ペーパー・ムーン』(Paper Moon)は、ジョー・デヴィッド・ブラウンの小説『アディ・プレイ』(日本では佐和誠の翻訳により『ペーパームーン』の題名でハヤカワ文庫 から刊行)を原作とした、1973年制作のアメリカ映画。監督はピーター・ボグダノヴィッチ

ペーパー・ムーン
Paper Moon
監督 ピーター・ボグダノヴィッチ
脚本 アルヴィン・サージェント
原作 ジョー・デヴィッド・ブラウン
製作 ピーター・ボグダノヴィッチ
出演者 ライアン・オニール
テータム・オニール
マデリーン・カーン
ジョン・ヒラーマン
撮影 ラズロ・コヴァックス
編集 ヴァーナ・フィールズ
配給 パラマウント映画
公開 アメリカ合衆国の旗 1973年5月9日
日本の旗 1974年3月9日
上映時間 103分
製作国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 英語
製作費 $2,500,000[1]
興行収入 $30.900,000[2]
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聖書を売りつける詐欺師の男と、母親を交通事故で亡くした9歳の少女との、互いの絆を深めていく物語を描いたロード・ムービー。シンプルな脚本で普遍的な映画を目指したという。

ライアン・オニールテータム・オニールの父娘共演で話題になった。

年間トップの興行収入を得、1973年第46回アカデミー賞ではテータム・オニールが史上最年少で助演女優賞を受賞した。

あらすじ

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1935年の大恐慌期のアメリカ中西部。聖書を売り付けては人を騙して小金を稼ぐ詐欺師のモーゼが、交通事故で亡くなった恋人の娘アディと出会う。アディをミズーリに住む伯母の家まで連れて行くよう頼まれたモーゼは、事故の慰謝料200ドルをせしめた上でアディを列車に乗せようとするが、アディはその金が自分のものだと主張。モーゼは嫌々ながらもアディを車で送り届けることになった。アディはモーゼが自分の父親なのではないかと尋ねるが、モーゼは否定する。

アディは大人顔負けに頭の回転が速く、モーゼの相棒として次々と詐欺を成功させながら旅を続ける。しかし、モーゼの前にダンサーだという白人の女トリクシーが現れ、旅に同行するようになった。車の後部座席に追いやられ、稼いだ金を浪費されたアディは、トリクシーの付き人の少女イモジンの協力のもと、モーゼとトリクシーを破局させることに成功する。

トリクシー達と同行していた間に所持金が少なくなっていたモーゼとアディは、偶然見つけた酒の密売人相手に詐欺を仕掛けることにした。ところが密売人と結託していた保安官に捕まってしまう。逃走に成功し、オンボロのトラックでミズーリに入った二人だったが、街で詐欺を働こうとしたところで追ってきた保安官に見つかり、所持金をほとんど奪われる。モーゼはアディを伯母の家へと連れて行った。最後にアディはモーゼに自分の父親ではないかと再び尋ねるが、モーゼは否定し、その場を去る。伯母はアディを温かく迎え入れる。

モーゼが坂道でトラックを止めて一服していると、アディが荷物を提げて駆けてきた。モーゼは同行を拒否するが、アディはまだ200ドルの貸しがあると主張する。そのとき無人のトラックが勝手に坂道を進み始めた。ため息をついたモーゼは、アディの荷物を持ち、アディを促して走り出す。二人が乗り込み、小さくなっていくトラックを映して物語は終わる。

キャスト

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役名 俳優 日本語吹替
テレビ朝日 TBS
モーゼ・プレイ ライアン・オニール 津嘉山正種
アディ・ロギンス テータム・オニール 冨永みーな
トリクシー・デライト マデリーン・カーン 鈴木弘子 小原乃梨子
ハーディン保安官 ジョン・ヒラーマン 石田太郎
ジェス・ハーディン 飯塚昭三 島香裕
イモジン P・J・ジョンソン 鈴木れい子 青木和代
ミス・オリー ジェシー・リー・フルトン 片岡富枝
牧師 ジェームズ・N・ハレル 北村弘一
牧師の妻 リラ・ウォーターズ 島美弥子
ミスター・ロバートソン ノーブル・ウィリンガム 平林尚三
駅長 ジャック・ソーンダース 千葉順二
カフェのウェイトレス ジョディ・ウィルバー 山田礼子
パール・モーガン リズ・ロス 高村章子
法執行官 エド・リード 加藤正之
リボン店の店員 ドロシー・プライス 沼波輝枝
エドナ・ハフ ドロシー・フォースター 斉藤昌
フロイド バートン・ギリアム 阪脩
リロイ ランディ・クエイド
不明
その他
江本はつみ
上山則子
水鳥鉄夫
上田敏也
広瀬正志
谷口孝司
江本はつみ
広瀬正志

