再凍結層)が厚いときに生じる傾向がある。なお、厚い0 ℃以上の暖気層に比して地表付近の冷気層が薄く、地表気温が0 ℃付近かそれを下回るとき、雨粒が過冷却状態の着氷性の雨として降り、地面などに落ちてまもなく凍結し雨氷となる場合がある[8]

気象状況としては、発生例が多いアメリカカナダでは主に温暖前線付近に生じ、地形などの影響を受けて前線の降水域に重ねて暖気の移流と寒気塊が形成される領域で、気温などの条件に該当するとき発生の可能性がある。また、乾燥空気の流入は蒸発による冷却を促す要素になる[8][9]

アメリカやカナダでは頻繁ではないもののしばしば発生する。雨から変わり、一時的に着氷性の雨を挟んで、凍雨に変わる経過をとる[7][4]

日本では発生は稀[7]。地域性があり、中部地方より北の山岳地帯と関東地方より北の太平洋側の平野部に偏って分布する[8]。近年では、2005年4月10日に北海道札幌市付近、2016年1月29日に関東平野の北部で発生例がある[9]

観測・記録

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日本の場合、予報や観測の場面により、凍雨は以下のように取り扱う。

  • 天気予報の予報文では、雪に含める形で予報される(みぞれと同様)[10]
  • 天気や大気現象の目視観測を行う拠点では、大気現象として凍雨を記録し、霰や雹などと区別している。自動気象観測装置を導入した拠点では、大気現象の記録を行っていない[11][12][13]
  • 目視・自動どちらの拠点でも、天気としては、凍雨が降っても「あられ」(雪あられ、氷あられ又は凍雨が降っている状態)と記録する[2]

国際気象通報式[注 2]では、凍雨単独を示す区分が1つあり、雪や雨などほかの減少を伴う場合はその区分として、選択して報告する。基本の記号は   [14][15]

ラジオ気象通報などの日本式天気図では、観測時に凍雨が降っている場合に天気を「あられ」とする(天気記号は [16]

航空気象の通報式[注 3]では、「降水現象」の欄のPLが凍雨を表す[17]

言葉

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氷雨と同様に、凍雨を冷たい雨や冬の雨、などを指して用いることもある[18]

世界気象機関など国際的には、英語では"ice pellets"が凍雨を指す[4][5]

アメリカ英語(アメリカやカナダ)では、"sleet"が凍雨を指す。また"ice pellets"は凍雨または霰を指す[5]

イギリス英語では、"grains of ice"が凍雨を指す。また"sleet"は霙を指す[19][20]

なお、英語の"freezing rain"は着氷性の雨を指す[21]

出典

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注釈

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  1. ^ しゅう雨性の降水="対流性の雲から降る降水強度が急に変化する降水"ではないことを意味する。
  2. ^ SYNOPSHIPなどに用いる96種天気。地上天気図#天気参照。
  3. ^ METARTAF

出典

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  1. ^ a b c d 『最新気象の事典』p.376 菊池勝弘「凍雨」
  2. ^ a b c d 『気象観測の手引き』、pp.59-60.「表12-1 天気種類表」「表12-2 大気現象」より、「あられ」「凍雨」
  3. ^ a b c d e f g h i j 『気象観測の手引き』、p.61-64「表12-3 大気現象の種類と定義・解説 (1)大気水象」より、「凍雨」「雪あられ」「氷あられ」「ひょう」
  4. ^ a b c d e f g h i j k l Ice Pellets”. International Cloud Atlas. WMO (2017年). 2023年3月3日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g ice pellets” (英語). Glossary of Meteorology. American Meteorological Society(アメリカ気象学会) (2016年7月11日). 2023年3月2日閲覧。
  6. ^ a b c 凍雨」『篠原武次, 小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』』https://kotobank.jp/word/凍雨コトバンクより2023年3月3日閲覧 
  7. ^ a b c d e 凍雨」『若浜五郎, 平凡社『世界大百科事典 第2版』』https://kotobank.jp/word/凍雨コトバンクより2023年3月3日閲覧 
  8. ^ a b c d 松下・西尾、2004年
  9. ^ a b 南雲信宏 (2019-09). 凍雨の形成機構と微物理過程に関する研究. 名古屋大学. https://hdl.handle.net/2237/00030798. 
  10. ^ 予報用語 > 降水”. 気象庁. 2023年3月3日閲覧。 “凍雨”
  11. ^ 「報道発表 地方気象台における目視観測通報を自動化します」、大阪管区気象台、2019年11月16日、2023年1月24日閲覧
  12. ^ 雪(初雪)の観測は誰がどのように行っているのですか?」、福岡管区気象台『はれるんマガジン』36号、2022年12月27日、2023年1月24日閲覧
  13. ^ 天気の「快晴」がなくなった 「歴史的転換」迎えた観測”. 朝日新聞デジタル. 2020年4月3日閲覧。
  14. ^ 国際式の天気記号と記入方式」、気象庁、2023年3月3日閲覧。
  15. ^ 過去の気象データ検索 > 「天気欄と記事欄の記号の説明」、気象庁、2023年3月3日閲覧。
  16. ^ 理科年表FAQ > 山内豊太郎「天気の種類はいくつあるのですか。その記号も教えてください。」、理科年表オフィシャルサイト(国立天文台、丸善出版)、2008年3月、2022年3月3日閲覧。
  17. ^ METAR報とTAF報の解説」、那覇航空測候所、2023年3月3日閲覧。
  18. ^ 凍雨」『小学館『精選版 日本国語大辞典』』https://kotobank.jp/word/凍雨コトバンクより2023年3月3日閲覧 
  19. ^ grains of ice”. Glossary of Meteorology. American Meteorological Society (2012年1月26日). 2023年3月2日閲覧。
  20. ^ sleet”. Glossary of Meteorology. American Meteorological Society (2012年1月26日). 2023年3月2日閲覧。
  21. ^ freezing rain”. Glossary of Meteorology. American Meteorological Society (2021年12月30日). 2023年3月2日閲覧。

参考文献

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  • 『最新気象の事典』、東京堂出版、1993年 ISBN 4-490-10328-X
  • 気象観測の手引き』、気象庁、1998年(平成10年)9月発行・2007年(平成19年)12月改訂。
  • 松下拓樹、西尾文彦「着氷性降水の気候学的特徴と地域性について」『雪氷』第66巻第5号、日本雪氷学会、2004年、541-552頁、NAID 10013540743 

関連項目

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