パーサヴィアランス
パーサヴィアランス(英語: Perseverance、「忍耐強さ」、「不屈(の努力)」の意。パーサビアランス、パーシビアランスとも、愛称: Percy、パーシー)は、NASAのマーズ2020ミッションの一環として、火星のジェゼロクレーターを探査するためのマーズ・ローバー(火星探査車)である。ジェット推進研究所によって製造され、2020年7月30日11時50分 (UTC) に打ち上げられた[1]。ローバーが火星に着陸したことの確認は、2021年2月18日20時55分 (UTC) に受信された[2]。2021年7月23日現在、パーサヴィアランスは火星に150火星日(地球日数154日)滞在している。
火星上のパーサヴィアランス | |
特性 | |
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製造者 | ジェット推進研究所 |
打ち上げ時重量 | 1025 kg |
寸法 | 3 x 2.7 x 2.2 m |
消費電力 | 110 W |
任務開始 | |
打ち上げ日 | 2020年7月30日 |
ロケット | ユナイテッド・ローンチ・アライアンス アトラスV-541ロケット |
サービス開始 | 2021年2月18日 (UTC) |
搭載機器 | |
パーサヴィアランスは、7つの新しい科学機器を搭載し、合計19台のカメラと2つのマイクを搭載している[3]。ローバーは、他の惑星で初の動力飛行を試みる実験機である小型ヘリコプター「インジェニュイティ」を搭載している。
ミッション
編集科学目標
編集パーサヴィアランスには、火星探査計画の科学目標を支える4つの科学目標がある。
- 生息可能性の探索:微生物が生息可能な過去の環境を特定する。
- 生命存在指標 (biosignatures) の探索:そのような環境に生息していた可能性を有する過去の微生物の痕跡を、特にその痕跡が長期間保存されていることが知られている特殊な岩石の中から探す。
- サンプルのキャッシング:岩盤コアとレゴリス(「土壌」)のサンプルを収集し、火星の表面に保存する。
- 人間のための準備:火星の大気から酸素生産を試行する。
歴史
編集NASAの火星探査計画は、2012年8月にキュリオシティが着陸に成功して注目を集めたが、2010年代初頭に不確実な状態に陥っていた。NASAは予算が削減され、欧州宇宙機関 (ESA) との共同研究計画から撤退し、後続の火星探査ミッションも中止せざるを得なくなった[4]。2012年の夏までに、2年ごとに火星へのミッションを打ち上げていたプログラムが、2013年以降は承認されたミッションが無くなった[5]。
2011年の全米科学・工学・医学アカデミー報告書「Planetary Science Decadal Survey」は、惑星科学コミュニティによる影響力のある提言をまとめたもので、2013年から2022年までの10年間のNASAの惑星探査プログラムの最優先事項は、火星表面のサンプルを収集し、打ち上げ、安全に地球に帰還させるための3つのミッションを行う「マーズ・サンプル・リターンキャンペーン」を開始すること、と述べている。報告書によると、NASAはこの取り組みの第一歩としてサンプルを回収するローバーに投資すべきで、費用を25億ドル以下に抑えることを目標としている[6]。
キュリオシティ探査機の成功と10年ごとの調査の提言を受けて、NASAは2012年12月に開催された米国地球物理学連合の会議で、2020年までに新たな火星探査機のミッションを打ち上げる意向を表明した[7]。
当初は、野心的なサンプルキャッシング能力と後継するミッションにコミットすることに躊躇していたが、NASAが招集した火星2020プロジェクトの科学定義チームは、2013年7月に、ミッションは「魅力的な一連のサンプルを選択し、リターン可能なキャッシュに保存する」べきであるとの報告書を発表した[8]。
設計
編集パーサヴィアランスは、前身のキュリオシティからの設計の進化を表している。この2つのローバーは、ボディプラン、着陸システム、クルーズステージ、パワーシステムなどが共通している。しかし、新しいローバーには、キュリオシティから多くの教訓が取り入れられている。エンジニアたちは、いくつかの損傷を受けたキュリオシティのホイールよりも頑丈になるように、パーサヴィアランスのホイールを設計した[9]。このローバーは、キュリオシティの50センチメートル (cm) のホイールよりも幅が狭く、直径が大きい52.5cmの太くて耐久性の高いアルミニウム製ホイールが採用されている[10][11]。アルミニウム製のホイールは、トラクションのためのクリートで覆われており、バネ性のあるサポートのために湾曲したチタン製のスポークが付いている[12]。キュリオシティと同様に、ローバーはロボットアームが搭載されているが、パーサヴィアランスのアームは2.1メートル (m) と長くて丈夫である。このアームには、火星表面の地質学的サンプルを超クリーンなキャッシングチューブに保存するための精巧な岩石採取・サンプリング機構が搭載されている[13]。
パーサヴィアランスの自重は、装置の大型化、試料の採取と保存システムの搭載、走行輪の改良などから1025キログラム (kg) と前身の899kgに対して14パーセント (%) 増加[14]している。
パーサヴィアランスの発電機 (MMRTG) の質量は45kgで、4.8kgの酸化プルトニウム238を動力源として使用している。プルトニウム238の自然崩壊により熱が発生し、それが電気に変換[15]される。これは時間の経過とともに減少していく。MMRTGは2つのリチウムイオン充電池を充電し、ローバーの活動に必要な電力を供給しているが、定期的に充電する必要がある。ソーラーパネルとは異なり、MMRTGは、夜間や砂嵐の中、冬の間もローバーの機器を操作するための大きな柔軟性をエンジニアに提供する。
