兄貴 (女)
兄貴(アニキ)とは、女性アスリートに与えられる最高級の称号である。
概要編集
何らかのスポーツ競技でトップクラス(国内もしくは世界レベル)の実績を挙げた女性アスリートを「○○クイーン」と呼ぶことがある。しかしそう表現することすら失礼にあたるレベルの実績や実力、およびカリスマ性を合わせ持つ女性アスリートに対しては「○○兄貴に抱かれたい」などのフレーズと共に「兄貴」の称号が贈られる。尊敬の念を込めて「漢」(おとこ)とも呼ばれ、兄貴の称号を得ている女性アスリートが活躍した時は「漢の中の漢」という表現で絶賛されることもある。
定義編集
ノーベル賞が授賞決定発表の時点で本人が生存していることが受賞の条件とされているように、「兄貴 (女)」にも厳格な定義が存在する。なお定義は以下の通り。
- 女性アスリートであること。
- 称号授与される時点で現役選手であること。
- 見た目は普通の女の人であること。(男と間違えられる事がないビジュアルである)
- ワールドクラスの実力と実績を持っていること。
- 団体競技であれば少なくとも国の代表に常時選ばれ、レギュラーとして活躍できる実力が必要。
- 特筆した実績を長期間、少なくとも5年以上挙げ続けていることも必要となる。このため、自ずと年齢層は20代後半以降になる。
- 高いカリスマ性(またはリーダーシップ)を持っていること。
- 一般人の男女両方から「この人に抱かれたい」と思わせることができること。
兄貴への到達ステップ編集
一般的に、女性アスリートが「兄貴」になれるまでのステップは以下の通り表される。
ステップ | 呼称 | 概要 | アスリート例 |
---|---|---|---|
ステップ1 | ヒロイン候補 | 光る素質を見せ、将来性が期待されている状態。10代選手が中心。 | 池江璃花子(水泳)など |
ステップ2 | ニューヒロイン or シンデレラガール |
大舞台で活躍し始めた状態。または無名の選手が突然一発当てた状態。若手選手が中心。 | 西矢椛(スケートボード)、後藤希友(ソフトボール)など |
ステップ3 | プリンセス | 大舞台である程度活躍し続け、競技内トップクラスの地位を確立した状態。 | 阿部詩(柔道)、大橋悠依(水泳)など |
ステップ4 | クイーン(女王) | ステップ3に加え大きな勲章を1つ以上勝ちとり、競技の代表的アスリートとなった状態。 | 伊藤美誠(卓球)、新井千鶴(柔道)、大坂なおみ(テニス)など |
ステップ5 | 兄貴 | ステップ4の状態を長年続け、かつカリスマ性が備わり先述の定義を満たした状態。 | (※後述) |
番外 | 広告塔 | 実力・実績不足にも関わらず大人の事情でステップ3以上であるように偽装させられている状態。 | 浅尾美和(ビーチバレー)、田中理恵(体操)、本田真凛(フィギュアスケート)など |
ステップ4と5の間には「カリスマ性」と「実績の長期継続性」という2つの大きな壁が立ちはだかっており、これを超えられたアスリートにのみ「兄貴」という称号が与えられる。男でも女でもない、性別によらない英雄であることを示す「漢」という意味を持つ最高級の称号である。
日本四大兄貴編集
日本では2021年7月時点で兄貴の称号を贈られているアスリートが4人居り、「日本四大兄貴」と呼ばれている。
伊達兄貴(伊達公子/女子テニス)編集
- 1990年代の現役時代第一期では日本人初の世界ランキングTop10入りを果たすなど、女子テニス界のパイオニアとして活躍。これだけなら「クイーン」止まりであったが、伊達の真骨頂はいったん現役を引退し、12年間の沈黙を破って現役復帰した後である。
- 「若い選手へ刺激を与えるため」という理由で37歳にして現役復帰し、10~20代の若手選手に勝るとも劣らない活躍を披露。2009年に女子テニス協会(WTA)主催大会で歴代第2位の高齢優勝を飾り、2010年には世界4大大会でこちらも歴代2位の高齢白星を記録する。
