キク類[1][2][3][4](キクるい、asterids)とは、APG植物分類体系の各版において、被子植物の分類のために使われているクレード(単系統群)のひとつである。このクレードは三溝型花粉を持つ真正双子葉類のうち、中核真正双子葉類core eudicots、コア真正双子葉類)に含まれ、バラ類と並び大きなグループである[5][6]プラスチドミトコンドリアDNA核DNAシークエンスから、単系統であることが支持されている[5]合弁花をもつ被子植物のほとんどに加え、セリ科ウコギ科などの離弁花をもつ植物も含まれる[2][3]

キク類
英名asteridsのもととなっているシオン属 (Aster) の一種
英名 asterids のもととなっているキク科シオン属 (Aster) の一種 Aster amellus
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : 中核真正双子葉類 core eudicots
階級なし : キク上類 superasterids
階級なし : キク類 asterids
学名
Asteranae Takht. (1967)[注 1]
Asteridae Takht. (1967)[注 2]
下位クレード

キク群[7][8][9]あるいはキク目群[10]とも呼ばれる。リンネ式階層分類体系に当てはめる場合、階級は綱とし、旧来の分類群名と同じキク亜綱 Asteridae [11][5]とする場合や、Ruggiero et al. (2015)Brands (2004–2023) のようにキク上目[12] Asteranae とする場合がある。

概要

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Chase et al. (1993)rbcL のシークエンスによる分子系統解析以降、被子植物の系統関係はそれまで考えられてきた被子植物の分類体系とは大きく異なることが明らかとなった[13][14]Chase et al. (1993) ではキク目群 I (asterids I) から キク目群 V (asterids V) までが認識され、キク目群 I とキク目群 II が最も派生的なグループとされた[14][15]。そしてその姉妹群にキク目群 III、更にそれを合わせたクレードの姉妹群にキク目群 IV、同様にキク目群 I から IV の姉妹群にキク目群 V が置かれ、それがバラ目群 (rosids) と姉妹群を構成した[14][15]。旧バラ亜綱の構成要員がキク目群に多く入り込むことが明らかとなった[15]。しかし逆に、花弁の合着などは系統関係を表すわけではなく、進化段階(グレード、grade)を表すと考えられていたが、それらが大枠には系統を反映していたことが明らかとなった[14]

それらの解析結果を基に、1998年にAPG植物分類体系の初版(APG I, 1998)が出版された。キク類 (asterids) は APG I (1998) から既に用いられているクレード名である[13]。APG植物分類体系において、ラテン語ではなく英語の複数形で、小文字で書き始められる[13][16][注 3]。これは命名規約上の学名ではなく、階級を定めないクレード名として扱っていることを示している。APG I (1998) ではキク類にミズキ目 Cornalesツツジ目 Ericales真正キク類 I (euasterids I)、真正キク類 II (euasterids II) の4群が含まれたが、それぞれの分岐順序は未確定であった[13]

APG II (2003) から APG III (2009) への改訂に際しては、真正キク類 I (euasterids I) がシソ類[18] (lamiids)、真正キク類 II (euasterids II) がキキョウ類[18] (campanulids) に改められた[19][16]。またキキョウ類では目への所属が未確定だった科を、目を新たに設定した上で所属させている。

その後の分子系統解析により不明だった分類群の分岐位置が分かり、APG IV (2016) ではベルベリドプシス目ビャクダン目、そしてキク類の姉妹群であるナデシコ目とともにキク上類[1]superasterids, Superasteridae[5])とされた[17]

以下に APG IV に基づくキク上類の内部系統を示す[17]

