本作は、1791年に第1回ロンドン旅行の折りのために作曲されたもので、『ロンドン交響曲』の中では唯一の短調作品であり、また唯一、開始楽章が緩やかな序奏なしに開始する。
『ロンドン交響曲』の中で比較的目立たない作品でありながら、メヌエット楽章のトリオ(中間部)にチェロの独奏パートが置かれているなど、細部にハイドンの創意が仕込まれた作品となっている。
- 第1楽章 アレグロ・モデラート
- ハ短調、2分の2拍子(アラ・ブレーヴェ)、ソナタ形式。
- 序奏のないソナタ形式である。第1主題の冒頭にある特徴的な5音の動機は、楽章全体を通じて繰り返し使用される。
- 再現部は提示部との差が大きく、第1主題の再現が前半と後半に分かれて行われるほか、第2主題の再現の2回目にはヴァイオリン独奏の伴奏が登場し、後の楽章におけるチェロ独奏の活躍を暗示させる。
- なお、この曲では展開部・再現部の繰り返しは行われない(この頃のソナタ形式では、提示部を繰り返して演奏するのに加え、展開部・再現部も繰り返して演奏することが多かった)。
- 第2楽章 アンダンテ・カンタービレ
- 変ホ長調、8分の6拍子、変奏曲形式。
- 主題と3つの変奏、コーダから成る。主題は前半・後半共に繰り返して提示される。
- 第1変奏は、チェロの独奏とヴァイオリンが対話するように進行する。第2変奏は短調に転じ、自由な展開を見せる。第3変奏では原型に戻るが、細かい弦楽器の動きが装飾する。
- コーダでは主題の旋律を原型どおりに、和声だけを変えて再現した後、次楽章の主題を予感させるような動機で締めくくる。
- 第3楽章 メヌエット - トリオ
- ハ短調 - ハ長調、4分の3拍子、複合三部形式。
- メヌエット主部の後半で丸2小節分の休符を挟んでいるのが特徴的である。一方、ハ長調のトリオではチェロの独奏が全面にわたって活躍する。
- 第4楽章 フィナーレ:ヴィヴァーチェ
- ハ長調、2分の2拍子(アラ・ブレーヴェ)、自由なソナタ形式。
- 第1主題部では主題が前半・後半共に繰り返して提示される。経過部では第1主題に基づきながら、フーガが展開され、自由な経過句が現れたりして比較的自由な展開を見せる。この経過句は第2主題としての要素は薄く、この楽章はどちらかというと単一主題的である。再びフーガが現れ、短い展開部に入る。再現部はほぼ忠実ではあるが、主題の繰り返しは行われない。それからコーダに入り、主題が様々な展開を見せて全曲を閉じる。