ヘリテージ財団

アメリカ合衆国のワシントンD.C.にあるシンクタンク

ヘリテージ財団(ヘリテージざいだん、英語: Heritage Foundation)は、1973年に設立された、アメリカ合衆国ワシントンD.C.に本部を置く保守シンクタンク企業の自由小さな政府、個人の自由、伝統的な米国の価値観、国防の強化などを掲げ、米国政府の政策決定に大きな影響力を持つ。ヘリテージ財団の活動はこれまでのシンクタンクの概念を変化させた。

1973年にメロン財閥の一員でピッツバーグ・トリビューン・レビュー紙英語版のオーナーとなったリチャード・メロン・スケイフクアーズ経営者のジョゼフ・クアーズ英語版の出資により設立され、保守活動家のポール・ウェイリッチ英語版が初代代表となった。1974年以降は共和党の政策委員会顧問やフィリップ・クレーン下院議員のスタッフ経験もあるエドウィン・フュルナー英語版が総裁を務めている。

2001年まで、公共政策に関する保守系月刊誌『ポリシー・レビュー英語版』を発行していた。2001年以降、同誌の発行はフーバー研究所に引継がれた。

沿革と主な提言

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指導者のための指図書

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ヘリテージ財団は1981年に出した政策分析『指導者のための指図書』(Mandate for Leadership) により、その存在が広く知られるようになった。それは政策提言のあり方を変えるものだった。1000ページ強からなる指図書はレーガン政権下で連邦政府の省庁の各部局や多くの機関の政務官に配布され、政策、予算、政権運営などで特に重視された。

冷戦との関わり

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ヘリテージ財団は、1980年代から1990年代前半にかけてのレーガン・ドクトリンの主要な立案者かつ支援者だった。米国政府はこれによりアフガニスタンアンゴラカンボジアニカラグアなどで反共主義を掲げて公然、非公然諸々の介入を行い抵抗運動を支援した。また冷戦の期間中全世界的に反共主義を支援した。

ヘリテージ財団の外交政策分析者はその活動を研究に限定せず、むしろ、アンゴラでのアンゴラ全面独立民族同盟 (UNITA) への兵器供与、カンボジア、ニカラグア、モザンビーク民族抵抗運動への支援、イラン・コントラ事件での資金提供など、政治的あるいは軍事的な支援を反政府勢力や東側諸国ソ連における反体制派に与えるための工作に力を注いだ。

財団はソ連が「悪の帝国」であるとして、単なる封じ込めではなく、その敗北を現実的な外交政策目標としたレーガン大統領の信念を実現させるように支援した。また、ヘリテージ財団はレーガンの掲げた弾道ミサイルに対する「戦略防衛構想」の立案においても重要な役割を果たした。

自由市場と国内政策

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経済面ではヘリテージ財団はサプライサイド経済学を提唱し、レーガノミクスと呼ばれる現象が起こった。また国際的にはウォールストリート・ジャーナルと共同で毎年世界各国の財産権の政府からの自由の度合いを示すとされる経済自由度指数を公表している。指数の指標として、政府の汚職貿易障壁所得税とその税率、歳出法の支配契約の履行率、規制による負担、銀行規制、労働法規、闇市場の活動などを用いているとされる。

1994年下院少数派院内幹事ニュート・ギングリッチらはヘリテージ財団の助言を元に選挙公約として「アメリカとの契約」(Contract with America) と題した文書を発表し、共和党の下院議員候補の多くが署名した。世論調査などによれば米国市民の大半はその内容を知らなかったが、保守派の結集により共和党が40年ぶりに勝利を収めた。これを受けてギングリッチらは公約の実現を図り、民主党中道左派であった当時のクリントン政権にほぼ受け入れられた。

気候変動懐疑論

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ヘリテージ財団は気候変動を重大な危機ではないと考え、京都議定書に反対している[1]プロジェクト2025では、バイデン政権インフレ抑制法英語版アメリカ海洋大気庁などの気候変動に関する政策、省庁を廃止し、化石燃料の利用を支援する意向を示している[2][3][4]

方針の影響

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それまでの学者や下野中の政治家が分厚い研究書を発行するといったシンクタンクと違い、ヘリテージ財団は忙しい政治家たちに仕事中に読めるような「ブリーフケーステスト」と呼んだ短い方針文を送りつけた。ヘリテージは政策を纏めて売込むやり方の開拓者であった。この方法はヘリテージの成功以降ワシントンのシンクタンクの活動の主要な部分を占めるようになった。これらによりヘリテージは米国で最も影響力のあるシンクタンクの1つと考えられている。