キク上類

ベルベリドプシス目 Berberidopsidales

ビャクダン目 Santalales

ナデシコ目 Caryophyllales

キク類 asterids

superasterids

このクレードに属する多くの分類群は、クロンキスト体系 (1981) ではキク亜綱に、さらに先行する新エングラー体系では合弁花植物亜綱に含まれていた。

特徴

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珠皮が1枚で、薄層型tenuinucellate)の珠心大胞子嚢)からなる胚珠を持つ[20][5][21]。これらは共有派生形質である可能性もあるが、より狭い範囲での共有派生形質である可能性も高く[20]同形形質であると考えられている[5]。ほかに、イリドイドを含むことも共有派生形質の可能性がある[20][5]。真正キク類は花弁の枚数が雄蕊の本数と等しいこと、雄蕊が花冠上生であること、明らかな合弁花冠をもつことなどが共有形質である[5]。ただし、真正キク類でないツツジ目の中にも花冠上生の雄蕊と明らかな合弁花冠を獲得したものもある[5]

学名と定義

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APG植物分類体系では一貫して高次クレード名には学名が与えられないが、Cantino et al. (2007) にて、PhyloCode に基づき、ノードによるクレード(node-based clade)として定義され、元々キク亜綱として用いられていた学名 Asteridae Takht. (1967) が R.G. Olmstead と W.S. Judd によりこのクレード名として用いられる。ヒメオドリコソウ Lamium purpureum L. (1753)(シソ類)、セイヨウサンシュユ Cornus mas L. (1753)ミズキ目)、Aster amellus L. (1753)キキョウ類)、そして Erica carnea L. (1753)ツツジ目)を含む最小のクレードとして定義されている[20]

下位分類

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APG IV (2016) において含まれる分類群は以下の通りである[17]

キク類

 ミズキ目 Cornales

 ツツジ目 Ericales

真正キク類
キキョウ類

モチノキ目 Aquifoliales

キク目 Asterales

エスカロニア目 Escalloniales

ブルニア目 Bruniales

セリ目 Apiales

マツムシソウ目 Dipsacales

パラクリフィア目 Paracryphiales

campanulids
シソ類

クロタキカズラ目 Icacinales

メッテニウサ目 Metteniusales

ガリア目 Garryales

ムラサキ目 Boraginales

リンドウ目 Gentianales

ヴァーリア目 Vahliales

シソ目 Lamiales

ナス目 Solanales

lamiids
euasterids
asterids

脚注

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注釈

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  1. ^ Ruggiero et al. (2015)Brands (2004–2023) では、superorder Asteranae(キク上目)とされる。
  2. ^ この学名はアルメン・タハタジャンによりキク亜綱として設立されたものだが、Cantino et al. (2007) により PhyloCode に基づくクレード名としても定義される。
  3. ^ APG IV では表中で大文字の頭文字が用いられているが、やはり英語の1単語ではあるため、本文中では小文字で始められる[17]

出典

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  1. ^ a b 大橋ほか 2017, p. 18.
  2. ^ a b 伊藤 2012, p. 157.
  3. ^ a b 伊藤 2013, p. 84.
  4. ^ 西田 2017, p. 300.
  5. ^ a b c d e f g h i Judd et al. 2015, p. 465.
  6. ^ 伊藤 2012, p. 155.
  7. ^ 高橋 2006, p. 424.
  8. ^ 福原達人. “被子植物の系統樹と分類”. 2012年8月27日閲覧。
  9. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “YListで使われる分類体系”. 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList). 2012年8月27日閲覧。
  10. ^ 米倉浩司『高等植物分類表』(重版)北隆館、2010年。ISBN 978-4-8326-0838-2 
  11. ^ 大場 2009, p. 251.
  12. ^ キク目群(キク亜綱)”. Tree to Strain (SHIGEN). 国立遺伝学研究所 (http://shigen.nig.ac.jp). 2023年10月30日閲覧。
  13. ^ a b c d APG 1998, pp. 531–553.
  14. ^ a b c d 大場 2009, p. 299.
  15. ^ a b c Chase et al. 1993, pp. 528–580.
  16. ^ a b APG III 2009, pp. 105–121.
  17. ^ a b c d APG IV 2016, pp. 1–20.
  18. ^ a b 伊藤 2013, p. 85.
  19. ^ APG II 2003, pp. 399–436.
  20. ^ a b c d Cantino et al. 2007, p. E29.
  21. ^ 清水 2001, p. 72.