- さらに世界初の40代選手によるランキングTop10選手撃破も成し遂げ、2011年全英オープンではビーナス・ウィリアムズに敗れたものの1セット奪取するなど、世界の伊達健在を強くアピール。気づけば日本人選手トップランクの座を取り戻し、なかなか芽が出てこない日本女子若手選手達をプレーで叱咤激励し続けた。
- 2015年には自身23年ぶりにダブルスでの世界ランキングを更新(28位)し、2017年まで現役を続け、大坂や土居美咲を始めとした後進の芽がやっと出てきたのを見届けた上で引退した。
吉田兄貴(吉田沙保里/女子レスリング)編集
- 「霊長類最強女子」「地上最強の生物」と呼ばれる魔人。公式戦206連勝、全日本選手権9連覇、アジア大会4連覇、オリンピック3大会連続金メダル、世界選手権13大会連続金メダルという、常軌を逸しているとしか思えない実績を積み上げたレスリング界の兄貴。背筋力はなんと200kgを誇る。個人競技故に四大兄貴の中ではカリスマ性で一歩劣るが、アスリート実績では突出している。積極的なタックルと鬼の形相で相手をマットに叩きつけるプレースタイルは「漢」の称号を受けるには十分過ぎる程。ついに2012年11月7日に日本政府より国民栄誉賞を授与された「来いする乙女」。
- 2019年1月に現役を引退するも、常日頃から何事にも積極的にアタックし、手話、ピアノ(独学)等、幅広い趣味を持っており各方面で活躍中。2010年9月には「人類最強の妻になる」と婚活開始を宣言。「兄貴の狩りが始まった」と話題になるも、2021年時点で独身。後述の澤と親交が深く、一緒にイベントにも赴く中で狩りの技術を澤から学んでいる。
上野兄貴(上野由岐子/ソフトボール)編集
- 2002年からソフトボールの日本代表投手として活躍している兄貴。金属バットをもへし折る120km以上のストレートを武器に2004年のアテネオリンピックではオリンピック史上初の完全試合を達成し、銅メダル獲得に貢献。ここまでなら「クイーン」止まりであるが、2008年の北京オリンピックでは2日間で3試合連投・413球を投げるという稲尾様も真っ青な過酷な戦いに挑み、見事3連勝を飾って金メダル獲得の原動力となった。その活躍は「神様、仏様、上野様」とまで称され、他チームの選手もあまりの感動に負けて喜ぶという場面まで演出。
- また同大会後にソフトボールが五輪競技落ちの危機に瀕するようになると様々な場面でソフトボールの競技としての存在を世界にアピールし、後輩達のプレー環境を守る活動を精力的に行う。残念ながら2012年のロンドンオリンピックでは競技から外され、競技として不遇の2010年代を過ごすことになってしまったものの、後進のために競技そのものを維持し続けられるよう精力的に動いた実績は「後輩想いの兄貴の理想像」として高く評価された。そして2020年東京オリンピックでのソフトボール復活が決定すると現役続行の意思を見せ、その言葉通りに東京オリンピックではエースとして4試合に先発し、13年前には居なかった藤田倭と後藤希友の2投手と共に13年ぶり2回目の金メダル獲得をけん引した。
- 2011年に通算1500奪三振、通算150勝を達成。2016年には自身8度目となる完全試合、通算200勝を達成。日本四大兄貴の中では最後の現役選手(2021年7月時点)となったが、東京オリンピック1次リーグのカナダ戦で金属バットをへし折る剛速球を披露し、39歳にして「世界最高」を証明、21年の現役生活の通算防御率は驚異の0.67…上野の辞書に「衰え」の文字はない。
澤兄貴(澤穂希/女子サッカー)編集
- 15歳でA代表デビュー、代表の「背番号10」を20年以上継続、国際Aマッチ得点数は男女合わせて日本一、オリンピック4回出場、ワールドカップ6回出場というレジェンドクラスの実績を挙げているだけでなく、30歳を超えてなお「長友佑都の運動量、本田圭佑のフィジカル、遠藤保仁の視野の広さ、長谷部誠のキャプテンシー、香川真司の決定力を併せ持つ」とまで称される程のサッカーの実力を持ち続け、そして「苦しい時は私の背中を見なさい」と選手達に言って背中で選手を引っ張れるカリスマ性を持つ女子サッカー界の偉大すぎる兄貴。
