アスコット競馬場(アスコットけいばじょう、英語: Ascot Racecourse)は、イギリスロンドンから西に36マイル (58 km)に位置するイングランドバークシャー州、ウィンザー城の西南アスコット英語版にある競馬場イギリス王室が所有し、ロイヤルアスコット開催時には、エリザベス2世がアスコット競馬場を訪れる。また、7月のダイヤモンドデーにはヨーロッパ三大レースの1つ「キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス」が行われることでも知られる。

アスコット競馬場
Ascot Racecourse
ゴール前
ゴール前
施設情報
所在地 Enquiry Office, Ascot Racecourse,
Ascot, Berkshire, SL5 7JN, U.K.
座標 北緯51度24分58秒 西経0度40分37秒 / 北緯51.41611度 西経0.67694度 / 51.41611; -0.67694座標: 北緯51度24分58秒 西経0度40分37秒 / 北緯51.41611度 西経0.67694度 / 51.41611; -0.67694
開場 1711年8月11日
コース
周回 右回り
馬場
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歴史

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1711年、大の馬好きであったアン女王が居城のウィンザー城から程近い場所を馬車で移動していた際、 目の前に広がる広大な丘を発見し「この場所こそ、競走馬が全力で走るのにふさわしい」と、競馬場の建設を命じた事により創設。同年8月11日には当地で最初のレースが行われる。その後、1807年よりゴールドカップが施行されている[1]

常設のスタンドが設置されたのは、1793年のことであった[1]1839年には10000ポンドを費やして、新しいメインスタンドが開設された[2]

1939年までは年に一度、6月のロイヤルアスコット開催と呼ばれる王室主催の4日間の開催のみが行われてきた[1]が、その後は1952年に始まったキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスなど、王室主催以外のレースも行われるようになり、1965年より障害競走も行うようになった。現在は平地が17日、障害が8日開催されている。現在では、4月~9月までが平地競走のシーズンで、10月~3月には障害競走のシーズンとなっており、毎月2~3回開催されている[3]

1988年6月16日、出走中の馬が暴れて騎手を振り落とす事故が発生したが、翌1989年超音波を馬に照射することによる八百長であったことが判明した[4]

コース形態

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アスコット競馬場のコース概略図。

メインのトラックはほぼ三角形である(このためコーナーは第3コーナーまでしか存在しない)。右回り。1周14ハロン(約2816メートル)、直線2.5ハロン(約503メートル)。この三角形の最後の直線につながる形でニューマイルコースと呼ばれる1マイルの直線コースがある。また、1965年には本馬場の内側に、障害コース(図中黄色のコース)がオープンした[5]

キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスが施行される1mi4f(約2400m)のコース(図中⑧の地点)は、スウィンリー・ボトム(Swinley Bottom)と呼ばれるコース内標高が最も低い地点となる、第2コーナー隅まで、半マイルの下り坂から始まる。マイル標識から、険しい上り坂が、直線へと直角に交わるコーナー隅まで続き、直線では緩やかな上り坂が続く。最後の1ハロンは平坦となる[6]プリンスオブウェールズステークスが施行される1mi2f(約2000m)のコース(図中⑨の地点)は、スウィンリー・ボトムまでの距離は1mi4f(約2400)のコースより短いものの、スタミナ適性が試されるコースとなっている[6]

マイル戦(約1600m)では、右回りコース(オールドマイル、図中⑩の地点)と直線コース(ニューマイル、図中②の地点)のいずれかで施行される[6]。オールドマイルコースでのマイル戦(セントジェームズパレスステークスコロネーションステークスクイーンエリザベス2世ステークス)は、スウィンリー・ボトムの引き込み線(図中⑩の地点)からスタートして残り1ハロンの標識まで上り坂となる[6]。他方でニューマイルコースでのマイル戦(クイーンアンステークスロイヤルハントカップ)は、右回りコースのホームストレッチ入り口まで緩やかに起伏する[6]。また、5ハロン~7ハロンまでのレースはすべてニューマイルコースで施行される。

2mi4f(約4000m)で施行されるアスコットゴールドカップは1807年に現在の条件で初めて施行されて以来、ロイヤルアスコット開催の重要なレースに位置付けられている。同レースのコース形態は直線コースからスタートして6ハロン走り、右回り一周コースのホームストレッチに入る[6]

アスコット競馬場では、馬場の排水が問題となることが多かった[5]。障害コースがオープンする前年の1964年、集中豪雨が発生し、ゴールドカップを含む2日間の競争が中止となった[5]。その後、延べ45キロメートル以上に及ぶ排水管が敷設された[5]。しかし、1974年に発生した集中豪雨によって、クイーンエリザベス2世ステークスが中止されるという事態になった[5]

