パプリカ (映画)
パプリカとは、今敏監督による、アニメ映画の形式を取った電子ドラッグ[1]。2006年に公開され、登場キャラクターそれぞれの設定・背景が濃く、視聴者を置いてけぼりにする程の怒涛の展開であったにもかかわらず、ドラッグとしての効能が強いため焼き付いて離れず、二度三度と視聴してしまう依存性の高さから、今敏が逝去してからも話題に上がる作品。
概要[編集]
筒井康隆の原作、今敏が監督、制作はマッドハウスと、ただのアニメ映画であれば上等な作品が出来上がる組み合わせであったが、ここに音楽協力として平沢進が関与したことにより電子ドラッグとなったもの。依存性・中毒性の高い本作は海外での評価[2]も高く、ヴェネツィア国際映画祭でオフィシャルコンペティションに選出された。[3]
後述のテーマやメッセージ性、意味が分かりそうで分からない台詞回し、性格(キャラ)が濃すぎる登場人物、文字通りの意味で現実離れしている夢・悪夢を映像化と、音楽を抜きにしても中毒性や理解する為にと複数回視聴をしてしまう材料が揃っているが、音楽は抜きになっていない。独特の描写がなされた本作に、独特の世界観を持つ平沢音源を使用する事で眩暈を起こすような悪夢が実現されている。映像及び音楽についてはそれぞれ単体では指定薬物扱いではあるが、両方が合わさることにより危険ドラッグとして認定されたもの。
あらすじ[編集]
「私の夢が、犯されている―」、「夢が犯されていく―」[4]
精神医療総合研究所の天才科学者である時田 浩作が発明した、他人の夢を共有できる「DCミニ」をめぐる物語。
同研究所に努める研究員、氷室 啓は時田の才能に羨望と嫉妬を抱いていた。時田を失脚させる為、DCミニを盗む。氷室は夢の中では誇大妄想に取りつかれたお姫様であり、自身を讃える物達…冷蔵庫やテレビ、洗濯機等の家電製品や、ドラッグストアで見かけるような人形達による、まさに夢のようなパレードを率いていた。[5]この狂気の夢を、盗んだDCミニを用いて他者へ植え付けるといった形で共有させていた。
研究所内で研究員達が悪夢を見るようになった、そして悪夢に蝕まれた者は夢と現実の区別がつかなくなり、現実世界にて夢心地で奇行に走るようになるとの噂が広まり、下半身不随で車いす利用者の理事長、乾 精次郎の耳に入る。乾はこの現象をDCミニが原因であると推察、盗まれたDCミニを自身が手に入れて使用したら、下半身不随の為に現実では叶わぬ事、夢の中でならば愛し合うことが出来ると、恋人である研究員、小山内 守雄と共謀して氷室より盗み出そうと画策する。しかし小山内はどちらかというとノンケ寄りのバイ。乾の他に気になる相手(異性)がおり、乾を出し抜こうと氷室に体を差し出してDCミニを自分のものにしようと密かに行動していた。
ゲイ、バイ、ゲイによる悍ましい夢バトル。DCミニをめぐるday by day。夢と夢が混ざり合って悪夢となり、そしてその悪夢はついに現実世界へと漏出しはじめたのであった…。
テーマ[編集]
本作のテーマは性的マイノリティ―の解放である。デブ専、同性愛、バイ、オートセクシャル[6]、人形偏愛症(ピグマリオンコンプレックス)など、様々な性癖、性的指向を持つ者が描かれる。それらの者は妥協や葛藤などに苛まされ、ストレスを抱えて生きているが、その抑圧を夢の共有、即ち価値観を共有することで自身を解放したならば…というのが本作のテーマ。しかし、価値観の共有と言えば聞こえは良いが、その方法は押し付け・洗脳によるものであり、マジョリティや他のマイノリティにとっては受け入れ難いものであり、当然の如く反発が起きてしまう。昨今のマイノリティ達が理解を求めるとして行っている社会への的外れな訴え[7]に対する警鐘を鳴らし、再考すべきであると一石投じる作品である。
登場人物[編集]
-
