星新一
とある記事
「さて、星新一とは何なのか。この惑星でやっと手がかりが得られそうだ」
エヌ氏はアンサイクロぺディアという惑星に着いた。彼は宇宙パイロットなのだ。
星新一。それは人類に残された最後の謎。今まで多くの者がその謎の解明をこころみたが
どういうわけか皆が皆、不幸な事故によりその目的を成し遂げられなかった。
この謎の探求には非常に危険がともなうらしい。
しかしこれが解明できれば学問的にも大きな成果をもたらすに違いないのだ。
エヌ氏はロケットから降り、通りがかった惑星の住人に尋ねた。
「星新一とは何なのだ」
すると惑星の住人はこう答えた。
「それは我々の住む世界を作って下さった神様です。きっとあなたも作られたのでしょう」
「そんな宗教の話は聞いていない」
「神様は千と一つの世界をお造りになられました。この世界もその中の一つなのです」
「教義などはどうでもいい。星新一とは何者なのだ」
「我々には神様の姿は見えません。しかしいつも近くで見守っていてくださいます」
どうやら唯一神教なうえに偶像崇拝を禁じているようだ。未開の惑星にしては進んでいる。
その発言に住民は反論したが、エヌ氏は無視してロケットに戻った。
「やれやれ、無駄骨だったか。星新一とは偶像か何かに過ぎなかったようだ」
ロケットに乗り込んだエヌ氏は自分の部屋でしばし休憩したあと、コンピュータの電源を入れ
電子ネットワークへと接続した。
エヌ氏の目にアンサイクロぺディアという見出が写った。
「百科事典に非ざるもの」とはまったく荒唐無稽な話である。
あの星と関係はないと思いつつ眺めていくと、新着記事という項目にエヌ氏の名前があった。
エヌ氏は宇宙パイロットとは言えども、大勢の中の一人に過ぎない。家族や知人の他に
自分の事を知っている者がいるとは思えなかった。
エヌ氏は悪い予感を抑えながらその記事を読むと、恐ろしい事に生年月日や経歴などといった
情報が正確に書かれていた。それどころか、つい先ほど訪れたアンサイクロぺディア星に
ついてまで書かれてある。
こんな事があるはずがない。エヌ氏は自分が悪い夢を見ているとしか思えなかった。
エヌ氏は最後に書かれていた一文を読み、絶叫した。
エヌ氏 ロケットの爆発により死亡。
「どうしたの、あなた」
接続していたテレビ電話を介して妻が話しかけてきた。
「なんでもない、悪いものを見ただけだ。すぐに帰る」
エヌ氏はこの事は妻には言わないほうがいいと判断した。
記事の編集者の名前には「星新一」と書かれていた。