パーサヴィアランスのコンピュータは、BAE RAD750耐放射線性シングルボードコンピュータを使用している。このコンピュータは128メガバイト (MB) の揮発性DRAMが搭載され、133メガヘルツ (MHz) で動作する。フライトソフトウェアは、別のカードで4GBのNAND不揮発性メモリにアクセスすることができる。
火星でのインジェニュイティヘリコプターの実験
編集インジェニュイティヘリコプターは、太陽電池式ドローン。質量1.8kgで、火星の希薄な大気圏での飛行の安定性を実証し、予定されている30日間のミッションでローバーの理想的な走行ルートを偵察する可能性を証明するとされている。カメラの他に科学機器は搭載されていない[16][17][18]。ヘリコプターは、パーサヴィアランスに搭載された基地局を介して地球と通信を行い[19]、最初の離陸は2021年4月19日07:15(UTC)に試みられ、3時間後の10:15(UTC)に動画で飛行が確認された[20][21][22][23][24][25]。
プレート
編集2019年5~9月にネット上で「あなたの名前を火星に送ろう」キャンペーンが行われ、世界中から1093万2295名の応募があった。最多はトルコの252万8844人で続いてインドが177万8277人、米国が173万3559人と続く。またハンギョレによると韓国から20万3814人応募があったという。中国・日本・北朝鮮からの参加者はそれぞれ29万2071人と3万1920人と2044人あったといい、1人以上の名前が搭載された国の数は計250カ国に達する。また「探査車に名前を付ける」コンテストの155人のファイナリストのエッセイとともに、太陽を中央に置いて左右両側に地球と火星が太陽光線でつながっている様子をレーザーで刻みこんだ絵と、その太陽光線の間には「Explore As One(一つとして探査する)」というモールス符号も刻まれている。[26]
搭載機器
編集- スーパーカム(SuperCam) - キュリオシティのChemCamの改良版であり、カメラ、2つのレーザー、4つの分光計を使用して岩や土壌の遠隔分析する遠隔探査機器で、微量の化学物質を測定するのに十分な感度を備える。
- 火星環境動力学分析器 (MEDA) - 塵のサイズと形状、毎日の天気予報、火星の放射と風のパターンに関する情報収集。
- 火星酸素現地資源利用実験(MOXIE) - 別惑星の大気で人間が必要な酸素を生成する実験で、4月20日に固体酸化物形電解セルを用いて二酸化炭素から酸素を生成した。
- X線岩石化学用惑星計器 (PIXL) - アームの先端についており、火星の物質を詳細に分析可能なX線分光器。
- RIMFAX - 150〜1200 MHzの電波周波数を使用して地下数十メートルの状態を解析可能。
- SHERLOC(シャーロック)は、機体に三つのコンポーネントとして組み込まれている。
着陸場所
編集ギャラリー
編集脚注
編集- ^ “Launch Windows”. mars.nasa.gov. NASA. 28 July 2020閲覧。 この記述には、アメリカ合衆国内でパブリックドメインとなっている記述を含む。
- ^ mars.nasa.gov. “Touchdown! NASA's Mars Perseverance Rover Safely Lands on Red Planet”. NASA. 18 February 2021閲覧。 この記述には、アメリカ合衆国内でパブリックドメインとなっている記述を含む。
- ^ “Mars 2020 Landing Press Kit”. Jet Propulsion Laboratory. NASA. 17 February 2021閲覧。 この記述には、アメリカ合衆国内でパブリックドメインとなっている記述を含む。
- ^ “Europe To Press Ahead with ExoMars Plans Without NASA”. SpaceNews (13 February 2012). 2021年2月18日閲覧。
- ^ Kremer, Ken (11 February 2012). “Budget Axe to Gore America's Future Exploration of Mars and Search for Martian Life”. Universe Today
- ^ “Vision and Voyages for Planetary Science in the Decade 2013–2022”. National Research Council (7 March 2011). 2021年2月18日閲覧。
- ^ Wall, Mike (4 December 2012). “NASA to Launch New Mars Rover in 2020”. Space.com 5 December 2012閲覧。
- ^ Mustard, J.F.; Adler, M.; Allwood, A. et al. (1 July 2013). “Report of the Mars 2020 Science Definition Team”. Mars Explor. Progr. Anal. Gr. (NASA) . この記述には、アメリカ合衆国内でパブリックドメインとなっている記述を含む。
- ^ “Curiosity wheel damage: The problem and solutions”. planetary.org. The Planetary Society (19 August 2014). 22 August 2014閲覧。