- 本作の主人公。DCミニを用いた精神治療を行っている。生真面目な性格であるが、治療の際は自由奔放な別人格、パプリカとなって患者の夢に潜る。治療行為としてマスターベーションをオススメしてくる。女性キャラなので当然の如く犯され役。
- 時田浩作(ときた こうさく):声-古谷徹
- 粉川利美(こながわ としみ):声-大塚明夫
-
- 千葉(パプリカ)による精神治療を受けている患者。学生時代に打ち込んでいた映画製作に関する夢を見る。氷川らが見る(見せつける)パレードの悪夢がよく取り沙汰にされるが、無限に続く廊下を走る、床が崩落して落下する、サーカスの観客や出演者全てが自分の顔をしている等、粉川の夢も相当な悪夢である。自分で自分を犯す。
- 氷室啓(ひむろ けい):声-阪口大助
- 小山内守雄(おさない もりお):声-山寺宏一
-
- 自身の立場向上の為に理事長に体を売り、DCミニを掠め取ろうと氷室に体を売る自称ノンケ。男が男に体を売るという選択肢が挙がり、且つ2回もそれを選ぶのなら言い逃れできたとしても精々バイ。蝶になって飛び立ちたい等と夢を見るが、自身の性格の悪さを分かっているのか夢の中では有毒のモルフォ蝶として描かれる。蝶になりたい自分=現状はまだ蛹である状態を表現する方法としてか、キャラクターとしての行動は稚拙なことが多く、幼い守雄として他登場人物に都度指摘されている。犯しているつもりで犯される。
- 乾精次郎(いぬい せいじろう):声-江守徹
- 島寅太郎(しま とらたろう):声-堀勝之祐
劇中用語[編集]
- DCミニ
- 時田が開発した、他人の夢を共有できる機械。精神病患者等の深層心理を夢を通じて知る為に開発された精神治療の新地平を照らす太陽の王子様であったが、盗まれてしまう。泥棒により盗まれたが必ずしも泥棒が悪いとはお地蔵さんも言わなかった。
- パプリカ
- 本作の主人公、千葉の別人格。自由奔放な性格をしており、DCミニを用いた精神治療を行う際に千葉と交代する形で現れる。しかしDCミニは盗まれている為、今はパプリカのビキニよりもDCミニの回収に漕ぎ出すことが幸せの秩序であると言える。
- 蛙たちの笛や太鼓に合わせて回収中の不燃ゴミから噴き出してくる様は圧巻であり、まるでコンピューターグラフィックスのようである。しかし総天然色の青春グラフィティーや一億総プチブルが許されないことであることは、オセアニアじゃあ常識なんだよ!
- 今こそ青空に向かって凱旋だ!
- 絢爛たる紙吹雪は鳥居をくぐり、周波数を同じくするポストと冷蔵庫は先鋒をつかさどれ!
- 賞味期限を気にする無頼の輩は花電車の進む道にさながらシミとなってはばかることはない!
- 思い知るがいい!三角定規たちの肝臓を!
- さぁ!この祭典こそ内なる小学3年生が決めた遙かなる望遠カメラ!
- 進め!
- 集まれ!
- 私こそが!
- お代官様!
- ワァーハッハッハッハッ!!
脚注[編集]
- ^ 依存性や中毒性の高い電子媒体(音楽や動画等)をドラッグ(麻薬)に例えた言葉であるが、本作は幻覚症状や錯乱等、通常の麻薬と遜色のない効果を有している。
- ^ 評価とは、ドラッグとしての効能についてであることに注意されたい。
- ^ 当時日本のアニメ映画が選出されたのは、今敏と、宮崎駿と押井守の3人だけであった。
- ^ 本作のキャッチコピー。侵されるでは無く、犯されるとしたことで本作を的確に表現している。
- ^ 曲(平沢進)と相まってと非常に狂気的であるが、加えてCGでは無く全て手書きであるという狂気。
- ^ ナルシズムに近く、自分自身に性的に惹かれること。
- ^ 新宿歌舞伎町に設置されたジェンダーレストイレや、トランス女性・トランス男性に関する扱い等
- ^ 入ってから方向転換出来ない為、背中から出ようとしている
- ^ ちゃんと死ぬ。