ミニマリズム
ミニマリズム(英: minimalism)は、完成度を追求するために、装飾的趣向を凝らすのではなく、むしろそれらを必要最小限まで省略する表現スタイル(様式)[1]。ミニマリスムとも表記される。とも。
概要
編集「1950年代に彫刻や絵画の分野で芽を出していた[2]」とも、「1960年代に音楽・美術の分野で生まれ、ファッションにも導入された[1]」ともされる。
アメリカ合衆国では1960年代に登場し、主流を占めた傾向、またその創作理論であり、「minimal(最小限) ism(主義)」という組み合わせの造語であり、要素を最小限度まで切り詰めようとした一連の態度から生まれた、必要最小限を目指す一連の手法や、その結果生まれた様式である。装飾的な要素は最小限に切り詰め、シンプルなフォルムを特徴としている。芸術の諸分野(美術・建築・音楽・哲学・生活様式 等々)で導入、展開された。その結果、ミニマリズム文学、ミニマリズム建築なども生まれた。
"Simple is best"(シンプル・イズ・ベスト)という日本でもよく知られた格言や、アメリカの航空技術者クラレンス・ケリー・ジョンソンが唱えた「KISSの原則」がある。類似の概念は、オッカムのウィリアムやレオナルド・ダ・ヴィンチなども提唱している。また音の数や文字数に制限を与えることによって文学的創造を見出す定型詩は、世界中で愛好されてきた歴史がある。
諸ジャンルの展開
編集美術
編集もとはロシア構成主義によってその萌芽のあった様式である。カジミール・マレーヴィチは円と三角形と正方形のみの芸術を極限まで突き詰めようとした。ロシア革命によって多くのロシア人がアメリカ合衆国に脱出したことや、ピエト・モンドリアンやハンス・ホフマンといったヨーロッパの作家が移住したことでアメリカに輸入され、1960年代にフランク・ステラ、ドナルド・ジャッド、カール・アンドレほかによって「完全にミニマルな形態」のための運動が推し進められた。時を経て、様々な作風に転向していったステラのような作家もいるが、ジャッドやアンドレのようにミニマリストとして一貫した作風を貫いている作家たちもいる。詳しくはミニマル・アートを参照。後にマリオ・メルツ等によって行われたアルテ・ポーヴェラの一部の作家にもミニマリズムの影響を受けた作品[3]が存在する。フランスにおいては、ダニエル・ビュランやジャン=ピエール・レイノーといったコンセプチュアルな指向の作家へと受け継がれていく。
音楽
編集ミニマル・ミュージックを参照。創作人生の一時期にミニマリズムを経験した人物は数多い。命名者はマイケル・ナイマン。代表的な音楽家として、スティーヴ・ライヒやテリー・ライリー、ラ・モンテ・ヤング、フィリップ・グラスなど。ミニマル・ミュージックはロシア、日本、西ヨーロッパにまで及んだ。
哲学
編集フランスの現象学の哲学者であるモーリス・メルロー=ポンティは、「ミニマリズムの哲学者」と呼ばれる。『知覚の現象学』の英訳がミニマルアートの起爆剤になったと考える学者は多いが、音楽美術ともにこの本が起点になって行われた運動ではない。
文学
編集古来から世界中に韻文の文化が存在する。
現代文学のミニマリズムは1980年代にレイモンド・カーヴァー[4]、フレデリック・バーセルミ[5]らによって勃興した。
建築
編集バウハウスの最後の校長でもあり、1930年代にアメリカに亡命したミース・ファン・デル・ローエにおける"less is more"の思想はミニマリズムに近い概念であり、1950年代に建てられた彼の代表作のひとつである「ファンスワーズ邸」や、その影響下にあったフィリップ・ジョンソンの自邸「グラスハウス」などにおける、ガラスと鉄骨による極限まで削ぎ落とされたデザインは、建築におけるミニマリズムのひとつの到達点とあると言える。メキシコにおけるルイス・バラガンの作品群や、イタリアにおけるアルド・ロッシの初期の作品群においても、ミニマリズムの志向は色濃く表れている。
日本文化において
編集和歌、俳句、芸道の形、枯山水、水墨画、茶室、盆栽などは、限られた状況・空間や色彩の中に無限の世界を見出すミニマリズムである。これらは西洋文化の魅惑に対峙できる日本文化として発見され[6]、海外にも影響を与えた。
坂口安吾は、松尾芭蕉らは欲が深すぎたことで人工の限度に対する絶望が生じ、「無きに如かざる」を好んだのではないかと逆説的に論じている[7]。
脚注
編集- ^ a b ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
- ^ Oxford Dictionary
- ^ マリオ・メルツ、石の上に石は乗らない(1967)
- ^ ““What Was New?” −レイモンド・カーヴァーの家庭小説”. 『熊本県立大学大学院文学研究科論集』3号.2010.9.30 (2010年9月30日). 2018年10月5日閲覧。
- ^ “Southernscribe.com”. www.southernscribe.com. Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。
- ^ 津城寛文「日本の頂点文化 -ミニマリズムの達成」(Journal of International and Advanced Japanese Studies Vol. 12, February 2020, pp. 91-104)
- ^ 坂口安吾 日本文化私観
参考文献
編集- Bertoni, Franco (2002). Minimalist Architecture, edited by Franco Cantini, translated from the Italian by Lucinda Byatt and from the Spanish by Paul Hammond. Basel, Boston, and Berlin: Birkhäuser. ISBN 3-7643-6642-7.
- Carlos, Espartaco (1989). Eduardo Sanguinetti: The Experience of Limits. Buenos Aires: Ediciones de Arte Gaglianone. ISBN 950-9004-98-7.
- Cerver, Francisco Asencio (1997). The Architecture of Minimalism. New York: Arco. ISBN 0-8230-6149-3.
- Keenan, David, and Michael Nyman (2001). "Claim to Frame". The Sunday Herald (4 February).
- Lancaster, Clay (September 1953). "Japanese Buildings in the United States before 1900: Their Influence upon American Domestic Architecture". The Art Bulletin, vol. 35, no. 3, pp. 217–224.
- Nyman, Michael (1968). "Minimal Music". The Spectator 221, no. 7320 (11 October): 518–19.
- Pawson, John (1996). Minimum. London: Phaidon Press Limited. ISBN 0-7148-3262-6.
- Rossell, Quim (2005). Minimalist Interiors. New York: Collins Design. ISBN 0-688-17487-6 (cloth); ISBN 0-06-082990-7 (cloth).
- Saito, Yuriko (2007). The Moral Dimension of Japanese Aesthetics. The Journal of Aesthetics and Art Criticism, vol.65, no. 1 (Winter), pp. 85–97.
- モーリス・メルロ=ポンティ. 知覚の現象学. 法政大学出版局 1982
- ピエールイジ・マンチーニアートミニマルアート彫刻