2004年秋から2005年にかけては約2億ポンド(約480億円)の巨費が投じられ、芝コースを路盤から掘り起こしての大規模な改修工事が行われた。それまで起伏の激しかったコースが幾分平坦になるなど、以前よりも走り易くなったとされている。また、この改修工事ではパドックがスタンド中央に移設され、新しいパドックには最大で約9500人の人員を収容できるという。

ロイヤルアスコット開催

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ブリティッシュ・チャンピオンズデー

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ブリティッシュ・チャンピオンズデーは、2011年よりアスコット競馬場で開催されている競馬競走の開催日、および同日に行われる重賞の総称である。イギリス平地競走シーズンを締めくくるイベントである。この日に行われる重賞は、ブリティッシュ・チャンピオンズシリーズの最終戦と1マイル(1600m)のハンデキャップ競走である[7]

これらのレースは、2011年以前はアスコット競馬場とニューマーケット競馬場にて長年の間、開催されていた重賞を集約したものである。アスコット競馬場ではダイアデムステークスクイーンエリザベス2世ステークス、ニューマーケットではチャンピオンステークスジョッキークラブカッププライドステークスが開催されていた。これらがブリティッシュ・チャンピオンズシリーズの各部門の決勝戦となった。

クイーン・エリザベス2世ステークスとチャンピオンステークスは名前を変えず、それぞれマイル部門とミドルディスタンス(1800m~2200m)部門の最終戦となった。ダイアデムステークスはブリティッシュ・チャンピオンズ・スプリントステークス、ジョッキークラブカップはブリティッシュ・チャンピオンズ・ロングディスタンスカップ、プライドステークスはブリティッシュ・チャンピオンズ・フィリーズ&メアズステークスとなった[8]

主な競走

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イベント

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王室が所有する競馬場であるが、レッドブル・エアレース・ワールドシリーズの会場として使用されるなど、競馬以外のイベントも開催されている[11]

アスコット競馬場が登場する作品

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  • マイ・フェア・レディ - 主人公イライザとヒギンズ教授がアスコット競馬場を訪れる場面がある。映画においては、スタンドのスタジオセットがメインで、馬は競走中に観客の前を一度通過するのみである。ただし競馬場のほとんどが左回りのアメリカで作られた映画らしく、観客の視線は実際のアスコット競馬場と異なり左回りのレースを見るように動いている。
  • 007 美しき獲物たち - 映画版で登場。競馬場の厳格な服装規定に従い、ボンドはグレーのモーニングにシルクハット、マネーペニーはドレスと帽子を着用している。
  • 百万ドルをとり返せ! - 主人公4名が詐欺の被害に遭い報復を開始する。その途中、報復のターゲットが所有する馬がキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスに出走するくだりがある。

脚注

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  1. ^ a b c ヴァンプルー & ケイ 2008, p. 11.
  2. ^ Whyte 1840, pp. 199–200.
  3. ^ 渡辺 & サラブレッドインフォメーションシステム 2002, p. 18.
  4. ^ Ultrasonic Gun Is Used Allegedly to Fix Horse Race in England, ロサンゼルス・タイムズ, 1989年11月1日、2019年10月20日閲覧
  5. ^ a b c d e ヴァンプルー & ケイ 2008, p. 12.
  6. ^ a b c d e f シューバック 2010, pp. 4–5.
  7. ^ QIPCO British Champions Day” (英語). britishchampionsseries.com.. 2021年5月29日閲覧。
  8. ^ It's official - Ascot will stage £3 million Champions Day” (英語). The Daily Telegraph. 2021年5月29日閲覧。
  9. ^ Hootenanny, Sunset Glow may target Commonwealth Cup - デイリーレーシングフォーム、2014年12月4日閲覧
  10. ^ New Group One sprint at Royal Ascot - bloodstock.com、2014年12月4日閲覧
  11. ^ Red Bull Air Race World Championship | Ascot[リンク切れ]

参考文献

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  • レイ・ヴァンプルー、ジョイス・ケイ 著、山本雅男 訳『英国競馬事典』競馬国際交流協会、2008年8月(原著2005年)。国立国会図書館書誌ID:000009438845 
  • 渡辺敬一郎、サラブレッドインフォメーションシステム『海外競馬に行こう!』東邦出版〈海外競馬完全読本 ; 2〉、2002年9月。ISBN 4809402851 
  • James Christie Whyte (1840) (英語). History of the British turf : from the earliest period to the present day. 1. H. Colburn. NCID BB04794519 
  • アラン・シューバック『グローバルレーシング : 欧州・アジア・南アメリカの主要な競馬場ガイド』競馬国際交流協会、2010年10月。国立国会図書館書誌ID:000011033773 

外部リンク

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