- 男子と比べて御世辞にも恵まれているとは言えない日本女子サッカー界を長年支え続け、自身の集大成として臨んだ2011年女子ワールドカップではキャプテンとして日本サッカー界初のワールドカップ優勝に多大な貢献を果たす。さらに同大会では単独得点王、MVP獲得と「トリプルクラウン」という栄誉を達成し、見事同年の「抱かれたい漢No.1」の称号を獲得。さらには同シーズンのFIFAバロンドールをAFC所属選手としては男女通じて初めて獲得し、個人実績でも名実ともに世界の兄貴として君臨。四大兄貴の筆頭格と言っても差し支えないであろう。
- 2015年現役引退。同年8月に元Jリーガーと結婚、ゼクシィの表紙を飾る等、一女性としても伝説を作り始めている。
過去の兄貴候補編集
兄貴という言葉は近年使われだしたため、過去のすさまじい実績を残した女性アスリートには当てはめられることはあまりないが、四大兄貴に負けず劣らずの漢も歴史には多数いる。
- 人見絹枝(陸上)
- 日本人初のオリンピックメダリストであり、非公認および現在は行われていない競技も含めた世界記録は、50m走、60m走、100m走、200m走、400m走、800m走(ただし2位だったため記録としては残らなかった)、走り幅跳び、3段跳び、立ち幅跳び、3種競技にも及ぶ昭和初期のとてつもない兄貴。円盤を大会前に現地で購入して練習後、円盤投げで入賞するなどの伝説を持つ。女子が陸上をするなどもってのほかという時代に「いくらでも罵れ!私はそれを甘んじて受ける。しかし私の後から生まれてくる若い選手や日本女子競技会には指一つ触れさせない」と啖呵を切った格好良すぎる漢である。ここまでの実績を残したにもかかわらず、わずか24歳で夭折。
- 前畑秀子 (競泳)
- 日本競泳の先駆者であり、200m平泳ぎにおいて、オリンピック2大会連続のメダリスト(金と銀)。日本を熱狂のるつぼと化した「前畑がんばれ!」はあまりにも有名。
- 沢松和子(テニス)
- 伊達兄貴の兄貴分。日本初の女子プロテニスプレイヤーとしての道を開き、1967年から1975年まで国内大会192連勝、そしてウィンブルドンダブルスで日本選手が優勝するという実績を残す。その破壊力はすさまじく、日本中にテニストーナメントが開催されるようになり、後輩たちは世界に飛び出すように。そして伊達兄貴へつながる道を作るという大きな影響を残した。
- 伊藤みどり(フィギュアスケート)
- フィギュアスケートの世界をたった一人で覆した津波ガール。全盛時の動画を見れば、他の選手たちとスケーティング時の背景の動きがまったく違うのがわかるほどのスピードと高いジャンプで、スケートの魅力を根底からひっくりかえす。いまだにオリンピックで3回転アクセルの成功は彼女と浅田真央しかいない。その後、彼女の出現により若手育成プロジェクトがスタート。愛知県を中心としたスケート王国が構成され、浅田真央などの後進が育つきっかけとなる。当の本人は2011年に15年ぶり国際大会のリンクに復帰し、マスターズクラスで2位となる。
- 大日方邦子(アルペンスキー)
- 五大兄貴として入ってもおかしくないほどの実績を残すチェアスキーヤー。5大会連続で冬季パラリンピック出場、冬季オリンピック日本代表では出場さえまれというアルペン競技でメダル10個(金2・銀3・銅5)というすさまじい実績をたたき出している。現在は日本代表からは引退しているが、後輩育成のために国内大会への出場は続けている。
- 松本薫(柔道)
- 凋落著しかった2010年代の日本柔道界を支えた兄貴候補。2009年から頭角を現し、グランドスラムなどの国際大会で度々優勝するなどして一気に日本女子柔道界トップの座に君臨。そしてロンドン五輪では金メダルを獲得し、兄貴の直前ステップとなる「ステップ4」に認定された。今後松本が兄貴になるためには実績の継続性だけでなく、凋落する一方の日本柔道界をどれだけ上に引き戻して行けるかが重要なポイントとなる。2016年8年交際した一般男性と結婚し女性としての幸せも掴むが「結婚は覚悟」「妻でもママでも野獣」という漢らしい名言を放ち、兄貴の称号獲得への意欲を見せた。しかし出産からの復帰後の大会で結果が出ず、2019年に引退。兄貴の称号取得はならなかった。
