ギリシア語 の ἱερογλυφικά (古代ギリシア語ラテン翻字 : hieroglyphiká , ヒエログリュフィカ)に由来する。これは、ἱερός (hierós , ヒエロス。「聖なる」)+γλύφω (glýphō , グリフォ。「彫る 」)を意味する。古代エジプト遺跡で主に碑銘 に用いられていたのでこう呼ばれた[ 3] 。
ヒエログリフは象形文字 と呼ばれるように絵に似ているが、その見かけに反して、表意文字 よりも表音文字 が多い。表意文字の音を借りることもある。漢字でいえば仮借 の使用法に近い。表音文字では通常母音は無視され、子音のみが表記される。このため、例えば"mr(i)"という単語があっても、「愛、ミルク壺、運河、ピラミッド[ 注釈 1] 、闘牛の牛」等という名詞と、「縛る」という動詞などのどの意義かはっきりと分からない[ 注釈 2] 。
その単語に、発音されない文字が付け加えられることがある。これを決定詞 という。
以上のように、決定詞があることにより、意味の決定が可能となる。また、表意的に使われている事を示す為に "r" の音を表すヒエログリフを音声補字 、いわば送りがなとして添える事もある。これでmrと発音し、音声補字のrや決定詞は発音しない。
メンフィスの博物館のヒエログリフ。後ろに見えるのはラムセス2世 の像
ヒエログリフは右からでも左からでも書け、縦書き横書きも同様に行える。読む方向は、生物の形をしたヒエログリフの頭の向きで判断し、頭が向いている方向が文頭になる。
ヒエログリフで表される音は子音のみであり、母音は表記されないため発音に支障が生じる。ここで、エジプト学では利便性を考慮し、実際のコプト・エジプト語 などからの再建発音ではなく仮の発音法を主に用いる。
子音が二つ以上続く単語の場合は、各子音間に"e"音を補って読む。
例: nfr → nefer(ネフェル)(美しい)
A, a, i, w は本来子音文字だが、それぞれ母音「ア」、「アー」、「イ」、「ウ」として読む。ただし、完全にこの規則に従うわけではない。
例: zA → サア(息子)。 ra → ラー(太陽神ラー )、wsir → ウシル(オシリス )、itn → アテン(太陽神アテン )。
フランス式では"e"の代わりに"o"を補い、itnをAton(アトン)とする場合もある。同様に、imnをAmun(アムン)、Amon(アモン)ともされる。
以下は、表音文字として多用される1子音文字の一覧である。カナ転写は統一されておらず学者によって異なるので、不正確な可能性があることに留意されたい[ 注釈 3] 。なおMdCとは、マニュエル・ド・コダージュ を示す。
ヒエログリフ
文字の説明
MdC
翻字(別表記)
ラテン文字転写
カナ転写
𓄿
エジプトハゲワシ
A
Ꜣ
a
ア
𓇋
葦 の穂
i
j
i
イ
𓇌
葦の穂2つ
y
y
y
イ、ィ
𓏭
𓂝
前腕
a
Ꜥ
a
アー、ア、ァ
𓅱
ウズラの雛
w
w
u
ウ、ゥ
𓏲
𓃀
足
b
b
b
ベ、ブ
𓊪
葦のマット
p
p
p
ペ、プ
𓆑
角の生えた毒蛇[ 注釈 4]
f
f
f
フェ、フ
𓅓
フクロウ
m
m
m
メ、ム
𓐝
不明
𓈖
さざ波
n
n
n
ネ、エン、ニー(語頭)
𓋔
赤冠
𓂋
口
r
r
r
レ、ル、エル
𓉔
よしず張りの囲い
h
h
h
ヘ、フ、ホ[ 注釈 5]
𓎛
よりあわせた亜麻糸
H
ḥ
h
𓐍
不明。胎盤 、篩 、紐の玉?
x
ḫ
kh
ケ、ク
𓄡
雌の獣の腹と尾
X
ẖ
kh
𓋴
折り畳んだ布
s
z
s
セ、ス
𓊃
かんぬき
z
s
s
セ、ス(ゼ、ズ)
𓈙
池
S
š
sh
シェ、シュ
𓈎
丘の斜面
q
ḳ
k
ク
𓎡
取っ手のついた籠
k
k
k
ケ、ク
𓎼
土器の台
g
g
g
ゲ、グ
𓏏
パン
t
t
t
テ、トゥ[ 注釈 6]
𓍿
動物をつなぐ縄
T
ṯ
tj
チェ、テ
𓂧
手
d
d
d
デ
𓆓
コブラ
D
ḏ
dj
ジェ、ジュ
^ ピラミッドは読みはmrだが、綴りはと大幅に異なるので本稿では省く
^ 動詞のmrはもともとの形は三音節弱動詞のmriであるが、活用するとmrという形になることがある。
^ MdCを用いた転写が最も正確に近い。
^ 架空の生物ではなく、北アフリカにはサハラツノクサリヘビ という蛇が実在する。
^ ホテプ(Htp)の時
^ トゥト(twt)の時
E. A. Wallis Budge An Egyptian Hieroglyphic Dictionary, in Two Volumes , (Dover Publications, Inc. New York), c 1920, Dover Edition, c 1978. (Large categorized listings of Hieroglyphs, Vol 1, pp. xcvii-cxlvii (97-147) (25 categories, 1000 hieroglyphs), 50 pgs.)
Alan Gardiner , Egyptian Grammar: Being an Introduction to the Study of Hieroglyphs . 3rd Ed. , Rev. Oxford: Griffith Institute , ISBN 0-900416-35-1 , 1957 (1st edition 1927).
Raymond O. Faulkner , A Concise Dictionary of Middle Egyptian , ISBN 0-900416-32-7 , 1962, 2nd ed. 1972.