トリックスター
トリックスター(英: trickster)とは、神話や物語の中で、神や自然界の秩序を破り、物語を展開する者である。往々にしていたずら好きとして描かれる[1][要出典]。善と悪、破壊と生産[2]、賢者と愚者[3]など、異なる二面性を持つのが特徴である[4][要出典]。
この語は、ポール・ラディンがインディアン民話の研究から命名した類型である。カール・グスタフ・ユングの『元型論』で取り上げられたことでも知られる[要出典]。ユングはトリックスターの粗野で原始的な行動を「(人間の)より初期の未発達な意識の段階の反映」と見る[5]。
ウィリアム・シェイクスピアの喜劇『夏の夜の夢』に登場する妖精パックなどが有名。ギリシア神話のオデュッセウスや北欧神話のロキもこの性格をもつ。
特徴
編集トリックスターは、時に悪意や怒りや憎しみを持って行動したり、盗みやいたずらを行うが、最終的には良い結果になるというパターンが多い。抜け目ないキャラクターとして描かれることもあれば、乱暴者や愚か者として描かれる場合もあり、両方の性格を併せ持つ者もある[要出典]。
文化的に重要な役割を果たしているとき(例えば、火を盗むなど)や神聖な役割のときでさえ、おどけてみせたりもする[要出典]。文化英雄であると同時に既存概念や社会規範の破壊者であり、あるいは賢者であるが悪しき要素を持つなど、一面的な定型に納まらない存在である[要出典]。
文化から見たトリックスター
編集多くの文化では、トリックスターと文化英雄は結びつけられることが多い。
例えば、ギリシア神話のプロメーテウスは、人間に火を与えるために神の元から火を盗んだが、彼はトリックスターとしてよりも文化英雄としての性格の方が有名である。一方、北アメリカネイティヴアメリカンの伝承では、コヨーテの精霊が神(もしくは星や太陽とも)から火を盗むが、こちらはトリックスターとしての性格の方が大きく現れている[要出典]。これは他の話においてはプロメーテウスは知性のある巨人だが、コヨーテは単なるいたずら者と見なされる場合が多いことからきている[要出典]。
文化圏によっては、コヨーテやワタリガラスと関連づけられる[要出典]。
アフリカや北アメリカではトリックスター神話が重要な地位を占めている[6]。ウィネバゴ・インディアンのトリックスターはミンクやコヨーテなどに「弟よ」と話しかけるほど親近性をもつが、これらの動物に騙され、愚か者ぶりを発揮するも、仕返しをし、だんだんと人間らしくなっていく[5]。
トリックスターの例
編集アイヌ神話
編集アステカ神話
編集アメリカ先住民
編集- イクトミ(北アメリカのスー族)
- コヨーテ(北アメリカの先住民全般)
- ワタリガラス(アラスカ及び、北アメリカとカナダ国境付近の先住民全般)
- ナナボーゾ(北アメリカのオジブワ族)
- ココペリ(北アメリカのホピ族)
ギリシア神話
編集クトゥルフ神話
編集ケルト神話
編集- スピリット
- パック(ケルト民間伝承)
古代メソポタミア神話
編集タロットカード
編集中国
編集ドイツ民話
編集西アフリカ、西インド諸島
編集日本
編集ハワイ神話
編集フランス民話
編集北欧神話
編集北西カフカス神話
編集ポリネシア神話
編集ユダヤ教・キリスト教等
編集ヨルバ族神話
編集脚注
編集- ^ いたずら者・ペテン師・詐欺師などと訳される。河合隼雄『影の現象学』(講談社学術文庫、1987年)p.205.
- ^ 秩序ある世界を破壊し、それによって存在の全体性を回復するという逆説的な働きをもつ。河合隼雄(1987年)p.230.破壊性、反道徳性、それにともなう意外性を有する(前同pp.209-210.)。
- ^ 一例として、ウィネバゴ・インディアンのトリックスターは、初期はミンクやコヨーテに騙され、愚人として描かれるが、後に仕返しをすることで人間らしくなる。河合隼雄(1987年)p.209.
- ^ 世界中のいたずら者(キツネ・道化など)のことで、「両義性」と「媒介性」を特徴とし、その両義性は、「善と悪」、「神と人」、「男と女」、「敵と味方」、「破壊と創造」、「天と地」、「自然と文化」など、互いに対立する正反対の性質を合わせもつ。古川のり子『昔ばなしの謎 あの世とこの世の神話学』(角川ソフィア文庫、2016年)p.51.
- ^ a b 河合隼雄(1987年)p.209.
- ^ a b c d 河合隼雄(1987年)p.206.
- ^ a b c 河合隼雄(1987年)p.205.
- ^ 古川のり子(2016年)p.51.松村武雄『日本神話の研究』3、(培風館、1955年)