- ^ “Mars 2020 rover receives upgraded eyesight for tricky skycrane landing”. NASASpaceFlight.com. 11 October 2016閲覧。
- ^ “Mars 2020 – Body: New Wheels for Mars 2020”. NASA/JPL. 6 July 2018閲覧。 この記述には、アメリカ合衆国内でパブリックドメインとなっている記述を含む。
- ^ “Mars 2020 Rover – Wheels”. NASA. 9 July 2018閲覧。 この記述には、アメリカ合衆国内でパブリックドメインとなっている記述を含む。
- ^ “Mars 2020 Rover's 7-Foot-Long Robotic Arm Installed”. mars.nasa.gov (28 June 2019). 1 July 2019閲覧。 “The main arm includes five electrical motors and five joints (known as the shoulder azimuth joint, shoulder elevation joint, elbow joint, wrist joint and turret joint). Measuring 7 feet (2.1 meters) long, the arm will allow the rover to work as a human geologist would: by holding and using science tools with its turret, which is essentially its "hand".” この記述には、アメリカ合衆国内でパブリックドメインとなっている記述を含む。
- ^ “NASAfacts: Mars 2020/Perseverance” (26 July 2020). 26 July 2020時点のオリジナルよりアーカイブ。13 August 2020閲覧。 この記述には、アメリカ合衆国内でパブリックドメインとなっている記述を含む。
- ^ “Mars 2020 Rover Tech Specs”. JPL/NASA. 6 July 2018閲覧。 この記述には、アメリカ合衆国内でパブリックドメインとなっている記述を含む。
- ^ “Mars mission readies tiny chopper for Red Planet flight”. BBC News (29 August 2019). 2021年2月18日閲覧。
- ^ Chang, Kenneth. “A Helicopter on Mars? NASA Wants to Try”. The New York Times 12 May 2018閲覧。
- ^ Gush, Loren (11 May 2018). “NASA is sending a helicopter to Mars to get a bird's-eye view of the planet – The Mars Helicopter is happening, y'all”. The Verge. 11 May 2018閲覧。
- ^ Volpe, Richard. “2014 Robotics Activities at JPL”. Jet Propulsion Laboratory. NASA. 21 February 2021時点のオリジナルよりアーカイブ。1 September 2015閲覧。 この記述には、アメリカ合衆国内でパブリックドメインとなっている記述を含む。
- ^ Volpe, Richard. “2014 Robotics Activities at JPL”. Jet Propulsion Laboratory. NASA. 21 February 2021時点のオリジナルよりアーカイブ。1 September 2015閲覧。 この記述には、アメリカ合衆国内でパブリックドメインとなっている記述を含む。
- ^ First Flight of the Ingenuity Mars Helicopter: Live from Mission Control. NASA. 19 April 2021. YouTubeより2021年4月19日閲覧。
- ^ “Work Progresses Toward Ingenuity's First Flight on Mars”. NASA Mars Helicopter Tech Demo. NASA (12 April 2021). 2021年4月19日閲覧。
- ^ “Mars Helicopter completed full-speed spin test”. Twitter. NASA (17 April 2021). 17 April 2021閲覧。
- ^ “Mars Helicopter Tech Demo”. Watch Online. NASA (April 18, 2021). 2021年4月18日閲覧。
- ^ Mccurdy, Christen (Apr 17, 2021). “Mars Ingenuity flight scheduled for Monday, NASA says”. Mars Daily. ScienceDaily. 2021年4月18日閲覧。
- ^ “いま火星の地には韓国人20万人の名前が…日本人は?(ハンギョレ新聞) - Yahoo!ニュース”. 2021年4月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年12月31日閲覧。