設立から30年余りながら、ヘリテージはワシントンのシンクタンク中でも強い地位を得ている。同様の保守系シンクタンクにアメリカンエンタープライズ研究所ケイトー研究所がある。対抗するリベラル系のシンクタンクにはブルッキングス研究所アメリカ進歩センターがある。ヘリテージは政策への影響力を強めるためにその本部をアメリカ合衆国議会の置かれているキャピトル・ヒルのエイトストーリー・ビルに置いている。

ヘリテージに関係する人物には米国の実業界や政府などで主要な地位を占めてきたリチャード・V・アレンポール・ブレマーイレーン・チャオローレンス・ディ・リタマイケル・ジョンズジョン・リーマンエドウィン・ミーズなどが含まれる。

財政支援

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ヘリテージ財団は法的にはロビー団体でなく、米内国歳入法501条(c)(3) の規定の「慈善等の活動を行う団体」として認められており、これにより税の免除を受け、また2004年度の総計では2970万ドルに上る個人や企業などからの寄付を集めている。資金提供の中心は他の保守系財団と個人の寄付であり、1995年度では31の財団から850万ドル、123人の個人から260万ドルが納められた。

個人的支援と寄付

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1973年の創設当時にはジョゼフ・クアーズが25万ドルを提供した他、リチャード・メロン・スケイフや石油事業家だったエドワード・ノーブル、アムウェイ創業者の一人ジェイ・ヴァン・アンデルなど億万長者からの出資を受けた。またブラッドレー財団オリン財団、スケイフ財団などの個人的に主宰されている財団からも資金援助を受けている。

大企業

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ヘリテージはチェース・マンハッタン銀行ダウケミカルフォードゼネラルモーターズモービルP&Gグラクソ・スミスクラインなど100近くの大企業からも継続的な長期の寄付を受けている[5]

アジアからの支援と関係

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海外からも多くの寄付を集めてきた中で、ヘリテージは韓国台湾からも毎年数十万ドルを継続して受けるようになった。

1988年秋には韓国の国会で韓国の情報機関がヘリテージに220万ドルを提供していたとする秘密文書が公開されたが、財団側は否定した。1989年に『USニューズ&ワールド・レポート』誌はその中に統一協会文鮮明のものも含まれていたと報じた。ヘリテージの近年の年次報告書ではサムスンから40万ドルが提供されたことが判っている。また韓国政府からの金が別の財団を通じて過去3年間で約100万ドル提供された。

ヘリテージの香港でのコンサルタント部門であるベル・ヘイブン・コンサルタンツ1997年にエドウィン・フュルナーとヘリテージのアジア専門のケン・シェファーにより設立され、マレーシアでの利権に興味を持つアレグザンダー・ストラテジー・グループなどのロビー団体に数百万ドルを提供してきた。ベル・ヘブンはフュルナーの妻リンダを雇い、事務所はヘリテージと共同である[6]

保守系組織に対する支援と関係

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ヘリテージ財団は設立当初から自由アジアのためのアメリカ会議クリスチャン・ボイスシチズンズ・フォー・アメリカ、平和と自由センター(1990年以降はニクソン・ライブラリの一部)、自由アフガニスタン委員会フリー・ザ・イーグル米国公共政策調査センターなどの保守系の組織に資金、場所、運営などへの支援を受けてきた。

参考文献ほか

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  • 横江公美『第五の権力 アメリカのシンクタンク』文藝春秋 文春新書 2004年8月21日 ISBN 4166603973
  • ジョン・J・タシク 著 小谷まさ代 近藤明理 訳『本当に「中国は一つ」なのか』草思社 2005年12月 ISBN 4794214618

脚注

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  1. ^ Heritage Foundation”. DeSmog. 2024年9月22日閲覧。
  2. ^ Friedman, Lisa (2023年8月4日). “A Republican 2024 Climate Strategy: More Drilling, Less Clean Energy”. ニューヨーク・タイムズ. https://www.nytimes.com/2023/08/04/climate/republicans-climate-project2025.html 2024年9月22日閲覧。 
  3. ^ Hewett, Frederick (2024年3月27日). “Project 2025 tells us what a second Trump term could mean for climate policy. It isn’t pretty”. WBUR. https://www.wbur.org/cognoscenti/2024/03/27/heritage-foundation-project-2025-2024-election-climate-change-frederick-hewett 2024年9月22日閲覧。 
  4. ^ Milman, Oliver (2024年8月14日). “Project 2025 promises billions of tonnes more carbon pollution – study”. ガーディアン. https://www.theguardian.com/environment/article/2024/aug/14/trump-project-2025-climate 2024年9月22日閲覧。 
  5. ^ Heritage Foundation” (English). Militarist Monitor. 2024年7月12日閲覧。
  6. ^ The Standard - China's Business Newspaper”. web.archive.org (2006年6月13日). 2024年7月12日閲覧。

関連項目

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外部リンク

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座標: 北緯38度53分42.7秒 西経77度0分10秒 / 北緯38.895194度 西経77.00278度 / 38.895194; -77.00278