参考文献

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  • The Angiosperm Phylogeny Group (1998). “An Ordinal Classification for the Families of Flowering Plants”. Annals of the Missouri Botanical Garden 85 (4): 531–553. doi:10.2307/2992015. 
  • The Angiosperm Phylogeny Group (2003). “An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG II” (PDF). Botanical Journal of the Linnean Society 141 (4): 399–436. doi:10.1046/j.1095-8339.2003.t01-1-00158.x. http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1046/j.1095-8339.2003.t01-1-00158.x/pdf. 
  • The Angiosperm Phylogeny Group (2009). “An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG III” (PDF). Botanical Journal of the Linnean Society 161 (2): 105–121. doi:10.1111/j.1095-8339.2009.00996.x. http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1095-8339.2009.00996.x/pdf. 
  • The Angiosperm Phylogeny Group (2016). “An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of floweringplants: APG IV”. Botanical Journal of the Linnean Society 181 (1): 1–20. doi:10.1111/boj.12385. 
  • Brands, S.J. (2004–2023). “Taxon: Superorder Asteranae Takht. (1967)”. The Taxonomicon. 2023年10月30日閲覧。
  • Cantino, Philip D.; Doyle, James A.; Graham, Sean W.; Judd, Walter S.; Olmstead, Richard G.; Soltis, Douglas E.; Soltis, Pamela S.; Donoghue, Michael J. (2007). “Towards a phylogenetic nomenclature of Tracheophyta. Taxon 56 (3): E1-E44. doi:10.2307/25065865. https://doi.org/10.1002/tax.563001. 
  • Chase, M. W.; Soltis, D. E.; Olmstead, R. G.; Morgan, D.; Les, D. H.; Mishler, B. D.; Duvall, M. R.; Price, R. A. et al. (1993). “Phylogenetics of Seed Plants: An Analysis of Nucleotide Sequences from the Plastid Gene rbcL”. Annals of the Missouri Botanical Garden 80 (3): 528–580. doi:10.2307/2399846. 
  • Judd, W. S.; Campbell, C. S.; Kellogg, E. A.; Stevens, P. F.; Donoghue, M. J. (2015). Plant Systematics: A Phylogenetic Approach, Fourth Edition. Sunderland, Massachusetts USA: Sinauer Associates, Inc.. ISBN 978-1605353890 
  • Ruggiero, Michael A.; Gordon, Dennis P.; Orrell, Thomas M.; Bailly, Nicolas; Bourgoin, Thierry; Brusca, Richard C.; Cavalier-Smith, Thomas; Guiry, Michael D. et al. (2015). “A Higher Level Classification of All Living Organisms”. PLOS ONE 10 (6): e0130114. doi:10.1371/journal.pone.0130114. 
  • 伊藤元己『植物の系統と進化』裳華房〈新・生命科学シリーズ〉、2012年5月25日。ISBN 978-4785358525 
  • 伊藤元己『植物分類学』東京大学出版会、2013年3月25日。ISBN 978-4130622219 
  • 大場秀章『植物分類表』アボック社、2009年11月20日。ISBN 978-4900358614 
  • 大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司 編『改訂新版 日本の野生植物第4巻 アオイ科~キョウチクトウ科』平凡社、2017年3月10日。ISBN 978-4582535341 
  • 清水, 建美『図説 植物用語事典』八坂書房、2001年7月30日。ISBN 4-89694-479-8 
  • 高橋正道『被子植物の起源と初期進化』北海道大学出版会、2006年2月25日。ISBN 4832981315 
  • 西田治文『化石の植物学 ―時空を旅する自然史』東京大学出版会、2017年6月24日。ISBN 978-4130602518 

関連項目

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外部リンク

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  • Asterids in Stevens, P. F. (2001 onwards). Angiosperm Phylogeny Website. Version 9, June 2008 [and more or less continuously updated since]
  •   ウィキメディア・コモンズには、キク類に関するカテゴリがあります。
  •   ウィキスピーシーズには、キク類に関する情報があります。