- 伊調馨(女子レスリング)
- 公式戦72連勝・オリンピック4大会連続金メダルなど、アスリート実績は四大兄貴にも決して引けをとらない。ロンドン五輪では足首のじん帯を損傷しながら優勝、しかも「私のレスリングができなかった」と反省の弁を述べるなど「漢の中の漢」といえる豪傑である。しかし2歳上にあの吉田兄貴が君臨し続けており、また伊調自身も吉田との対戦を避けて別階級に鞍替えした過去があることから「吉田兄貴に勝つことが兄貴認定の条件」とされている。伊調は「最も兄貴に近いアスリート」でありながら、「兄貴への壁が最も高いアスリート」であると言われていた。
- 2016年のリオデジャネイロオリンピックにて前人未到の五輪四連覇を達成し、それと入れ替わるように吉田兄貴が銀メダルに終わって現役引退となると、次の2020年東京オリンピックで五連覇を成し遂げて晴れて「伊調兄貴」となることが期待された。しかし2019年の世界選手権出場権を逃したことで五輪出場権獲得はならず、兄貴の称号獲得の可能性も消滅した。生まれた時代があと5年ずれていれば兄貴の称号を獲得できたであろう。だが東京五輪表彰式など節々で垣間見せる華麗な着物姿は、兄貴到達ステップの1つである「たくましさ」と相反している一面もあり、「最も兄貴に近い大和撫子」であったのかもしれない。
- 竹下佳江(バレーボール)
- 1995年、17歳で世界ユース選手権で優勝した翌年にVリーガーに。159cmというバレーボールでは不利でしかない低身長でシドニー五輪出場権を逃した戦犯扱いを受けて一時は引退するも、情熱を取り戻して復帰。類い稀な身体能力にさらに研鑽を重ねて不利を補い、世界も驚嘆するディガー、そしてセッターとして長期に渡り活躍、その後の五輪に3大会連続出場した。
- 乱れてしまったパスから困難な態勢と、驚異的な瞬発力とによって繰り出されるアタッカー想いのやさしいトスは彼女の超能力にして真骨頂。身長159cmにも関わらず、2メートル級の外国人アタッカーを相手にブロックポイントを決めるのもしばしば。このような小柄な体で成される妙技の数々を買われ、親交のある吉田兄貴の父でもあった指導者から、真剣にレスリング転向を打診されたこともあったという。
- 成熟期の2010年の世界選手権と、指を骨折して臨んだ2012年のロンドン五輪で銅メダルを獲得。全日本女子バレーボールチームの最低迷と復活の両方を経験した生き証人である。後輩から厚く慕われる人格とストイックな姿勢は苦難の経歴で磨かれた賜物で、引退後の現在はバレー界のリーダーとしての活躍も期待されている。強いリーダーシップと共に「兄貴への到達ステップ」5段階のすべてを踏んでいるが、やはり小柄な印象のためか、兄貴認定は見送られている。
- ちなみに吉田兄貴の他、伊調兄貴候補とも親しい。さらに、澤兄貴からは五輪の選手村で「友達になってください」と声をかけられ以降、現在に至るまで深い友情を結んでいる。二人での呑み会は女子会ではなく「おっさん会」とは竹下本人の弁。一ヶ月を3万円の生活費で過ごす、時間は守る、など己を律していた現役時代の澤兄貴も竹下とのおっさん会だけは楽しかったようで酒が進み、終電を待ちながら線路に吐いてしまったこともあったという。
似て非なる用語編集
- 男女
- 見た目や態度などが「男っぽい」女であるという、ただの蔑称。敬称である「兄貴」とは似て非なるどころか正反対の意味である。
- 男勝り
- ただ単に力強かったりタフだったりするだけであり、これだけでは「兄貴」の称号を得るには到底及ばない。
- 女の中の男
- 上2つに比べると比較的「兄貴」に近い表現だが、「男」という単語がある時点で甘いと言わざるを得ない。上記の四大兄貴はいずれも「漢」であるのだから。
- 男の中の男
- 同上。
- スーパー女性
- 一見妥当な表現のように見えるが、実は「染色体異常の一種」という医療用語である(Wikipediaより)。間違ってもこの表現は使ってはならない。