スタッフ

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日本語版

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吹替 テレビ朝日 TBS
演出 佐藤敏夫
翻訳 木原たけし
調整 前田仁信
効果 TFCグループ 遠藤堯雄
桜井俊哉
プロデューサー 圓井一夫 安田孝夫
制作 東北新社
テレビ朝日 TBS

主な受賞歴

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トリビア

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  • 演技の経験も少なかったテータム・オニールは、当時わずか10歳でアカデミー助演女優賞を手にした。この最年少受賞記録は未だに破られていない。後に監督は、テータムが受賞したのはその努力の賜物だと証言している。
  • モーゼとアディを演じたライアン・オニールとテータム・オニールが実の親子ということもあってか、映画の中でも2人は本当の親子かもしれないとも解釈できるところがミソである(アディの母親は、少なくとも3人の男性と関係があったという設定になっており、3分の1以上の確率で本当の父親である可能性がある)。
  • 原作小説の題名は『アディ・プレイ』だったが、監督は「ヘビのようだ」と気に入らなかった。会社に変更を求めたが、10万冊以上売れている原作だったため容易に聞き入れてはくれなかった。監督は困り果て、友人であるオーソン・ウェルズに『ペーパー・ムーン』という題名ではどうかと相談すると、「良いタイトルだ、表題だけで売れる」と絶賛され、劇中のカーニバルの写真屋で「紙製の月」の上にアディが乗りたがるシーンを追加したことで、現在の題名が許可された。やがて、映画が公開されると、原作の題名も『ペーパー・ムーン』と変更になった。
  • タイトルの『ペーパー・ムーン』は、劇中挿入歌として使われている1935年の流行歌『It's Only a Paper Moon』(『イッツ・オンリー・ペーパー・ムーン』、歌:ビリー・ローズ、イップ・ハーバーグ、ハロルド・アーレン)から拝借したものである。ただし、ビデオ版では歌が異なっている。
  • 原作では舞台がアメリカ南部であるが、当時は南部を舞台とした映画が多かったため、映画では中西部に変更されている。この他にも、原作に大幅に手が加えられており、エンディングも撮影中にはまだ決まっていなかった(ラストシーンは、スタッフが未舗装の道に迷い込んだ時に、偶然見つけた場所から発想されている)。
  • 当時はすでにカラー映画がメインになっていたが、あえてモノクローム作品として制作されたのは、主演の2人が恐慌という時代設定に合わない金髪で青い目をしていたのを隠すためである。
  • モノクロのもうひとつの理由は、監督によれば「白黒の方が映画として表現力が増して見えるからだ」という。また手法として、カット割り無しで一気にシーンを撮影する場面が多く見られる。これは、観客を自然に引き込ませる意図を狙ってのことだが、演技する側にとっては難題であり、直線のドライブシーンは36回も撮り直された。この手法は、後半のカーアクションでも効果的に使用されている。
  • 劇中で自動車を駐車する際、モーゼは縦列でなく斜めに車を駐車している。これは、当時の駐車方法を再現したものである。
  • 撮影のラズロ・コヴァックスは、オーソン・ウェルズからのアドバイスでコントラストが引き立つ赤色フィルターを使用した。
  • 当時はまだ無名だったランディ・クエイドが、モーゼと車を交換するため一緒に取っ組み合いをする男役で顔を出している。
  • 出演する俳優・女優のほとんどが、『ラスト・ショー』などから監督作によく登場していた顔ぶれである。
  • 密売人と警察官の俳優は同一人物であり、体重の増減を行うことで体型に変化を見せ、2週間あけて撮影された。
  • 映画のヒットを受けてテレビシリーズ化(1974年9月ABCテレビにて放映)もされた。当時まだ子役だったジョディ・フォスターがアディに扮したが、人気は振るわず、1975年1月に放送は終了した。
  • 同年製作・公開のドイツ映画『都会のアリス』と設定が類似している。そのため、『都会のアリス』監督のヴィム・ヴェンダースは、本作の試写を観て一時製作中止も考えたという。しかし、ヴェンダースは「2人の関係が最後まで変わっていない」ことを不満に思い、脚本の後半部分を書き直して映画を完成させた。
  • 劇中のアディは「It don't〜」や「I ain't〜」など、崩れた英文法やスラングで喋る演出がなされている(通常は「It doesn't〜」「I'm not〜」)。

脚注

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  1. ^ Photos in 5 Minutes: 39 Bogdanovich, Clifford, Terry. Chicago Tribune (1963-Current file) [Chicago, Ill] 07 Jan 1973: i39.
  2. ^ Paper Moon, Box Office Information”. The Numbers. 2012年1月17日閲覧。

外部リンク

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